白鵬 (写真:二宮渉/フォート・キシモト)
大相撲五月場所が各力士の健闘により、素晴らしい盛り上がりの中で終了しました。近年は満員御礼が土日しか出ない場所もあったものの、今場所は満員御礼10回を数えるとのこと。僕自身も千秋楽を観戦しましたが、相撲人気の盛り上がりはヒシヒシと肌で感じています。

そんな中、場所の余韻に土をつけるような話題が。何でも、白鵬が毎場所後恒例となっている月曜朝の優勝力士インタビュー取材を断ったというのです。表彰式でいつもなら口ずさむ君が代を歌っていなかったように見えたなどの話も飛び出し、すわ何かご立腹なのではないかと、世間も謎解きに躍起になっています。

特に本命視されている見解が、千秋楽結びの一番で日馬富士コールが起きたことに対して怒ったのではないか、とするもの。なるほど、直前の一番で稀勢の里が勝ったときはまれに見る大盛り上がりでしたし、日馬富士コールも確かに起きていました。白鵬にしてみれば、面白くはないでしょう。

しかし、そんなことで、あの横綱が激おこになり、半ば公式行事とも言えるインタビュー取材を断ったりするものでしょうか。

長くひとり横綱として土俵を守り、東日本大震災のあとには支援活動に飛びまわり、休むこともなく、慢心や不摂生でチカラを落とすこともなく、むしろほかの力士を導くように出稽古などで薫陶する品格・力量抜群の大横綱が、そんな小さなことで怒るとは信じがたい。

そもそも、あの展開で日馬富士を応援して何が悪い。あそこで日馬富士が勝てば優勝決定戦が見られるのです。一番ぶん儲かるのです。コールをしたり座布団を投げたりする行為そのものは僕もしませんし、目立ちたがりで下品な感じはありますが、あの一番で日馬富士を応援するのは当たり前のこと。稀勢の里が優勝を争っていたわけでなくとも、もつれた展開になるよう期待するのは普通のことです。それは大横綱への敬意とはまったく別の話。

今年の初場所・十四日目、稀勢の里と鶴竜の取組でのこと。白鵬を星ひとつの差で追う鶴竜が敗れれば白鵬の優勝が決まるという場面で、場内には鶴竜コールが起こりました。「稀勢の里への贔屓の引き倒し」がすべてであれば、そうはならないでしょう。

最後の最後までもつれる優勝争いが見たい。熱い展開になってほしい。その願いが「優勝29回」の白鵬に対して「白鵬が負けたらもつれるのだが」「白鵬が負けたらいつもと違うことが起きるのだが」という期待感となって表れるのは仕方ないことでしょう。横綱・北の湖などは強すぎて面白くないがために「負けろ」とまで野次られたもの。負けを期待されるのは、それだけ強さを認められているということです。

件の日馬富士との取組にしても場内には日馬富士コールだけでなく白鵬を応援する声援も多数ありました。そして、勝って白鵬が優勝を決めたあとは場内に大きな拍手が起こりました。それは、ひとつ前の稀勢の里の勝利ほどには大きくなかったものの、決して落胆の「ため息」ではなく、大横綱の強さを改めて実感し讃えるものでした。白鵬がそれを汲み取ってくれないとは思えない。

国籍云々で贔屓の引き倒しをする好角家ばかりなら、現在のような大相撲人気の回復はないでしょう。何せ、日本出身力士の優勝は2006年初場所の栃東以来なく、日本人横綱は2003年の貴乃花引退以降ないのですから。日本出身力士の勝利に気持ちよくなりたいだけなら、もうとっくに客は去っているはずです。

動画:大相撲五月場所千秋楽、白鵬が29回目の優勝を決めた一番での場内の様子


(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/