地下経済の大きさの国際比較

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財政破綻したギリシャ国民のポルシェの保有率が世界トップクラスだという。ポルシェはドイツ製高級スポーツカー。看板モデル「911」の日本国内価格は1000万円を超える。なぜそんな不条理がまかり通るのだろう。

4つの大きな要因が考えられる。まず「経済のインフレ体質」。ギリシャはユーロ加盟前、ドラクマという独自通貨を使用していた。そのころはインフレ率が高く、1980年代の年間平均の消費者物価指数上昇率は19.5%に達していた。インフレとは、商品・サービスの価値に比べてお金の価値が下がることだから、ドラクマの信用は低下、お金よりもモノで蓄える習慣がついた。

90年代に入っても11.6%とふた桁を超えていた。2000年代に入ってEUに加盟したことで、ようやく3.3%まで下がったが、それでもインフレ率としては高いほう。ポルシェを買うために多額の借金をしても、時間が経つにつれてお金の価値が下がり、実質的な借金額が減少する。だから高額商品を購入しやすい。

「地下経済の規模が大きい」ことも見逃せない。いくらインフレ体質であっても、収入が少なければ高額商品を買うことはできないが、ギリシャ国民の収入は表経済で得たものと、地下経済で得たものの2種類があると考えられる。

地下経済とは一般市民であれば主に脱税、反社会的組織であれば犯罪行為などで得たお金が流通する隠れた経済活動のことで、表の公式の経済統計には一切出てこない。地下経済の規模はGDP比26.3%(2005年)と推定される。例えば、公務員が定時で仕事を終えた後に観光案内をして収入を得るといった二重就労が日常的に行われていて、領収書のない収入を貯め込み、インフレによって目減りしないうちに貴金属やポルシェに換えているのだろう。このような目端の利く4分の1の国民が地下経済で潤い、4分の3の国民は財政悪化の直撃を受けて耐乏生活を強いられている。

ギリシャに限らず財政状態が悪化しているPIIGS各国は総じて地下経済の規模が大きい(図)。

さらに「雇用制度が鉄壁」なことが浪費体質を助長した。就労者の多くは公務員や正社員という守られた身分で働いている。公務員数を正確に把握した数字はないといわれるが、推計ではギリシャの人口約1100万人に対し110万人の公務員が存在するといわれ、就労人口比では3割近くを占める。

年金制度も充実しているため将来の不安がなく、江戸っ子のように「宵越しの銭は持たない」ことが当たり前だった。OECDの面白い統計がある。加盟国の中でギリシャの労働時間(正社員、非正社員を含む)は1番長いのである。私たちは「あのギリシャ人が?」と奇異に思うが、正社員の労働時間はフルタイムでカウントされるので、正社員の割合が高い国ほど労働時間が長くなる。全労働者に占めるパートタイマー比率(08年)はギリシャが7.8%、日本は19.6%である。ギリシャ人が勤勉というわけでは決してない。

■すべての根底には「ラテン気質」がある

そしてなんと言っても、物事をあまり悲観的に捉えない「ラテン気質」(言語面では違うが)という国民性が大きく影響している。PIIGSのほとんどが南欧寄りの地域でありラテン気質が支配している。そのおおらかさが国や個人の放漫財政と消費につながっているのだろう。

日本の状況はギリシャの真逆である。日本も膨大な財務残高を抱えていてGDP比では200%に近い。国民は将来を不安に感じ老後に備えて貯蓄に励んでいる。その1人ひとりの行動は正しくても、全体としてみると「合成の誤謬」となり、消費が縮小し景気が悪化する悪循環となる。ギリシャを見習えとは言わないが、もう少し楽観的に消費を増やしたほうが、日本経済にはプラスだろう。

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BRICs 経済研究所代表 門倉貴史
1971年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、銀行系と生保系のシンクタンクを経て、2005年より現職。日本初の地下経済学の専門家。近著に『日本人が知らない怖いビジネス』。

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(BRICs 経済研究所代表 門倉貴史 構成=山本信幸)