18日の記事"Time has come - Darvish Being Darvish"は中々好評だったようで、「Baseball Journal」のアクセスランキング1位をほぼ丸1日キープ、またLivedoorトップページにも掲載していただきました。ニートが夕方起きてカフェでビール飲みながら2時間で書いた記事がWebでこんな風に多くの人に読んでもらえるのだから、オルタナティブを志向するグラスルーツな物書き・表現者達にとって今日は全く良い時代だと思います。というか、MLBを超えてダルビッシュネタとなるとオーディエンスの反応も変わってくるという。改めてダルビッシュの存在感を痛感、もといジェラシー。同じビッシュなのにこうも違うとは許せ・・・ともかく、多くの方に読んでいただいたようで本当にありがとうございます。




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 ご存知の通りダルビッシュの独占交渉権は、Tronto Blue Jays有力という大方の予想を覆しTexas Rangersが鮮やかに獲得。Rangersがダルビッシュと話をする権利を得るために支払う金額、推定$51.7Mは、おそらくいくつかの小国のGDPを上回る・・・そんな不条理パラダイスな今日のグローバル社会ではあるけれど、このダイナミックなアホさもメジャーリーグの魅力であるわけで。そう、アメリカのエンターテイメント産業ってとにかく華々しくて金にこだわるけど、金出させたものに対するクオリティが半端ないんだよね。スポーツ然り、ミュージカル然り。アメリカ型資本主義が多くの矛盾を内包していることは否定の余地もないが、今日のメジャーリーグやBroadwayは資本主義なしには生まれ得なかった。僕らは貨幣経済に身を委ねて日々生活し、それはしばし疑問や嫌悪を生むが、一方でときには最高に美しく、情緒的で、エキサイティングな、まさしくpricelessな感動や経験を生むこともある。僕にとってはメジャーリーグこそがそれであり、アメリカ社会なしには現在のメジャーリーグは生まれ得なかった。これは資本主義の最も素晴らしい部分のひとつであり、最もクリエイティブな一面であろうかと思うのだ。


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 といわけで毎度の如く話が逸れたが、いよいよ「メジャーリーガー Yu Darvish」がリアリティを帯びてきたわけだ。ここのところアメリカの各メディアでもダルビッシュの話題が上がらない日はないのだが、今日はダルビッシュのNPB時代のStatsについて、専門家達がどのように見ているかを少し紹介したい。2007年以降のダルビッシュの成績はというと、それはもうアンタッチャブルな数字がズラリと並ぶわけであるが、アメリカ人的にはそれはあくまでも日本での成績であり、当然ながらそのままMLBに適用できるものではない。ダルビッシュが日本最高のRock Starであることは既にアメリカでも知れ渡っているが、たとえRock Starといえども純粋に「先発投手」としてMLBでどれくらいやれるのか、というのは当然の議題。数字を眺めて統計的、科学的な根拠を得るまで、アメリカ人は納得しないのだ。

 というわけで以下、MLB.com"The Shredder"によるダルビッシュ徹底分析。







 まずは2007〜2011シーズンのERAおよびWHIP。

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 過去5年間全てERA2.00を切り、さらにWHIP(1イニングあたりに出すランナー)も2010年のみ僅かに1.00を超えるというという凄まじい成績と紹介。中でも今季(2011)のフィーバーっぷりが際立つが、これはNPBの国際統一級(重いボール)導入の影響を多いに受けての恩恵と解釈すべき。流石にこのビデオでは統一級の影響についてまでは触れられていない。


 続いて今度は、MLBトップクラスのスターター達との比較。

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 比較データは、投手の完成度を最もダイレクトに表す数値と認識されているK/BBレート。「このデータはダルビッシュがメジャーのどの投手よりも優れていると証明するものではない。が、とりあえず比較してみよう」と前置きした上で、ご覧の通りダルビッシュのK/BB=7.7は、R.ハラデー、D.ヘイレン、C.リーらをも上回ることを紹介。打者のレベルがグッと上がるメジャーではダルビッシュの数字は"sclae down"するだろうが、それでも"very very good"のレベルをキープできるだろうと指摘している。


