大いに称賛されるべき銀メダル獲得。だが、その歓喜の中で、何ともいえないやるせなさが残ったのはあの「誤審」のせいだろう。何しろW杯に続く連覇を達成していたかもしれないのだから。相手選手も認めた反則に抗議できなかった痛恨の理由とは─。

 午前3時45分からの放送にもかかわらず、最高視聴率24・8%(関東地区、ビデオリサーチ発表)をマーク。日本中のファンが凝視する中で、問題のプレーは発生した。

 8月9日のサッカー女子決勝戦。昨年のW杯決勝でも激突したアメリカに1点を先制された前半26分、キャプテン宮間あや(27)が蹴ったフリーキック(FK)のボールを、ペナルティエリア内の相手MFヒースが左腕で止めてしまう。その瞬間、澤穂希(33)、川澄奈穂美(26)ら数人がヒースを指さし、「ハンド!」と声を上げた。だが、ドイツ人の女性主審は笛を吹こうとしない。これには佐々木則夫監督(54)も苦笑いしながら両手を広げ、納得いかない表情だ。結局、そのままプレーは続行。本来なら日本にPKが与えられ、成功すれば同点となって勢いづいたはずなのだが‥‥。

 ドイツ紙「ヴェルト」はシュタインハウス主審によるこの「大誤審」を〈五輪決勝で失敗した〉との見出しで大々的に報じている。

〈シュタインハウスはハンドの反則をとらなかったため、日本は銀以上のメダルを獲れなかった〉

 さらに対戦国アメリカでも「USAトゥデー」紙が、

〈リプレイ映像を見ると明らかにファウルであり、日本にPKを与えるべきものだった。それは日本に同点をもたらす絶好の機会となるはずだった〉

 という記事中で、先制弾のMFロイドの「あれはまぎれもなくハンドだった。彼女の腕に当たっていたから。まぁ、サッカーってそんなものよ」という証言も紹介しているのだ。

 この主審、先の「ヴェルト」紙によれば、

〈世界でも優秀な並外れた審判である〉と高評価で、

「ドイツの男子プロリーグで、女性として初めて笛を吹いた人物。本職は警察官で、そこそこ美人だし、ファンクラブもあったそうです」(サッカー担当記者)

 なでしこ関係者によれば、

「試合後、宮間は『あれは絶対にハンドだ!』と不満を爆発させていたそうです。澤など他の選手数人も『おかしいよね』と」

 それならなぜ、ハンド直後に抗議しなかったのか。正式に抗議する権利を持つ選手はキャプテンだけであり、宮間がその役割を担う。が、背後には佐々木監督の「ある発言」があった。

 一次リーグ最終戦の南アフリカ戦を前に、佐々木監督は「2位狙い」を公言。1位通過では、準々決勝の会場は移動が1日がかりになるイギリス北部のグラスゴーになる。そのロスを考慮した「作戦」だった。事実、なでしこはスコアレスドローで、F組2位通過を決めた。サッカー協会関係者が語る。

「この2位狙い発言を問題視したFIFAが、規律委員会にかけるべきかどうかを話し合いました。結果的にそれは見送られましたが、日本としては借りを作る形になり、強く抗議しづらいムードにハマッた。全ては監督発言から始まったと言えるでしょう」

 こうした及び腰を後押しする「下地」もあった、とサッカーライターは言う。

「なでしこはW杯で『フェアプレー賞』をもらい、日本サッカー協会から『汚い抗議をするな』という方針を示されている。それと、なでしこリーグの審判は草サッカー並みにレベルが低い。スローイングはオフサイドにならないのに、オフサイドを取ったり、あまりにヘタすぎて選手がアキレ返り、『こんな審判に文句を言っても何も始まらない』というのが共通認識。審判への抗議を諦める体質がしみついていて、あの大舞台でも二の足を踏んだ」

 実はシュタインハウス主審は後半2分にも、重大な「誤審」をしている。またもや宮間のFKに合わせ、DFの熊谷紗希(21)がゴール前に飛び込んだシーン。熊谷をマークするアメリカ選手が背後から熊谷に抱きつき、プレーを妨害したのだ。日本サッカー協会国際審判員が憤慨する。

「このホールディングの反則を取らなかったほうがコトは重大。一発退場でPKも、というケースだからです。1試合で得点につながるシーンを複数見逃すのは、主審としてマズすぎる。国際試合でこんな誤審をすれば、二度と大舞台で笛を吹けなくなるのでは」

 佐々木監督は試合後、「一瞬アレッと思ったけど審判をリスペクトする」

 と、爽やかコメントを残した。だが、日本の外交同様の弱腰が「2点」を失い、金メダルをみすみす逃したとしたら‥‥何とも複雑な心境なのである。