人生は常に二律背反でございますのことよ奥様!
 
 ってことでこの試合に関する感想はタイトルのとおりです。12年ぶりに、等々力陸上競技場で川崎フロンターレを下しました。それも4-1という圧勝で。こんな素晴らしい日はありません。正直この日はあまり体調がよくなくて、チケットは買ったもののギリギリまで生観戦かテレビ観戦かを迷っていましたが、押し切って生観戦にして大正解でした。



 サンフレッチェが誇らしかった。山岸智の見たこともないような左足グラウンダーのシュート、佐藤寿人の飛び出し、石原直樹の献身、高萩洋次郎のひらめき、ミキッチの無慈悲なまでの右サイド制圧、千葉和彦の高速クサビ、西川周作の鬼セーブ、青山敏弘の鬼サイドチェンジ連発、森崎和幸の知的すぎるインターセプト、暴れる鶏を絞めるような水本裕貴のカバーリング、森脇の備後ルーレット、もうあれこれが。

 特に、前節は顔でミドルを決めた男・森脇良太が今度は顔でルーレットを決めたということで、なぜか笑い声も交じるという素敵なプレーになっております。



 川崎に、どれだけ煮え湯を飲まされてきたか。川崎戦の前には「ここで負けても落ち込むべきではない、いかに切り替えるか」とか予防線を個人的に張ってきたり、寝る前にジュニーニョやヴィトール・ジュニオール、チョンテセの顔を思い出して軽く戦慄したり、0−7で蹴散らされたり、おもしろ退場で森脇やミキッチがいなくなったり、イーブンの試合だったのにカウンター3発で沈められたり……。

 工夫して弱者なりの戦術を組み立てても、中村憲剛に操られた猛禽類たちにチカラでねじ伏せられるのが川崎戦の常でした。まさか、こちらがチャンスの数でもシュート数でも(http://www.tbs.co.jp/supers/game/20120428_12167.html)実際の得点差でも圧倒して勝つなんて、なかなか信じられない光景でした。2012年4月28日は、サンフレッチェ広島の歴史に刻まれる一日となるでしょう。個人的にも忘れられない試合です。

 で、同時に可及的速やかに忘れるべき試合でもあると思います。ustreamでもいろいろ喋ったんですけど、なんせ風間八宏監督就任後4日目ということで、まあいろいろアレでした。喋った内容をもう一度書くのって若干億劫ですが(笑)、かいつまんで書くと、風間監督はまず「攻撃」から手をつけてきました。停滞したチームを立て直すのはまず守備から、セオリーとは真逆といえば真逆です。

 稲本潤一をCBに、左サイドバックに田中雄大、右サイドバックに伊藤宏樹、ボランチには中村憲剛を起用し田中裕介をやや前目に配置、1トップに矢島卓郎、3シャドー気味に楠神順平、山瀬功治、小林悠を並べポジションチェンジを多用した攻撃をやってきました。広島にとっては、この3シャドーの出入りを前半はなかなか捕まえきれず、また彼らの狭いスペースに入る動き、もらい方、足元の技術も高かったため、バイタルにやすやすと侵入されてヒヤリハット事例を何度も作られました。

 このあたり、風間八宏サッカーの色が早速出たのかなという気がします。攻撃に関して、川崎はこのサッカーを突き詰めていけば(得点という)結果は出てくるのではないでしょうか。実際、狭いスペースで生きる選手(楠神、山瀬)、裏を突ける選手(小林)、身体を張れる1トップ(矢島)、彼らを操る中村憲剛が2.5列目にいるというのは、バランスもいいしかなり捕まえにくい布陣です。前半に関してのみですが、1失点目のように完全に崩されたシーンというのは今季あまり記憶にありません。それほど川崎の攻撃のクオリティは高かったと思います。

 が、それらの可能性を帳消しにするほど守備がアレで。まあ4日目でしかも「攻撃」に手を付けた分、しわ寄せがどこに来るかといえば守備になるわけですが、広島の1点目のように右サイドバックが中に絞った際に誰が山岸を見るのか整理されていなかったり、2点目のようにカウンターのリスクヘッジができず高萩を完全にフリーにし、2対2となり、石原直樹のダイアゴナルランに稲本が全く対応できずに振り切られたり。
 
 3点目のようにボールサイドに寄りすぎて大外のミキッチを完全にフリーにしたり、そのミキッチのクロスに飛び込む佐藤寿人に稲本が完全に振り切られたり、4点目のように青山のサイドチェンジに対して全くケアする選手がおらず森脇をフリーにしたり、そこからのファン・ソッコのクロスに対してまたしても稲本が振り切られたり、まあ上記の登場回数かつ佐藤寿人のコメントからも明らかなように稲本CBは佐藤・石原にとって格好の標的になっておりました。また、左サイド田中雄に関してはミキッチにボロ雑巾のようにされていました。

 一応書きますと、サッカーはチームスポーツですから、稲本や田中雄のプレーに問題があったことは事実としても、そこに至るまでの経緯にはもっと問題があったように思います。広島に関してはとにかくスペースがあるとき、そこに入り込む選手、突破する選手、FWをうまく使う選手が揃っています。川崎はあの時点でプランBがないというか、風間監督のコメントのようにボールを持って攻める以外のことは本当に何も整理されていない印象を受けました。

 しかし、ああした守備のままでは別に広島だけでなく多くのチームの標的になりますし、川崎の選手たちもバカではないのでリスクヘッジをきちんと取ると思いますので、つまりあれほど混乱した状態の川崎はもうないのでは、と思います。じゃあこれ以降風間監督の元でチームが強くなっていくか、それは確言できませんが。なんせ練習も見てませんし、この大敗でチーム内の雰囲気がどうなるかもわかりませんし。

 お読みいただいて「川崎の話ばかりじゃん」と思われるでしょうが、まあそういうことです。広島が得た結果、プレーの質は本当に素晴らしかったですが、ここまで守備が混乱した相手に4得点というのは少ないですし、実際あと4点は取れるチャンスがあったと思います。8点を取れば得失点差も大きく有利になり、川崎に苦手意識を植え付けることもできたはずであり、一方でこのような試合が今後は起こり得ないであろうと考えれば「忘れられない、かつ速やかに忘れるべき勝利」というのが妥当なところではないかと愚考する次第です。

 ええ、上記のような冷め切った意見は、試合後のアウエーサポーター席やUstreamでさんざん熱く語ったからこそでございますことよ。嬉しくないわけがないじゃないか!(笑)。