オランダに3−0と敗れた岡田監督は、試合翌日のミーティングで「サッカーの原点に戻り、ゴールを取るんだという強い気持ちが大事だ」と語ったという。そして、久しく行なわれていなかった2トップへシステムを変更し、ガーナ戦に挑んだ。

 先発した前田は昨年2月以来の出場。先発は07年秋以来、約2年振りである。「チームの流れに乗りたかったけど、1人リズムに乗れなかったのが残念。ポストを受けるときも位置が低かったので、もっと高い位置で受けたかった」と本人が語るように、見せ場なく後半途中に交代した。

 そんな前田に「連動した中で個人の力も見せいてた。また一緒にやりたい」と高い評価をしたのが中村俊輔だった。流れに乗れていなかったと話す前田ではあったが、連動の手ごたえを俊輔は掴んだということだろう。
 
 60分以降、足が止まったガーナを攻め立て、交代出場の玉田、稲本らが加点し、終わってみれば4−3の逆転勝利。幾度か、攻撃のチャンスを作った前半も含め、オランダ戦に比べれば攻撃に厚みが出ていた。しかし、攻撃に人数を割けば、当然日本守備網は薄くなる。ガーナはロングボールを日本のDFラインの裏へ蹴り返す。2失点目は相手ゴールキーパーからの長いボールで、あっという間に中澤は相手FWと1対1で対峙し、なんなくゴールを決められた。

「(1対1の場面にしないよう)僕らボランチがもっと気をつけるべきだった」と長谷部。遠藤も「今日一番の課題は、できる限り後ろを(相手と)同数にしないで、上手く守れるかということ」と話している。攻撃の厚みは出たが、手薄になった守備をどうするのか? ボールも人も動き、数的優位の局面を作って攻めるという形は、フィジカルの劣る日本代表のサッカーにとって、重要なベースである。

 しかし、守備でも同じことが出来なければならない。当然相手と同じ人数で戦うわけだから、日本選手の運動量は相手を相当に上回らなければいけない。とは言え、90分間ハイペースでの運動を維持することは困難だ。そのためには“動きの質”が求められる。無駄な動きをなくすこと。すなわち選手が同じイメージを描き、動けなければ、得点機を失うだけで、連動は破綻し、失点する。

 たった一人でボールを奪ってもパスの受け手が的確な場所にいなければ、攻守の切り替えが遅くなる。「中盤の選手が離れすぎていた」と遠藤はボール奪取後の展開が上手くいかなかったオランダ戦を振り返っている。

 活動期間が限られる代表で、動きの質を高めるのは、容易なことではない。だからこそ、中村俊は“連動”の重要性について何度も繰り返すのだ。選手たちの意識を促すために、そう繰り返す。「選手同士がちょっと意識するだけで、いい連動が生まれる」という中村俊は、ガーナ戦でも小さな手ごたえを感じていた。

 今遠征で“個の力”について、強く発言したのが本田圭佑だった。

 しかし、オランダで1対1での戦いに自信をつけた本田とて、オランダやガーナ相手にひとりでゴールを奪うことは難しいのも現実。それでも個の重要性は、以前に中村俊も口にしている。「連動や組織だけでは勝てない。強引なプレーも必要だ」と彼は話していた。しっかりとした選手間の共通理解を築き、連動性を高めた上で、個の能力を生かしたプレーを発揮していくことを彼は求めている。

 選手の能力が最大限に発揮するサッカーを目指したジーコジャパンで「上手い選手だけが集まってもサッカーは勝てない」ということ学んだからこそ、あえて今回、連動性について強調しているに過ぎない。ましてや現代表とジーコジャパンとを比べれば、海外経験や代表経験というだけでなく、明らかに個人の能力は、ジーコジャパン時代のほうが高いのだから。

「ワールドカップまで時間がある」と監督はガーナ戦後に語っている。

 今回の遠征が1年前だったら…と思わずにはいられない。世界とアジアとの差はますます広がっている。オランダ戦、ガーナ戦が行なわれた日の夜、ホテルのテレビでワールドカップ欧州予選の激戦を見ながら、そう痛感した。

文=寺野典子