アパグループ CEO 元谷外志雄

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稼働率100%超、利益率50%超……高コスト体質であるホテル業界にあって最高水準の利益をたたき出し続ける理由は何か。東京オリンピック開催を見据え、異業種が続々と参入する驚異の高収益業界ビジネスホテルの光と闇に迫る!

■やるからには天下を取る

ビジネスホテル業界を席巻する超大手たちはどのようにその地位を築き、どのような戦略を練っているのだろうか。

東京都港区赤坂。ここにひときわ目を引くビルがある。「私が社長です」というテレビCMでもおなじみの元谷芙美子社長の巨大な看板を掲げるアパホテルの本社である。

「スタートしたのは金沢でしたが、やるからには天下を取るつもりだった」

そう語るのはアパグループの代表、元谷外志雄だ。芙美子社長が広告塔となり爆発的に知名度を上げる一方で、元谷代表の大胆な経営戦略により、アパグループは急激な成長を遂げている。

「天下を取るために、ホテルチェーンや会員システムをつくろうというふうに最初から構想していた。今では会員が584万人。これを800万人にしたい。ちなみに第1号会員は私。2号は社長である私の妻です」

ビジネスホテルの会員制は今となってはさほど珍しいものではない。現在でも各社が顧客の囲い込みのため、様々な戦略を打ち出している。そんな中で元谷が目をつけたのが出張族だ。

「ビジネスパーソンの誰もが出張するわけではない。エリートである5%の出張族ばかりが何度も何度も出張を繰り返している。この出張族を、いかにしてヘビーユーザーとして獲得するかということを考えました」

たどり着いた答えは非常にシンプルなものだった。キャッシュバックだ。

「ホテルを選ぶのは出張する本人ですが、そのお金を払うのは会社です。そこが切り込みどころだった。10%の現金キャッシュバックによって、経費で1万円使えば、本人に1000円が入る。このキャッシュバックを確定申告で出したという話も、奥さんに渡したという話も聞いたことがない」

元谷代表はそういって笑う。

アパホテルの特徴の1つとして、異例の出店速度がある。リーマンショックにあえぐ同業者が多い中でも続々と出店を続けた。なぜこれだけ強気の出店が可能なのだろうか。

「うちは東横インさんのようにオーナーから土地を借り上げたホテルとは違う。物件は自前ですから徐々に償却します。そうすると簿価利回りが1年1年上がってく。だから初めの投資は大変ですが、そのあとはジャンジャン簿価が貯まっていって、結果として楽になります。一方で賃貸借の場合、家賃に左右されてしまうし、特にひどいのはファンドバブルの頃に建てられた物件で、最初から家賃がとんでもなく高い。だから私は所有にこだわりますし、自分の会社の金で建てるから、銀行と相談する必要もない。出店スピードは他社とは比較になりません。ちょっとでもいい土地を見つけたら、すぐに現金で契約してしまう。ホテルの建設などは銀行からの借り入れも利用しますが、ビジネスホテルの基本は好立地を押さえること。そのために銀行の決済を待つのは時間の無駄です」

アパホテルは次々と超好立地を押さえ、出店を続けている。駅から徒歩3分は当たり前、歩いて1分、2分といった物件も珍しくない。「通常はホテルの立地ができない、川の上やうなぎの寝床のような場所でも、建築に詳しいアパはホテルを建設してしまう」(ビジネスホテルに詳しい関係者)という。さらにホテル予約サイトでの戦略でも抜け目がない。

「アパホテルではネットに強い人間が支配人になる。出張族は宿泊先をネットで予約します。ネットを使えば近隣で1番安いホテルはすぐにわかる時代ですから、うちは近隣のライバルを調べ、そこより100円でも安い料金設定でネットに掲載する。当然、料金は目まぐるしく変わります。例えば八百屋さんで朝と夜の大根の値段は違うでしょ。朝は高くて、昼になると半額、夕方になるとタダでもいいから持って帰ってくれ、となる。向かいのスーパーよりも高い大根が売れますか。満室が予想できる日には客室料金を高く設定するのも同じ理屈です。料金の上限は私が考えますが、あとは現場の判断、支配人の力量次第になります」

圧倒的な体力と変幻自在の料金設定でドミナント戦略を推し進めるアパホテル。元谷代表は今後の見通しについてこう語る。

「東京のアパホテルは連日満室です。昼間だけ部屋を使う人もいて、1つの部屋が1日に2回売れることも珍しくない。結果として月間稼働率100%超えを達成しています。今後、東京はまだまだ伸びるでしょうね。国内・国外を問わず観光客もどんどん増える。2000万人来たっておかしくありません。オリンピックだって私は東京での開催を確信していました。だからどんどん出店する。地下鉄駅1つごとに1店舗つくってもいい。それを可能とする資金も十分にある」

■おもてなしは海外で通用するか

乗りに乗ったアパホテルに対して他社はどのように迎え撃つのか。元谷代表も例に挙げた、最大手として業界を牽引してきた東横インの場合はどうだろうか。東横インといえば、一時期ニュースを騒がせた、創業者である西田憲正の強烈なキャラクターが思い起こされる。その西田について、実の娘でもある黒田麻衣子社長は「本当に尊敬しています」と語る。

「それまでのビジネスホテルには安かろう悪かろうというイメージがつきまとっていました。それを清潔で、安心で、しかもリーズナブルな価格で提供したのが西田です。わが社の魅力は創業者西田だと言う支配人もいます。やきもちも焼きつつ、まあそうだろうなと思うんですよ」

先の元谷代表の発言の通り、東横インはアパホテルと異なり、自らは物件を所有せず、オーナーと賃貸借契約を結び、経営を行っている。アパが1人勝ちする中、その方針に今後変更はありうるのか。

「これまでの路線を変えるつもりはまったくありません。うちはオーナー様が手を挙げない限り出店はできませんから、アパホテルさんのようなスピードでの出店は不可能です。でもそこが私たちの生きる道です。私どもが出店するような駅前の土地を所有しているのは地元の名士が多いんです。そうなると、オーナー様だけではなく、地元の方々がわれわれの応援団になってくださる。大家といえば親も同然、店子といえば子も同然という言葉がありますが、それを地で行くのが東横イン」

東横インは地元のオーナーと関係を築き、支配人をはじめとする従業員を地元で雇用する地元密着型の経営だという。会員もまた、黒田社長にとっては応援団の一員だ。

「多少駅から遠くても東横インを選んでくださる。リーマンショックで稼働率が落ち込んだときにも、会員の皆様のおかげで持ちこたえることができました。東横インは女性支配人が多いですから、女将としてのきめ細かなもてなしが功を奏しているのでしょう」

こうして多数の応援団を抱える黒田社長は海外に展望を見出す。

「既に韓国に出店していますが、来年度にはカンボジアにも出店予定です。海外にはビジネスホテルという業態がほぼ存在していません。韓国でも、われわれが出店する前は高級ホテルとモーテルの二極化といった状態でした。出店直後はなじんでいただくまでに相当の苦労をしましたが、今では稼働も上々です。日本型のおもてなしというのは、海外ではなかなか見られません。ビジネスホテルの中でも日本型のおもてなしを重視しているのが東横インの強みです。海外でも通用するはず」

(文中敬称略)

(唐仁原俊博=文 小倉和徳=撮影 PIXTA=写真)