台湾発の人気店「THE ALLEY(ジ・アレイ)」は現在日本で、常設19店、フードトラック1店を展開している。人気は写真の「ロイヤルNo.9タピオカミルクティー」(撮影:尾形文繁)

タピオカミルクティー人気が沸騰している。テイクアウトのティースタンドで売られることが多いため、週末ともなると、原宿や自由が丘、新大久保など店が集中する町では、タピオカミルクティーが入ったカップを持ち歩く、若い女性やカップルであふれる。そういう町では、店をハシゴする「タピ巡り」を楽しむ若者たちまでいる。確かに「インスタ映え」する商品ではあるが、ブームを探っていくと、意外と見過ごしていた要因が見えてきた。

デザイナー仲間と「おいしいお茶」を研究

チェーン展開する店のほとんどは台湾発。その中でも、東京その他の主要都市に出店する「THE ALLEY(ジ・アレイ)」は、タピオカミルクティーの店を紹介する記事で必ず挙げられる人気店だ。神戸に初進出したときには、2時間待ちの行列ができたという。

2013年5月、台湾で1号店を開いた後、急拡大し、今年3月末時点で中国やベトナム、アメリカ、フランスなど各国・地域に268店を展開するまでになった。日本への進出は2017年7月11日、新宿で開いたフードトラックが最初。翌8月に表参道で旗艦店をオープン。4月末時点で、常設店19店とフードトラック1店がある。


ジ・アレイの中目黒店は、外国人観光客にも人気だ(撮影:尾形文繁)

人気の理由は、品質へのこだわりだ。ブランドオーナーの有樂創意設計有限公司の邱茂庭社長はもともとデザイナーだった。タバコも酒もたしなまない邱社長が、仕事に疲れると欲しくなったのは、ミルクティー。デザイナー仲間とおいしいお茶を研究したことが、ティースタンドを始めるきっかけになった。世界各地をめぐり、膨大な種類のお茶で、水や温度、蒸らし時間を試行錯誤した末、ベストな組み合わせを選んだという。
 
看板商品の「ロイヤルNo.9タピオカミルクティー」は、Mサイズが500円。モチモチ食感のタピオカは粒が大きく、太い専用ストローから吸い込むと、デザート感覚で食べられる。お茶自体のうま味も強く、すっきりと飲みやすい。お茶は、紅茶のアッサムティー、烏龍茶の鉄観音、緑茶の小山緑茶があり、ストレートティーやタピオカなしも選べる。

タピオカミルクティーは、単純なようで奥が深い飲み物だ。

まず、お茶を上手に淹(い)れることが難しい。お茶が持つうま味や甘味を引き出すには、茶葉ごとに適切なお湯の温度、蒸らし時間、茶葉の量にする必要がある。ミネラル分が多い水では抽出しにくいなど、水質にも左右される。飲む人の体調や気候によっても、味の感じ方が変わる。繊細な飲み物だからこそ、世界にはお茶にこだわるマニアがたくさんいるのだ。

タピオカは、キャッサバというイモのでんぷんを、粒状に加工して乾燥させたもの。店では茹でて使用するが、その扱いにも工夫が必要だ。人気店のタピオカは、台湾から輸入していることが多い。

その奥深さに惹かれ、自らティースタンドを開業したのが、中国人男性と日本人女性の陸氏夫妻だ。2011年に結婚した2人は、何度も中国に渡る。現地で飲んだおいしいタピオカミルクティーを自らの手で、と今年2月25日、船橋市の東武アーバンパークラインの馬込沢駅近くに「Meetea(ミーティー)」をオープンした。

連日混み合う人気店の開業準備には、半年以上かけたという。「茶葉はいろいろな産地のものを試しました。タピオカも何社かから取り寄せ、茹で時間、提供するまでの時間も研究。試食するタピオカでお腹が膨れるので、ご飯を抜くこともありました。他店も回って飲み比べをしています」と陸氏。

