福島原発事故からはや8ヶ月。事故発生当時、東電や政府と並び“責任者”として「御用学者」と呼ばれる人たちは激しいバッシングを受けた。

 しかし、電力利権に巣くい、日本に大損害を与えながら批判を免れている“トンデモ専門家”はまだいる。まずは原発の耐震性を審査するという重要な役目を負いながら、その責を果たせなかった、ある「地震学者」。彼の「責任逃れ」と「電力利権との結びつき」をルポライター・明石昇二郎が徹底追及した。

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「今回のトラブルは、揺れではなく津波によるものだった」(『読売新聞』3月16日付)。強震動地震学の権威とされる入倉孝次郎・京都大学名誉教授のコメントである。

 入倉氏はこれまで、原発の耐震指針策定や、耐震安全性評価に深く関与してきている。「原発震災」発生当日の3月11日もまた、原子力安全委員会(安全委)の「耐震安全性評価特別委員会」委員長として、会議を招集していた。

 入倉氏は、同様の趣旨のコメントを他の新聞にも寄せている。

「震源域には四つの原発があり、東北電力女川原発が一番近い。四つとも原子炉は止まり、基本的には揺れに対しては大丈夫だったが、その後で津波が来た。女川や福島第二はそれに耐えたが、福島第一は多重防護システムに弱点があった」(『東京新聞』4月5日付)

 入倉氏によれば、福島第一原発事故の真因は「津波対策の不備」だけにあるかのようだ。原発の「揺れ」対策のほうは、専門家である自分たちが十分審査していたから大丈夫だった――というわけである。

 しかし、地震の「揺れ」で送電線の鉄塔が倒れたのを契機に福島第一原発は全交流電源喪失(ステーション・ブラックアウト)にまで至っている。そのうえ、原発が建つ岩盤ごと50cmも沈下。そこを大津波が襲っていた。つまり、福島第一原発は「揺れ」に対しても全然大丈夫ではなかったのだ。

 原発の安全指針の中でも特に重要とされている「原子炉立地審査指針」には、原発を建てる際の原則が次のように書かれている。

「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと」

 ここで言われる「事象」には、大地震や大津波も当然含まれる。ようするに、福島第一原発の立地は、原子炉立地審査指針に明白に違反していたのだ。にもかかわらず、入倉氏をはじめとする専門家らは「福島第一原発は安全」とお墨付きを与えていた。責任は重大だ。

 原発の安全審査を託された専門家の使命は、事故発生後にその原因が「揺れ」か「津波」かを論じることではなく、「事故を起こさないこと」なのである。そして専門家は、その役目を果たせなかった。専門家失格であろう。

 そんな人が、フクシマ事故を受けて安全委が設置した「原子力安全基準・指針専門部会 地震・津波関連指針等検討小委員会」の主査を務めている。この小委員会は、原発耐震指針の見直しを行なうところだ。その第1回会合(7月12日)の冒頭で入倉氏は、

「残念ながら、津波に対する安全性の評価というのがまだ行なわれていなかった。非常に不幸な事態であった」

 と、自身の非力を「残念」「不幸」と他人事(ひとごと)のように論評しつつ、いまだに津波だけをことさら問題視していた。

 主査である入倉氏の問題意識に従えば、追加の安全対策は津波に対するものだけで十分――という話になる。これを歓迎するのは、フクシマ事故後、原発の再稼働や新設ができないで困っている電力会社くらいのものだろう。

(取材・文/明石昇二郎とルポルタージュ研究所)

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