米メジャーリーグでも春季キャンプが始まったが、最も注目度が高いのはやはり、テキサス・レンジャーズダルビッシュ有だろう。
 現地時間で23日、ダルビッシュがアリゾナ州のキャンプ施設に到着すると、日米合わせて50人の報道陣が期待の右腕を迎えた。

 連日のように一挙手一投足が取り上げられているダルビッシュだが、このままではチームメイトから嫌われる危険性がある。原因は、わが国のメディアだ。

 1995年に野茂英雄が海を渡って以来、わが国でもメジャーリーグの情報が容易に手に入るようになったが、厳密に言えばそれは、日本人メジャーリーガーの動向だ。
 ニュースや新聞は、イチロー松井秀喜松坂大輔上原浩治といった日本人メジャーリーガーが主語で、彼らが所属するシアトル・マリナーズボストン・レッドソックス、レンジャーズなどのチームの情報は乏しい。
 ここ数年間は他の選手も取り上げられるようになったが、それは日本人メジャーリーガーのチームメイトだから。シーズンが始まれば、日本人メジャーリーガーの成績ばかり紹介され、試合結果やチームの順位は二の次、三の次だ。

 取材する記者の興味も、日本人メジャーリーガーのことに集中する。目の前にチームのGMや監督、エース、スラッガー、期待の新人選手がいても、やれ「イチローの新打撃フォームをどう思うか」、やれ「松坂の復帰はいつになるか。はたして復活できるのか」、やれ「松井を獲得してもいいのではないか」、やれ「川崎宗則や青木宣親は、はたしてメジャーで通用するのか」と、日本人選手のことばかりだ。

 たしかに、多くの視聴者や読者はそれを求めている。大半の方が、昨年サイ・ヤング賞を受賞したロサンゼルス・ドジャースクレイトン・カーショウデトロイト・タイガースジャスティン・バーランダーには興味を示していない。むしろ、ダルビッシュが何勝するか、松坂が復活を果たすのかに注目が集まっている。
 野手についても同様に、トロント・ブルージェイズホセ・バティスタ3年連続本塁打王に輝くのかよりも、イチローが再びシーズン200本安打を達成するのかに、強い関心を持っている。
 仮に、スポーツニュースのトップや、スポーツ新聞の一面記事が、日本人選手と関係のないメジャーリーグ情報になったら、視聴率も購読部数も落ちるだろう。

 だが、日本人選手のことばかりを聞かれる選手は、面白くない。大挙してキャンプ地に押し寄せるわが国の報道陣に、少なからずストレスを感じている。
 ストレス発散の矛先はときに、報道陣だけではなく、日本人選手にも向けられる。このことは、アナハイム・エンゼルス(現ロサンゼルス・エンゼルス)、マリナーズで活躍した長谷川滋利も経験している。
 長谷川がエンゼルスに所属していた当時、春季キャンプで日本人カメラマンがダグアウトに侵入し、写真を撮ろうとした。
 これに対しチームメイトは、「ハセガワ。シーズンに入ったら、さすがにこんなことはないだろうな?」と、長谷川に苦言を呈してきた。長谷川も「『お前が来なけりゃ、こんなことにはなっていないんだよ』と言われたようなもの」と解釈した。

 長谷川は、「さすがに今は、こんな珍事が起きなくなったが」としているが、ダルビッシュフィーバーは過熱するばかり。いつ、功を焦った報道陣がルールを破るか、わからない。その余波は、ダルビッシュ当人にも向けられる。

 「日本人選手は、チームメイトから嫌われてしまったら、精神的にもたない」と、長谷川。さらに、「記者との間に良好な関係を築けば、より日本人選手が活躍できる範囲が広がる」と言う。

 メディアは独自の最新情報を伝えるのが仕事だが、ルールを破り、ネタ元が潰れてしまっては、元も子もない。