強力な太陽嵐で2012年に大停電? 対抗策は

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Brandon Keim


Image credit: NASA

2012年に世界が終わる――こう聞いたら、マヤ文明の予言の話だと思うかもしれない。しかしこの恐ろしい予測は、マヤの民でなく科学者が行なったものだ。米航空宇宙局(NASA)が招集した研究チームが昨年発表した報告書には、太陽嵐が壊滅的な被害をもたらす可能性に関連して、そんな身の毛もよだつシナリオが記されているのだ。[2012年人類滅亡説は、マヤ文明において用いられていた暦の一つが2012年12月20日に一つの区切りを迎えることから連想された、オカルト的な終末論の一つ]

Severe Space Weather Events ― Understanding Societal and Economic Impacts』(激しい宇宙気象――その社会的・経済的影響の把握)と題するこの報告書は、太陽フレアが放出するエネルギーが地球の磁場を混乱させ、強力な電流によって高圧変圧器が故障し、電力網が停止する可能性について検証したものだ。

そのような大惨事が起これば、米国での被害額は「最初の1年間で1兆〜2兆ドル」にのぼり、「完全復旧には4年〜10年」を要すると報告書は予測している。むろんこれは、地球全体に及ぶ被害のごく一部にすぎない。

次に太陽活動が極大化する時期は2012年頃[2010年頃から2012年頃]と予想されている。このとき地球の地磁気シールドに、通常になく大きな穴が開くため、太陽フレアに対する地球の防御体制は弱まることになる。

[「磁気シールドの穴」とは、NASAの磁気圏観測衛星『THEMIS』(Time History of Events and Macroscale Interactions during Substorms)の観測データから判明したもの。太陽からの磁場線の向きは、11年周期の太陽活動に合わせて変化するが、太陽からの磁場線が地球の磁場線と同じ方向を向く場合、太陽粒子の層が厚くなり、地球の磁気シールドを通過する粒子の量が20倍以上になるとされる

1989年の極大期には、激しい磁気嵐がカナダのケベック州の電力システムを破壊し、9時間にわたって停電。600万人に影響し、復興に数ヵ月を要した(日本語版記事)。2000年の極大期には大きな被害は報告されなかったが、これは太陽に蓄積されたエネルギー解放が行なわれなかったためで、次の極大期にはこのエネルギーが解放されて太陽嵐が発生する可能性があると考えられている]

われわれは、ジャーナリストのLawrence Joseph氏にインタビューし、報告書の内容や、被害を防ぐ方法の可能性について話を聞いた。同氏は、『2012地球大異変 : 科学が予言する文明の終焉』(邦訳日本放送出版協会刊)という著書の中で、2012年に地球が大惨事に見舞われる可能性があると主張している。

Joseph氏:私は先週、[報告書の元になった研究会に出席していた]電磁障害関連のコンサルティング会社米Metatech社のCEO(最高経営責任者)、John Kappenman氏に会う機会を得ました。彼は2時間に及ぶ詳細な説明をお行ない、現状の電力網がいかに脆弱なものであるか、そこに強力な電圧がかかった場合、その脆弱さがいかに増大するかを訴えました。Kappenman氏は電力網を、激しい宇宙天気事象を受信する大きなアンテナだと言っています。

ワイアード:なぜそれほど脆弱なのでしょう? また、その対策はないのですか?

Joseph氏:超高圧変圧器は、電力需要が大きくなるほど不安定になります。変圧器の約50%が、すでに本来処理できるはずの電流に耐えられなくなっています。あと少し強い電流が何度か加われば、限界を越える可能性があります。

中でも、50万および70万キロボルト級の超高圧変圧器は特に脆弱です。米国は世界で最も多くこれらの変圧器を使っています。中国も数百万キロボルト級の変圧器を設置しようとしていますが、すでに導入済みかどうかは分かりません。

Kappenman氏はまた、変圧器が故障した場合、現場でそれを修理することは不可能だと指摘しています。そもそも修理がきかない場合も多いのです。現時点では、新しい変圧器を発注してそれが届くまでに1〜3年は待たなければなりません。

[NASAの記事によると、現状の電力網は、安価な電力を遠隔地から送電するために複雑化し、脆弱性が上がっているという。Kappenman氏は、1989年にカナダで停電を起こした太陽嵐より10倍強力だったと見られる1921年の太陽嵐のデータを現状の電力網に適用して計算。電力網やそれに伴う水道など社会システムの破壊が1億3000万人に影響すると予測している。次ページに、影響が予測される場所をプロットした米国の地図を掲載した]

(2)へ続く

WIRED NEWS 原文(English)

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