 次に目を付けたのは、まだ25歳という年齢と更なるスケールアップの可能性。

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 これは流石の僕も知らなかったが、ご覧の通り2009〜2011にかけて、K/BBレートが年々向上を続けている。年齢的には今まさに旬の選手ではあるが、今後のさらなるスケールアップの可能性をも感じさせる、そんなStatsである。


 今度は、ダルビッシュのMLBでのライバルとなるであろう、同世代の最高級プロスペクト2人との比較。
 
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 NPBのレベルを"better than AAA, but not as good as major league(3A以上、メジャー以下)"と仮定した上で、ダルビッシュのNPBでの成績をM.ムーア(TB)、S.ストラスバーグ(WAS)のAAAでの成績と比較。3人の成績を比べると、ダルビッシュの数字はちょうど他2人の中間くらいであり傑出しているわけではないが、何よりこの2人の若者は"These twe pichters are expected to be... GREAT pitchers in the major league"と言及されている通り、次世代最高クラスの先発投手となることが確実視されている2人。もしダルビッシュがこの2人に遜色ない能力を持っているのだとしたら、それはダルビッシュもメジャー最高クラスの先発投手となる可能性が大いにある、ことを示唆しているといえるだろう。
 

 続いて、CBS Sportsによる過去の日本人投手との比較分析。


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"Darvish much better than past imported pitchers"


 画像が小さくて少し見にくいが、MLBに来る直前5年間の成績をベースに、過去の"imported pitchers"達とダルビッシュを比較している。結論はタイトルの通りでわざわざ説明するまでもないのだが、この表の中では松坂大輔がボストンに行く前5年間で814.2IPしか投げていなかったというデータが少し意外。西武ライオンズ時代の松坂というとそれこそ馬車馬のイメージがあったのだが、実は故障も結構多かったのだ。井川大先生についてはノーコメント。




 最後に、これはStatsではないけれど、ダルビッシュの元チームメートが語るダルビッシュ。



MLB.com 2011/12/20
"Bobby Scales talks Yu Darvish"


 こちらは元シカゴ・カブスで、今季途中から日本ハムファイターズでプレーしたBobby Scalesによるダルビッシュ評。ダルビッシュについて、身体能力、Stuff(球種)、人格ともに申し分ないというお世辞のオンパレードはさて置き、日米のベースボールカルチャーの違いについての話が結構面白い。日本ではエースが背番号11か18を着るという話や、日本ハムは「ミドルマーケットチーム」であり阪神タイガースのようなチームとは環境が異なること、またダルビッシュはポスティングフィーを球団に入れる形でチームに貢献する意思があるであろうこと、それから日米の先発投手の調整方法の違い、甲子園が日本の「スーパーボウル」であること、またダルビッシュが日本でどの程度Rock Starなのか、空港でダルビッシュがExitを抜ける際のエピソードなどを交えて語ってくれている。

 一方でExpectations、即ち来季の成績予想については「10〜12勝」というややシビアにも思える予想。「12勝したら充分にセンセーショナルだろう」と述べている通り、自身もMLBとNPB両方でプレー経験がある立場として、メジャーの厳しさを十二分に理解した上でのコメントということだろう。どうでもいいけどこのScalesさん、話し方を見る限りとても知的でスマートな人という印象。日本ハムではパッとせず来季はどうするのかは知らないけど、将来良い指導者かコメンテーターになりそうな感じがする。


 ゲームを見るだけでなく、分析や評論、予想、妄想でオフシーズンもこれだけ盛り上がれるというのも、MLBのビジネスとしての素晴らしいところだ。NPBは制度が歪んでいるのはともかく、もう少しメディアを上手く使ってくれればなと思う次第である。


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