プロ野球・北海道日本ハムファイターズが拠点とする札幌ドーム。球団が北広島へ移転すれば現在は好調な地下鉄の収益に打撃を与えそうだ(写真:digi009/PIXTA)

北海道旅客鉄道(JR北海道)が昨年11月に発表した2018年度第2四半期決算は、同年9月に発生した台風21号と北海道胆振東部地震により、営業損失は過去最大の170億円、経常損失1億円、純損失11億円という厳しい内容となった。

併せて発表した「平成29年度 線区別の収支とご利用状況について」では、新千歳空港アクセスの好調などにより札幌圏の収支が大幅に改善したものの、前年度から引き続き全線区が営業損失を計上したことが明らかにされた。

JR北海道の経営状況は、北海道の鉄道事業を取り巻く厳しい経営環境を反映している。北海道内の旅客鉄軌道事業者としては、JR北海道、札幌市交通局、道南いさりび鉄道、函館市企業局交通部があるが、道南いさりび鉄道は約1.8億円の営業損失、函館市企業局交通部も約4.5億円の営業損失をそれぞれ計上している(いずれも2017年度)。

札幌の地下鉄は黒字路線

赤字の鉄道路線が大多数を占める北海道にあって、旅客鉄道事業者として2つの黒字路線を抱えているのが札幌市交通局の高速電車(地下鉄)である。

札幌市交通局の地下鉄はすべての路線が札幌都心部にある大通駅で接続する。南北線、東西線、東豊線はいずれも札幌市郊外と都心をつなぐ路線形態となっており、このうち、東西線は札幌市を東西に横断し、宮の沢駅―新さっぽろ駅20.1km の全区間でJR函館本線の南側で並行する。

南北線は札幌市を南北に縦断し、麻生駅―真駒内駅間14.3kmを結び、麻生駅―さっぽろ駅でJR札沼線・函館本線と並行する。また、東豊線は栄町駅―福住駅間13.6kmを結び、南北線と並行するように南北に縦断している。

特に南北線は、札幌駅と大通駅・すすきの駅の間の移動の際、最も利便性の高い交通機関と言って差し支えない。しかし、札幌駅前通地下歩行空間が南北線の真上に整備されており、南北線を利用せずに雨や雪、強風、日差しなどを避けて徒歩で移動することが可能だ。

一方、札幌都心部では指定区間内を100円で利用できる「都心内100円バス」もあり、南北線の強力なライバルとなっている。札幌を訪問するたびに、地下鉄でも「隣の駅まで100円」のような取り組みができないものかと、つい考えてしまう。しかし、既存利用者から得られる運賃収入が減る懸念もあり、難しい面があるのだろう。

話を札幌市交通局の決算に進めていこう。同局が公表する「平成28年度決算の概要(高速電車)」を基に営業収益から営業費用を差し引いて営業損益を計算すると、南北線が61億円超、東西線が51億円超の営業利益をそれぞれ上げているが、東豊線は15億円超の営業損失である。

ただし、経常損益ベースでは3線とも黒字となっている。利用の多い札幌都市圏でさえも赤字のJR北海道とは対照的だ。JR北海道にとって、除雪費用が決算の重荷となっているが、札幌市交通局の地下鉄では軌道が地下またはシェルターに覆われているため、除雪費用を節約できることが黒字決算の大きな要因と推測される。

設備更新の資金確保が課題

半面、札幌市交通局は地下鉄の今後について次のように説明し、楽観的な見方を戒める。「南北線は開業から半世紀に近づいており、今後、施設設備の大規模更新・改修に係る再設備投資が必要となる。したがって、その財源確保は大きな課題となっている」(事業管理部経営計画課)。

そして、南北線の支出額が少ない要因について、次のように説明する。

「南北線は黒字路線ではあるが、東西線と比較して、減価償却費及び支払利息による差が大きい。この要因は、物価上昇等により東西線の建設コストが高額であったことと、開業(及び延伸)時期の違いによるところが大きい。先に開業・延伸している南北線は、建設時に発行した企業債をすでに償還済みであり、減価償却も進んでいるが、東西線については、平成11年(1999年)延伸時に発行した企業債の償還・利払いが続いており、減価償却費も相応に高額となっている」(同)。

同局の公表データをひもとくと、南北線の1日乗車人員は1981年の33万4135人をピークに一部の年度を除いてほぼ一貫して減少していることが目につく。

2016年度、南北線の営業利益は東西線を約10億円上回っているが、1日乗車人員は南北線23万3749人に対して、東西線は23万4060人と若干多い。

実際、乗車料収入は南北線140億円超に対して、東西線は173億円超と33億円上回っている。南北線は短距離の利用が多いのに対して、東西線は比較的長距離の利用が多いことが推察される。

東西線の1日乗車人員についても回復傾向にあるとはいえ、ピークの1991年度の1日乗車人員24万1690人に届いていない。

一方、東豊線は札幌市交通局地下鉄3線の中で唯一営業損失にあるものの、1日乗車人員は開業以来一部の年度を除いてほぼ一貫して増加して、2016年度の1日乗車人員は15万2136人を記録し、3線の中でもこれからのさらなる成長が期待される路線であったと言える。

しかし、これまで成長基調にあった東豊線にも大きな課題が立ちはだかることとなった。北海道日本ハムファイターズが北広島市に建設するボールパークへの本拠地移転を正式に決定したことで、東豊線の利用が減る可能性が出てきたからだ。

日ハムは現在、東豊線福住駅が最寄りの札幌ドームを本拠地としている。東豊線利用者のうち、日ハムの試合観戦のため札幌ドームへ向かう利用者の割合は約2.1%で、仮に日ハムの試合がなくなった場合は約2億円の減収が見込まれるという。

日ハムの北広島移転は東豊線の減収につながりかねず、移転後のさらなる利用促進が課題になりそうだ。また、札幌市交通局の中でも、2016年度に営業損失4.9億円超を計上した軌道(路面電車)の経営改善も課題である。

一層の収益確保が課題

そして、現在は人口増を続けている札幌市であるが、将来の人口減少を見据え、札幌市交通局にとって一層の収益確保が重要になる。人口減少が進展する中、北海道の鉄道事業を取り巻く環境はさらに厳しさを増しそうだが、それは200万人弱の人口が集中する札幌市であっても例外ではない。

駅ナカ店舗などの関連事業とともに、民間不動産会社への出資による沿線開発の促進による開発利益と地下鉄利用増を同時に追求する取り組みなどを検討できないだろうか。

また、若いうちから公共交通の存在を意識付けるために、幼稚園・保育園などで出前授業を実施することも検討に値する。

そして、鉄道を活性化させるための鍵はマイカーからの鉄軌道への利用の転移を促進し、札幌市および周辺都市を含む地域住民の鉄軌道の乗車人員の維持を図ることなどを通して、鉄軌道の利用割合を高めることにある。

また、札幌都市圏以外からの来訪者を鉄軌道へ積極的に誘致するうえで、JR北海道との協力関係のさらなる強化も重要な検討課題だ。北海道新幹線札幌駅開業を見据え、新幹線と地下鉄の乗り換えを可能な限りスムーズにすることで地下鉄の利用を増やしたい。札幌市交通局とJR北海道のコラボが北海道の鉄道活性化に向けた大きな力になるはずである。両者の積極的な協働を期待したい。