2017年頃から出店数が急増

看板商品は「タピオカミルクティー」(レギュラーサイズ350円)だ。ほかにミルクティーやストレートティー、スムージーなどをそろえる。よく行く上海では、住宅街の中にも店があり、老若男女に親しまれている。陸氏夫妻が目指すのは、そんな日常に親しまれる店だ。
 
自ら開業するファンもいるほど、ブームが広がっている理由は、4つ考えられる。

1つ目の理由は、出店が急増したことだ。1983年にタピオカミルクティーを考案した台湾の春水堂が、日本に上陸したのが2013年。以降、さまざまなブランドが進出し、2017年頃から出店が加速した。

2つ目は味だ。現在人気のタピオカミルクティーは、コクのある黒糖などで味つけしたタピオカを使っている。そのモチモチした食感にハマる人も多いのではないか。片手で空腹を満たせる、手軽な軽食にもなる。

だが、それより大きいのは、お茶自体の味がしっかり出ていて、「おいしい」と感じさせるブランドが多いことだ。台湾は、発酵度合いもさまざまなお茶をたくさん産出し、喫茶が日常になじんだお茶大国。緑茶や烏龍茶をミルクティーにする発想も、ミルクティーと言えば紅茶というイメージしかなかった日本では、新鮮に見える。透明なコップに入ったお茶に、タピオカの黒い粒が浮かんでいるさまは、インスタ映えもする。

3つ目の理由は2010年代に入ってから続く、台湾ブームだ。外務省が調査した2012〜2016年の日本人の訪問先ランキングでは、台湾が4位。JTB総合研究所のデータでは、2019年3月の出国者数が韓国に続いて2位で、約21万6000人に及ぶ。雑誌などでの特集も多い。台湾で、タピオカミルクティーを知った人も多いだろう。

数年前に出店を打診された

そして4つ目の理由はお茶自体のブームだ。実はお茶の流行が、タピオカミルクティーのブームを下支えしているのではないか。そう考えさせるエピソードをご紹介しよう。

4月25日、フランチャイズのティースタンド、「Chatime(チャタイム)」をJR・小田急の町田駅前にできた新しいビル、AETAにオープンした加藤勤氏。書店やデイサービス、スーパーなどのグループ会社を擁する桝屋の社長を務める。グループ会社のうち、飲食店や配送業を営む藤産業と書店チェーンのブックスタマの社長も兼任している。


チャタイム町田店(筆者撮影)

中国語を学んだノウハウを本として出すほど、中国や台湾が好きな加藤社長。台湾には毎年家族旅行で遊びに行く。タピオカミルクティーを知ったのは、30年ほど前の学生時代、初めて台湾に行った折だった。緑茶のブレンドティーなど、日本にはない発想のお茶とも出合い、中国茶にハマった。その後就職し、独身寮でわざわざお茶をポットで淹れていたという。今も毎日中国茶を飲む加藤社長は、「台湾は、町のティースタンドのお茶もおいしい」、とレベルの高さを証言する。

チャタイムの出店は数年前、仕事を通じて打診されていた。「タピオカミルクティーがブレイクし始めた2年前、新大久保の店の売り上げがすごくいいと聞いて、本気で出店場所を探し始めました」と振り返る。

桝屋グループの拠点は福生市にある。しかし、大きな繁華街がなく、町田に新しいビルができるという情報をつかんで現在の場所を選んだ。近辺に大学が多く、若い人が多いことが決め手だった。

人気商品は、独自にブレンドした紅茶で作る「チャタイムミルクティー」(レギュラーサイズ440円)に、タピオカをトッピングしたもの。トッピングを入れるか入れないかに加え、トッピング、氷、砂糖の量をそれぞれ選べる。お茶はほかにほうじ茶、ジャスミン茶、抹茶がある。黒糖などをブレンドした独自の調味液に漬けて出す、タピオカの味が強い。

