東京電力は2011年11月2日未明、福島第1原発の2号機の原子炉内か格納容器内で「一時的、局所的に小規模な臨界が起きた可能性もある」として、反応を抑えるためホウ酸水を注入した。

国の原子力安全・保安院や東電では、2号機の原子炉の温度や格納容器の圧力などの数値は安定的だとして、「(仮に局所的臨界が実際に起きていたとしても)深刻な事態ではない」と強調している。東電などの説明をどう受け取るのか、原子力の専門家にきいてみた。

誤検出の可能性もあり再検査

東電がホウ酸水を注入したのは、「核分裂の証拠」である放射性物質キセノン135などが、2号機配管のガスから微量検出された可能性があるためだ。機械が誤って検出している可能性もあり、再検査中だ。

キセノン135の半減期は約9時間と短いため、比較的直近に核分裂があったことを示すことになる。検出が確定したとしても、量が微量なことなどから、「大規模な臨界状態ではない」としている。

「臨界」は、核分裂反応が連鎖的に続く状態だ。原発では、臨界状態を制御しながら利用し発電につなげている。一方、1999年の東海村(茨城県)JOC臨界事故では、制御されない臨界で大量被ばくした作業員2人が死亡した。

2号機の原子炉内では、大部分の燃料棒が溶けて底に落ち、さらにその一部の燃料は底を溶かして原子炉を覆う格納容器の底部に落ちているとみられている。現状では、それぞれ冷却水で冷やされ、「温度や圧力は安定的」とされている。

この溶け落ちた燃料の一部の箇所で、今回「一時的に小規模な臨界」が起きた可能性が出てきたわけだ。小規模臨界が起きたとすれば、どういう原因が考えられるのか。

単純化すると、「水の温度(密度)が、核分裂に適した状態になった」などの条件が重なったためではないか、ということのようだ。

「楽観論に立たず、最悪を想定すべきだ」

東京都市大の本多照幸教授(原子力環境工学)に「キセノン135などの検出が事実なら」という仮定の上で話をきいた。

大規模な臨界が起きた場合でも、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故のような大爆発につながる可能性は、ゼロではないが極めて低いとみられている。しかし、本多教授は、東電や国に対し、「楽観論に立たず、最悪を想定すべきだ」と指摘する。

「可能性の低さ」に甘えず万全の措置を取るべきであり、そういう意味では今回のホウ酸水注入は「妥当な措置だ」。検出量が微量なため、東電の説明通り限定的な発生とみて良いが、万一に備えて手を打ったことは評価できる。

しかし、今回の「検出」について、10月改定版の工程表で明記した「年内に冷温停止」の判断への影響を避けようとするかのような言動が、政府や東電の一部でみられることについては批判的だ。

「冷温停止」は単に炉心温度だけの問題ではない。キセノン発生などの事態が起きないよう管理できていることも重要で、今回の「検出」は「決して軽視してはならない」と話した。