■ダルビッシュと杉内から学んだ“エースの秘密”

【江夏】ところで、オフには今年からメジャーへ行くダルビッシュと一緒に練習したそうだね。どういうことを学んだ?

【澤村】もちろん投げ方も学びましたし、食事の面も勉強になりました。ダルビッシュさんの場合、一日のスケジュールが全部書かれているんです。リンゴ1個、バナナ1本にしても、何時に食べるって全部決まってるんです。

【江夏】それはまた……すごい話だな(笑)。

【澤村】徹底的に栄養を管理しているんです。それにトレーニングもすごく厳しくやりますし、体のケアも怠らない。あれだけのピッチャーがそこまでやるなら、プロ1年目が終わったばかりの自分は、それ以上のものを考えてやっていかないととても追いつけない、追い越せないと感じました。

【江夏】われわれの時代の感覚からすると、そこまでやるのは苦しいと思ってしまうけれど、“日本のエース”と呼ばれるピッチャーから学べたのはよかったと思うよ。エースといえば、今年はチームに杉内が入ってきたよね。右と左の違いはあるにしても、参考になる部分はある?

【澤村】正直、初めて杉内さんを見たとき、失礼かもしれませんが、プロ野球選手としては体が小さいかなと……。

【江夏】決して恵まれた体ではないよな。それでも、ピッチャーとしての技量はかなり高度。いい投げ方で、いい結果を残す。

【澤村】はい。138キロのボールをプロの一流バッターが空振りしたり、ファウルにするというのは、何か飛び抜けたものがあるからだと思うんです。それで、実際に間近でピッチングを見たとき、体重移動の時間がすごく長かったので、これは見習わなくちゃいけないなと思いました。

【江夏】ボールを長く持っているということ?

【澤村】そうですね。ゆったりしたところから、ヒュッとボールがいく。どちらかというと勢いでいくタイプの僕とは真逆なんですけど、球持ちのよさ、体を大きく使うところを勉強させてもらうために、ブルペンでは食い入るように見ています。

【江夏】他人のフォームをまねするというわけじゃなく、いい部分を盗むこともプロとして大事なことだからね。さあ、チームの投手陣の環境も変わった今シーズン、2年目のあなた自身の目標は?

【澤村】まず1年間、ローテーションを守ることと、200イニング以上は放ることです。それと、僕の背番号は15なんですが、最低でも15は勝ちたいですね。

【江夏】15勝で、負けは?

【澤村】負けは5くらいです。

【江夏】15勝5敗だったら、例えば30試合に先発したとして、あとの10試合はどうしたの?

【澤村】えーと………勝ち負けつかずの10試合です。

【江夏】それは困るぞ(笑)。先発した限りは勝ちか負けか、どちらにしてもきっちり自分で責任を取らないと。ということは、もっと勝ってもらわんとな。15じゃ少ないよな(笑)。

【澤村】はい(笑)。

【江夏】30試合だったら20近い勝ち星で、負けはひとケタ。それが理想であり、目標にすべき数字だと思うよ。じゃあ最後に、あなたにとってエースとは?

【澤村】チームに貯金をつくれるピッチャーです。より多くの貯金を。

【江夏】それで完投も10近く、イニング数は最低200以上。ぜひ、そういうピッチャーになってくれよ。今日はありがとう。

【澤村】ありがとうございました!

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 実に素直で、ハキハキとした好青年。あらためて澤村という男に好感を持った。聞けば、彼は過去に肩、肘の故障経験がないという。今の時代、先発投手の球数は100球がメドとされるが、彼はそんな風潮をぶち破ってくれるのではないか。