「死に至ることもある毒」に汚染された本が大学の図書館から見つかる
by Sandrine Néel
古い本は書かれている内容が興味深いだけでなく、「1300年前の文書が本の装丁から見つかる」ことや、「中世ヨーロッパのメガネ跡が見つかる」といった、驚くべき発見がされることもあります。なんと今回は、大学の図書館に所蔵されていた本から「死に至ることもある毒」が発見されたと話題になっています。
How we discovered three poisonous books in our university library
デンマークの南デンマーク大学図書館に所蔵されている歴史に関する3冊の本を蛍光X線分析で調べた研究者らは、本のカバーが高濃度のヒ素を含んでいることを発見しました。研究者らは始めから本に毒が含まれていると知っていて蛍光X線分析にかけたわけではなく、3冊の本のカバーに隠された文字を分析するために蛍光X線分析を行ったとのこと。
蛍光X線分析とは、X線を美術品や絵画に向けて照射すると、資料に含まれる金属元素から固有の2次的X線が放出される原理を応用して、資料中の元素の種類や量を特定する分析法です。高精細のデジタルカメラによる画像分析と蛍光X線分析を組み合わせることで、上から他の塗料で塗りつぶされ、隠されてしまった下の文字を読み取ることなども可能。
研究者らは本のカバーが古い文書を再利用して作られたものであることを突き止め、そこに書かれた古いラテン文字を解読しようとしました。ところが、本のカバーは緑色の塗料で広範囲にわたって覆い隠されていたため、蛍光X線分析で塗料の下に書かれた文字を特定しようとしたそうです。そんなわけでカバーを蛍光X線分析したところ、カバーに使われていた緑色の塗料が「高濃度のヒ素」であることが判明したというわけ。
ヒ素は生物に対する強い毒性を持っており、摂取すると吐き気や腹痛といった中毒症状があらわれ、時にはガンの発症にもつながる致死性のある物質です。ヒ素の化合物には鮮やかなエメラルドグリーン色になるものが存在し、絵画や美術品に使用する塗料として使用されていたとのこと。
パリス・グリーンを始めとするヒ素化合物の塗料は19世紀初頭にヨーロッパで生産が始まり、多くの芸術家が鮮やかな緑色を表現するために使用しました。ヒ素を含有した塗料は、19世紀後半にその有毒性が認識されるまで絵画に使用され続けたため、博物館に所蔵されている絵画にはヒ素が多量に含まれているものも少なくないとのこと。ヒ素を含有した塗料は鮮やかな色合いのため非常に人気が高く、時にはブックカバーや衣類にまで使用されることがありました。
今回発見された3冊の本については、本の装丁にヒ素を含有した塗料を使用したとは考えにくく、19世紀になって虫食いなどを防ぐ防護目的で使用されたと研究者らは考えています。図書館では3冊の本を段ボール箱に入れ、よく換気されているキャビネットに安全ラベルを貼って保管してあるとのこと。今後は資料の物理的操作をなるべく避けるために、3冊の本をデジタル化する計画を立てているそうです。
by Mark Colliton