90式戦車160両の咆哮! 北の大地を揺るがす砲煙弾雨、恒例「戦車射撃競技会」とは?
北海道には多くの陸自戦車部隊が配置されていますが、その道内の演習場では毎年、戦車射撃の競技会が開催されています。160両以上の90式戦車が参加、撃ちまくります。
北海道の戦車乗りたちの頂点を決める競技会!
毎年10月に陸上自衛隊の北海道大演習場において、戦車射撃競技会が行われています。2018年については、10月29日から11月4日にかけ「平成30年度第7師団戦車射撃競技会」として実施されました。
陸上自衛隊北海道大演習場にて開かれた「平成30年度第7師団戦車射撃競技会」にて。道内各地から90式戦車と10式戦車があわせて170両以上も参加(菊池雅之撮影)。
1961(昭和36)年に「北部方面隊機甲科射撃競技会」としてスタートした伝統ある競技会です。1964(昭和39)年から1972(昭和47)年までは、「北部方面隊機甲戦技競技会」として行われました。しばらく射撃競技会としての射撃は行われなくなりましたが、1982(昭和57)年から2001(平成13)年までは、「第7師団戦車射撃競技会」となり復活、それ以降、主催は北部方面隊と第7師団の持ち回りとなりました。
北部方面隊は陸上自衛隊の方面隊のひとつで、北海道全域を担当しています。作戦基本部隊として第2師団(旭川駐屯地)、第5旅団(帯広駐屯地)、第7師団(東千歳駐屯地)、第11旅団(真駒内駐屯地)を編成し、北海道を4つに分割して、これら師団、旅団を配置しています。
このなかで第7師団は、日本唯一の機甲師団です。機甲科や機械化、自動車化した普通科を中心とした師団編成となっているのが特徴です。第71戦車連隊、第72戦車連隊、第73戦車連隊と3個戦車連隊を編成し、すべて90式戦車で構成されています。第71戦車連隊には、2017年から10式戦車もラインナップに加わりました。
第7師団の中核をなす第71戦車連隊の10式戦車(菊池雅之撮影)。
普通科(歩兵)部隊は、第11普通科連隊の1個連隊のみ。それも90式戦車と共に戦うため、この部隊だけ89式装甲戦闘車が配備されるなど、日本で唯一、完全装甲車化を成し遂げており、日本で一番大きい規模を誇ります。また、第7偵察隊という偵察部隊もありますが、この部隊にも90式戦車が配備されています。そのほかの特科(大砲)や施設科(工兵)といった職種についても完全装甲車化を成し遂げています。「第7師団で装甲車を持っていないのは音楽隊だけ」と言われるほどの重装備部隊なのです。だからこそ、戦車射撃競技会を主催できるのです。
また、第2師団に編成されている第2戦車連隊には、10式戦車、90式戦車、74式戦車と3世代の戦車を配備しています。第5旅団の第5戦車大隊、第11旅団の第11戦車大隊は90式戦車を配備しています。
競技は4両1チーム=小隊編成で
北海道の陸上自衛隊は、まさに戦車が主役となる部隊編成となっています。そのような猛者ぞろいの各部隊から今年の射撃競技会には、164両の90式戦車、12両の10式戦車が集まりました。
90式および10式戦車は、車長、操縦手、砲手の3名で構成されている。写真は車長。1両の戦車を指揮し、取りまとめるのが仕事だ(菊池雅之撮影)。
競技は4両単位で行います。これは1個小隊編成となります。4両の戦車が、敵の戦車や装甲車を模した「戦車砲用標的」、敵歩兵を模した「機関銃用標的」を攻撃していきます。「命中精度」、「命中に要した時間」、「小隊長の射撃指揮」が評価され、点数となり、順位に影響していきます。
なお、10式戦車については、まだ数が揃っていないこともあり、評価からは外されていました。90式戦車小隊のみで、「部隊対抗の部」「中隊対抗の部」「小隊対抗の部」の3部門を争います。平成29年度大会では、部隊対抗の部で第72戦車連隊、中隊対抗の部で第72戦車連隊第5中隊、小隊対抗の部で第72戦車連隊第2中隊第2小隊が、それぞれ優勝の栄冠に輝きました。
平成29年度大会で各部門の優勝を総ナメにした、第7師団第72戦車連隊(菊池雅之撮影)。
大会参加者はまずIDのチェックを受けます。というのは、替え玉参加を防ぐためです。腕のある人、ベテランの人など、競技においては経験者が多少有利となるのは事実です。また、戦車に乗ってしまうと、外からでは誰が乗っているのか分かりません。そこで乗車前に、出場者名簿とID、顔を照らし合わせます。そんなズルをする部隊があるとは筆者(菊池雅之:軍事フォトジャーナリスト)には思えませんが、ここまで厳格にルールを順守するところは、自衛隊ならではと言えるかもしれません。
そしてそれぞれの戦車に乗車し、競技スタートです。
途切れない射撃、その咆哮!
まず2両が稜線上から敵戦車に対し、射撃を行います。撃破すると、一旦後退します。前進を前に、特科部隊の火力支援を要請します(想定のみ)。大砲からの支援を受けた直後、4両の戦車は一斉に動き出します。敵戦車や装甲車を発見すると、小隊長指示のもと、それぞれ撃破していきます。そのまま流れを止めることなく、戦車はどんどんと前進していきます。敵歩兵が出現すれば、機関銃で射撃をしていきます。
一旦競技が始まると、咆哮は常に唸り続けます。毎年8月に行われている「総火演」にはない、本物の迫力がここにはあります。
射撃を終えて、スタート位置へと戻って来ると、部隊名が記された旗を振る仲間たちの熱い出迎えを受けます。この応援に、乗員らは戦車から体を出して、ガッツポーズで応えていきます。部隊の名誉がかかっている戦いであり、応援する隊員たちも真剣そのものです。
部隊対抗の部で優勝を収めた第5戦車大隊は、帯広に司令部を置く第5旅団隷下の部隊で、道東の鹿追駐屯地(北海道鹿追町)に駐屯する(菊池雅之撮影)。
今回は天気に恵まれなかったのですが、戦車は全天候型の戦いを強いられる装備です。さすがに標的が霧で見えなくなり、射撃できない時もありましたが、ほぼ予定通り実施していきました。天候同様に、競技会の結果も大波乱となりました。
部隊対抗の部で優勝を収めたのは、第5旅団の第5戦車大隊でした。中隊対抗の部で優勝を収めたのは第11旅団第11戦車大隊の第2中隊、小隊対抗の部で優勝を収めたのは、第7師団第73戦車連隊第1中隊第1小隊でした。
第7師団としては、残念な結果と言えるかもしれません。ただし、そのような第7師団を破った部隊が出たということは、改めて北部方面隊の戦車部隊の練度の高さを見せつけたと言えるかもしれません。
【写真】会場にはもちろん「90式戦車回収車」も
会場には万が一の事態に備え、90式戦車回収車が備える。90式戦車ベースの車両で、戦車の整備支援や、故障で動けなくなった場合などに出動する(菊池雅之撮影)。