全原発停止が間近なのに、六ヶ所村のMOX工場が工事を再開するのはなぜ?

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東奥日報の「六ケ所MOX工場が工事再開」という記事(2012年4月3日付)を読んで、驚いた。というか、開いた口がふさがらなくなった。日本には商業用の原子力発電所が54基ある。うち、「重大事故」や「震災停止」、そして「定期点検」などで53基の原発が停止中。稼働中の北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)も、この5月には定期検査のため停止する予定だ。

つまり、日本は「全原発停止」の状況になりつつあるのである。電力の需給バランスや世論の原発への関心、そして政治家らの判断によっては、再稼働せざるをえない原発があるかもしれない。とはいえ、そういった再稼働の可能性を考えることと、いまなぜ原発がすべて停止するような事態になっているのかという事情とは、分けて考える必要があると思う。

原発が全停止になるにいたった最大の理由は、福島第1原発の事故にあることはいうまでもない。原発事故が起こるといったいどうなるのか。私たちは昨年の3.11以降、そのことを身をもって体験してきた。昨年の夏場や今年の冬場は、原発なしの電力供給で生活を送るべく、節電を意識した読者もたくさんいることであろう。

ようは、いま私たちが考えるべきことは「原発を再稼働させるかどうか」なのであり、再稼働させてからどうするのかは、「させる」と決めてから考えても遅くはない。にもかかわらず、原発が再稼働することが前提となるMOX工場の工事が再開するという。これはたとえれば、走らせるべき車が止まっているのに、燃料だけ作ろうとするようなもの。記事の見出しを読んだときに、すこし遅れたエープリールフールのブラックジョークか、と筆者は思ってしまった。

ウランを原発で燃やすと使用済み核燃料がでる。その核燃料からプルトニウムを取り出し、だいたい「プルトニウム(1):ウラン(9)」の割合でMOX燃料を作る。それを高速増殖炉に入れると、投入した量を超えたプルトニウムが生産され、かつ発電もできる。ウランの使用量も1割減る……。そんな夢のような話が、1960年代後半から原発関係者で語られてきた。いわゆる「プルサーマル計画」である。

しかし、その夢は1995年の高速増殖炉もんじゅの事故で頓挫した(もんじゅは2010年に再稼働したが、すぐに停止して現在にいたる)。MOX燃料を活用すべき日本唯一の高速増殖炉が止まってからも、MOX燃料は普通の原発のいくつかで使われてきた。だが、普通の原発でMOX燃料を使っても、高速増殖炉のようにプルトニウムは生産できず、高レベル放射性廃棄物を生み出すだけ。

原発を稼働したら必ず発生する高レベル放射性廃棄物。その処理については、すでに行き場がなくなりつつあるという問題があるのだが、その話は別の機会にしよう。ここで問題にしたいのは、MOX燃料を作ってもそれを活かせる施設がないのに、なぜいまMOX工場の工事を再開するのか、ということだった。繰り返すが、誰も運転していない車に、燃料だけ供給しても意味がない。小学生でもわかりそうな道理だが、日本原燃にはそんな道理も通用しないのか。

百歩ゆずって、脱原発政策の元に少数の原発の再稼働が決まったとしても、MOX工場の工事再開は、その政策が決まってから検討しても遅くはない。いや、プルサーマル計画が実現困難な中で、莫大な費用をかけてMOX工場を建てるべきかどうかということ自体が、慎重に検討されるべきである。

(谷川 茂)