タピオカミルクティーは原価率が低い

もともと藤産業でお好み焼き屋を経営していたという加藤社長。「原材料費も人件費も上がってきたので、そこそこお客さんが来ていても経営的には厳しい。何か新しいビジネスにスイッチしなければ」と感じていたことが、ティースタンドを始めるきっかけだった。タピオカミルクティーは、原価率が低いことも魅力だった。

フランチャイズならではの利点もある。「加盟料その他フランチャイザーに払うお金はかかりますが、開業に必要なものがあらかじめ用意されていて、お茶の淹れ方などのノウハウもマニュアルがある。オープン時はサポートにも入りました。不動産の物件情報ももらえる。いちばん肝心なのはブランド力があること。チャタイムはツイッターなどでもよくつぶやかれているブランドです」と加藤社長は話す。

ブランドオーナーは、台湾の六角国際(La Kaffa)インターナショナル。台湾に大阪王将などの日本ブランドを上陸させる一方、チャタイムを海外に出店するなど、飲食チェーンを世界で展開している上場企業である。

チャタイムは4月30日現在、28の国・地域で799店を出店。アフリカのモーリシャスから、インドネシア、オーストラリアなど、カバーする範囲も出店数も多い。日本では5月14日現在で直営店およびフランチャイズ店を17店開く。初出店は2013年4月、つくば市だった。

加藤社長は、将来書店にティースタンドを併設することも視野に入れている。「今、カフェを併設する書店は多いのですが、立地がいいところ以外のカフェは儲かっていない。こだわっておいしいコーヒーを出しても、ブランド力がないからです。

コーヒーはスターバックスなどブランド力を持つ巨大チェーンがあるのに対して、お茶はそれほど突出したブランドがないので伸びる可能性がある。そして、もしタピオカのブームが去っても、お茶はなくならない」(加藤社長)。

人気のティースタンドを見渡してみると、タピオカなしのドリンクが選べるようになっていることがわかる。冒頭のジ・アレイでも、タピオカブームが去った後はお茶で勝負できることを視野に入れている。実際、リピーターには、タピオカを入れないお茶を注文する客も目立つという。嗜好品であるお茶は、リピーターを生みやすい商品と言える。

実際、お茶は今、コーヒーのサードウェーブに続くノンアルコール飲料として、世界から注目されている。タピオカミルクティーは世界的なブームだし、抹茶スイーツなども人気だ。

お茶新時代の到来を告げている?

そのことはお茶生産国でお茶文化がある日本にとっても、将来につながる可能性がある。実は長年、緑茶の生産量も消費量も低下傾向が続いてきた。全国茶生産団体連合会・全国茶主産府県農協連連絡協議会が割り出した緑茶の国内消費量のピークは、2004年で約11万6800トン。しかし2017年には8万1300トンにまで低下。生産量は、2004年に10万トンを超えていたが、2015年には8万トンにまで下がっている。お茶離れが進んでいたのだ。

ところが近年、世界でのお茶ブームを受けて輸出が急増。財務省貿易統計によれば、2001年に599トンにすぎなかった緑茶の輸出量が、年を追うごとに増え、2015年には4127トンと、14年間で7倍近くにまで伸びている。

海外で盛り上がるお茶のトレンドや文化は、ストレートで飲む日本の定番スタイルとは必ずしも一致しない。

緑茶にミルクや砂糖を入れて飲んだり、フレーバーを加えるのは、タピオカミルクティーだけではない。その飲み方は、日本にも還流している。「ルピシア」や、日本橋でフランス人オーナーが展開する「おちゃらか」など、フレーバー緑茶を販売する店もある。抹茶スイーツはもちろん人気が高い。最近は、緑茶が売りのカフェやティースタンドも増えてきた。

日本では、1990年にペットボトルのお茶が販売されて以降、急須で緑茶を淹れる習慣は廃れ始めた。しかし実は、急須を使う習慣が浸透したのは1970年以降とも言われている。それから半世紀。食事や休憩の際、お茶を淹れるという習慣が当たり前でなくなったからこそ、新しい飲み方が大きなブームとなったのかもしれない。今回のブームは、お茶の新時代到来を告げているのではないだろうか。