エチオピアの難民キャンプでPCVワクチンを準備するMSFスタッフ(2015年3月)

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 国境なき医師団(MSF)は4月23日、ワクチンの価格に関する世界規模のキャンペーン「A FAIR SHOT(適正価格の予防接種の意味)」を開始する。製薬大手のグラクソ・スミスクライン社およびファイザー社に対し、開発途上国の子ども向けの肺炎球菌ワクチン(PCV)の価格を引き下げ、より多くの子どもたちが致命的な感染症から守られるよう求めるとともに、ワクチン価格の透明性向上を求めていく。

企業に対する直接要請と、SNSで世論を喚起

 キャンペーンは途上国における子ども1人あたりのPCV接種費用を5米ドル(約600円、1回1.66米ドル=約200円で3回接種)以下に引き下げるよう、両社に要請するとともに、各国が適正な価格でワクチンを購入して予防接種を実施できるようにするため、両社が販売先の国ごとに設定している価格を公表するよう求めるもの。

 皮切りとして、MSFは23日に米国ニュージャージーで開催されるファイザーの年次株主総会に出席、会場で質問をすることで、PCVの価格公開を取締役会に要請する。合わせて、ワクチン価格の秘匿性を指摘する文書を手渡す予定だ。

 また、24日より始まる世界予防接種週間を前に、ソーシャルメディアを駆使して、キャンペーンへの支持を公に呼び掛ける。ツイッター上では一部を黒く塗りつぶした挑発的な情報発信でワクチン価格の情報不足を指摘し、製薬企業に透明性向上をさらに強く迫っていく(ハッシュタグ:#AskPharma)。

※キャンペーンの進捗と写真などはこちらのサイトで発信する(英語):http://afairshot.msf.org/

製薬企業の秘匿性が、適正な予防接種の実施を阻む

 MSFは1月に発行した報告書『焦点を変える』第2号で、最貧国における子ども1人あたりの予防接種費用が2001年から2014年の間に68倍まで膨れ上がり、世界の多くの場所で高価な新ワクチンの調達が困難になっていると指摘した。特にPCVは高価で、総費用に占める割合が高い。肺炎球菌感染症は年間約100万人の子どもの命を奪い、5歳未満児の死亡原因の15%(2013年)を占めるが、ワクチンによって大部分は予防できる。

 予防接種費用高騰の要因としては、ワクチン価格の設定に関する情報がごくわずかしか公開されておらず、価格の比較ができないため、途上国と人道援助機関・団体の多くが製薬企業との交渉において不利だという点が挙げられる。製薬企業からワクチンの購入価格を公表しないという機密保持契約を迫られる国もあり、約45ヵ国でPCVの価格情報が入手できない。こうした価格設定の秘匿性と不透明性が、各国政府が適正価格でワクチンを調達できない原因となっており、また、富裕国よりも一部の中所得国が肺炎球菌ワクチンに多額の対価を払うという理不尽も生じている。MSFの調査では、チュニジアの支払額はフランスよりも高く、南アフリカ共和国の支払額がブラジルの約3倍に及ぶなど、国によって何倍もの差があることがわかっている。

 MSF 必須医薬品キャンペーンのエグゼクティブ・ディレクター、マニカ・バラセガラム医師は 「余りにも多くの子どもが肺炎で呼吸困難に陥り、亡くなる様子を目にしてきた医師の集団として、私たちは子どもの命を思いやる全ての人にMSFの要請に対する賛同をお願いします。製薬企業の秘匿性は驚くほど高く、公正なワクチン価格の交渉はできません。人命を救う薬の価格情報が秘匿され、各国が適正価格のための交渉で暗中模索する現状は理不尽です」と訴える。

 MSFは、主にはしか、髄膜炎、黄熱病、コレラなどへの対応として年間数百万人にワクチンを接種。また、母子保健プログラムでは定期予防接種を支援している。2013年だけで、670万回を超えるワクチンおよび免疫製剤を提供した。肺炎球菌結合ワクチンはこれまでのところ、緊急対応での使用目的で調達。2013年、南スーダンのイダ難民キャンプで同ワクチンと5種混合ワクチンを接種し、翌2014年にはウガンダとエチオピアの難民を対象に類似の予防接種活動を行った。MSFは、定期予防接種関連の活動向上を主眼に、肺炎球菌結合ワクチン等の導入規模を引き上げるとともに、人道危機の環境で用いるワクチンの範囲拡大を進めている。

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