本が売れない時代に異変!? SNSの反響受けた復刊や重版相次ぐ、「全くの想定外」の声も
「読書の秋」となりました。書籍の感想をツイッターなどSNSに投稿することも一般的になりましたが、投稿が話題となって出版社が絶版本を復刊したり、重版、つまり、一度出版した書籍を再び印刷出版したりするなど、これまでになかった動きが見られるようになりました。「本が売れない」と言われる時代に、何が起きているのでしょうか。
話題化は全くの想定外
最近話題になったのは「日英語表現辞典」(ちくま学芸文庫)です。2004年1月の刊行後、絶版となっていましたが、ツイッターで話題になったことで2018年10月上旬、数千部単位で復刊しました。著者は英語学者として活躍した最所フミさん(故人)です。
日本人が理解しにくい「英語」と、英米人が理解しにくい「日本語」を厳選。英語、日本語独特の言い回しなど、それぞれの国の伝統的な表現や慣用句、俗語を解説している和英・英和辞典です。
復刊のきっかけは、2018年9月8日のツイッターの投稿でした。「この本、ツイッターで知って発注したけど、ハンパないわ。英語を勉強しようとか英語で仕事をしようとかいう人は、読むべきと言うより、読まなくてはいけないレベルの本」との投稿が、約6700のリツイート、約2万8000の「いいね」を獲得し、「英語での仕事はしてないけど、読みたい」といった声が相次ぎました。
こうした盛り上がりと、筑摩書房への多数の問い合わせを受け、9月12日に同社は公式ツイッターで「『どうしても読みたい!』というたくさんの声にお応えするため、緊急復刊が決まりました!」と発表したのです。
筑摩書房ちくま学芸文庫の北村善洋編集長に聞きました。
Q.ツイッターなどSNSがきっかけで、絶版本が復刊したことはこれまでにもありますか。
北村さん「ちくま学芸文庫としては初めてのことです。今回話題になったことも、全くの想定外だったので驚いています」
Q.どれくらいの問い合わせがあったのですか。
北村さん「正確な問い合わせの件数は数えていません。しかし、ツイッターの投稿が拡散した後、書店や編集部に多数の問い合わせがあったことから、復刊してもよいのではないかと感じて緊急復刊を決めました」
重版は投稿の内容で判断
一方、ツイッターで話題となったのをきっかけに重版したのは「仙境異聞 勝五郎再生記聞」(岩波文庫)です。江戸時代後期の国学者・平田篤胤(あつたね)が天狗(てんぐ)にさらわれた少年寅吉から聴き取ったという、異界についての詳細な証言集です。
きっかけは、2018年2月12日のツイッターの投稿でした。「『江戸時代に天狗にさらわれて帰ってきた子供のしゃべったことをまとめた記録』があって、それがめちゃ面白い。天狗じゃなくて宇宙人じゃないかと思うんだけど」との投稿が、約1万7000のリツイート、約3万5000の「いいね」を獲得したのです。
この投稿から古本の購入者が増え、2日後の2月14日にはアマゾンでの古本販売価格が6万円という高値を付け、さらに話題となり、8日後の2月20日には、5年半ぶりの重版が決まりました。
岩波書店営業部マーケティンググループの堀内まゆみさんに聞きました。
Q.ツイッターなどSNSへの投稿がきっかけで、重版になったことはこれまでにありましたか。
堀内さん「初めてのことです。通常は読者から電話などでリクエストが届き、その内容を検討して重版するかどうかを決めます」
Q.今回、ツイッターの反響の何を基準にして重版を決めたのですか。
堀内さん「投稿された内容が充実していたことが、重版の決め手となりました。投稿が『仙境異聞』をじっくり読んで書かれた内容のものが多かったからです。電話での問い合わせの数や、ツイッターの拡散数など量的なことで判断したわけではありません」
Q.「仙境異聞」以降、ツイッターなどSNSを起点にして重版した書籍はありますか。
堀内さん「新書の『壊れる男たち セクハラはなぜ繰り返されるのか』もそうです。2006年2月の初版刊行ですが、2018年春ごろにSNS上での反響を受けて重版しました。ちょうど、セクハラについての大臣の発言が話題になった時期です」
復刊を専門に行う出版社も
ツイッターを起点に絶版本が復刊するのは、最近の傾向としてよく見られることなのでしょうか。日本で唯一、絶版本の復刊活動を専門に行っているという出版社の復刊ドットコム(東京都品川区)に、現状を聞きました。
復刊ドットコムは、絶版本の復刊専門サイト「復刊ドットコム」を運営しています。会員から「絶版・品切れ」となった書籍のリクエストを募り、一定数以上の投票が集まれば、同社が出版社や著者に復刊の交渉を行い、思いが届けば復刊できる仕組みです。
2000年にサービスを始め、これまでに48万人の会員から5万3000タイトル、85万票のリクエストが寄せられ、約5500タイトルが復刊されました。
代表の岩本利明さんに聞きました。
Q.絶版本を復刊させる事業を始めた理由は。
岩本さん「オンデマンド印刷の会社を立ち上げたところ、一般のお客さまから『小部数で復刊させてほしい本がある』という問い合わせが殺到し、その声を集めるサイトを立ち上げようと思ったことがきっかけです」
Q.最近、絶版本を復刊する動きは盛んなのでしょうか。
岩本さん「『復刊ドットコム』に限れば、年間の復刊点数は集計しておりませんが、会員数、およびリクエスト点数は、ほぼ横ばいで下がっていません」
Q.なぜ、絶版本が注目されるようになったのでしょうか。
岩本さん「原本の年代、タイトル、ジャンルによってさまざまな理由がありますので一概に言えませんが、もともと1980年代のコミックに対して、30代の会員の方の投票が多かったです。ネットの力でユーザーの深層のニーズが集まりやすくなったことも、きっかけかもしれません」
Q.SNSが起点になり、出版社への問い合わせが増えることで復刊する傾向も増加しているのでしょうか。
岩本さん「以前よりも、ネットコミュニティーからのリクエストが多く集まってきています。近年、ツイッターなどSNSからのリクエストは増えてきたと感じています」
Q.復刊を実現させる手段が新たに確立しつつあることを、どのように思われますか。
岩本さん「ユーザーのニーズに応える手法が多く存在することは、復刊ドットコムサイトにとっても喜ばしいことです。一つの方法では無理なことでも、複数の手法でニーズを集められれば、復刊できる本が増えると思っています」