フジメディアHD総会、出席株主と埋まらぬ溝

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フジテレビジョンを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングスの株主総会は、今年も終始荒れ模様だった(記者撮影)

毎年、一部株主からの過激な発言が飛び交うフジ・メディア・ホールディングス(HD)の株主総会。今年は長年トップを務めた日枝久前会長が代表を退き、嘉納修治会長、宮内正喜社長がグループの指揮を執る体制に移行して初めての総会だったが、株主の修正動議が相次ぐなど、荒れ模様となった。

フジメディアHDは6月27日、本社近くのホテル、グランドニッコー東京 台場で第77回定時株主総会を開催した。昨年同様、会社側が提案した議案である「剰余金の処分の件」「取締役17名選任の件」「監査役1名選任の件」は承認され、株主側からの修正動議はすべて否決された。10時から始まった総会は2時間40分(昨年は2時間58分)で閉会となった。

業績や戦略の質問が相次ぐかと思いきや…

フジメディアHDの前2018年3月期は、営業利益252億円(前期比13%増)で5期ぶりの増益となった。都市開発事業の中核、サンケイビルが保有ビルの売却で業績を牽引。放送事業の主力であるフジテレビジョンもコスト削減や業務の見直しを徹底、営業利益44億円(前期比10%増)と6期ぶりの増益だった。


また5月には、近年目覚ましい成長を見せる都市開発(今期から都市開発・観光事業に改称)ではなく、フジテレビの増益によってグループを成長させる中期計画を発表した。このため、今回の総会は、前期実績についての評価や、今後の成長戦略に関する質問が相次ぐかと思われた。

しかし、今年もスムーズな総会とはならなかった。会社側の報告が一通り終了すると、質疑は株主の強烈な修正動議で幕を開けた。

「日枝取締役と(フジテレビで編成・美術制作を統括する)石原隆取締役は取締役ではなく、監査役になるべき。また、AKB48グループの指原莉乃氏を取締役にして視聴率を上げ、嫌なら見るなで有名な(お笑い芸人の)岡村隆史氏も取締役として視聴率が下がった責任をとってほしい。ダウンタウンの浜田雅功氏はギャラが高いので取締役に。(高須クリニック院長の)高須克弥氏、元NHKの登坂淳一アナとNHKから国民を守る党の立花孝志氏。お笑いビッグ3のタモリ氏、ビートたけし氏、明石家さんま氏、その娘のIMALU氏、(お笑い芸人の)小峠英二氏も取締役にする」という驚きの内容だった。

その後も幾度となく動議が出された。「配当を40円ではなく50円に」「代表取締役会長以下、取締役の選任は行わず、名簿から全員削除すること」「東京電力の社長だった南直哉氏を監査役に再任すべきでない」「修正動議を原案と一括採決し、監査役がほとんど寝ていることも注意できない議長に対する不信任動議」「フジ社内で日枝氏が代表と呼ばれていると聞く。代表でない人物を、代表を呼ばないように決議すべき」「休憩をとり、バイキングを見学させてほしい」などといったものだ。決議事項と関係のない提案も多かった。


株主総会は今年も、本社隣のグランドニッコー東京 台場で開催された(記者撮影)

フジテレビについては、番組の質についての質問が寄せられた。「昨年も指摘したのに、なぜ報道でミスが多発しているのか」との質問に対して、フジテレビで報道・情報制作を統括する岸本一朗取締役は「ミスが続発したことについては申し訳ない。研修会議を開いたり、番組ごとに危機管理担当をおいてチェックし、制作フローを見直している。今後も再発防止に努めていく」などと回答した。

「大人が見るのに耐えられる番組を」

主婦で、フジテレビをよく見ているという女性が質問に立つと、「大相撲の内紛や日大アメフト部問題、紀州のドン・ファンなど、なぜいつまで経ってもスカスカの内容を放送し続けるのか。サッカーも小柳ルミ子氏を出演させるなど、なぜバラエティにしてしまうのか。低俗な番組ではなく、大人が見るのに耐えられるものを作ってほしい」と厳しく指摘した。

そのほか、「AKB選抜総選挙の視聴率が毎年下がっている。仕切り直して質を上げてほしい」「視聴者の半分は女性や子供。極楽とんぼの山本圭壱氏や狩野英孝氏など、性犯罪などの不祥事を起こしたタレントを出すべきではない」「株主を番組にキャスティングしてほしい」「放送免許を返上し、不動産事業に特化したほうが株価は上がる。カジノ事業をやればグループはさらに栄える」など、さまざまな意見が挙がった。フジテレビについての質問は主に岸本取締役と石原取締役が担当し、宮内社長の発言はなかった。


お土産は料理家・栗原はるみ氏のレシピ本。本社の球体展望室の入場券、ボールペン。昨年(社員食堂ビーフカレー、球体展望室の入場券、手ぬぐい、ニッポン放送のみ聴取できる「FMバッヂ」)と比べて縮小したためか、「日枝さんのときはこんなことはなかった」とこぼす株主もいた(記者撮影)

経営全般については、「米国ではメディアの買収合戦が起きているが、どう考えているか」との質問があった。金光修専務取締役は「当社は放送認定持株会社で、外資(による買収の)規制やマスメディア同士でも規制がある。ただ、現在のルールが未来永劫続くわけではない。そこも考えて経営していきたい」と回答している。

また、毎年恒例の「株主優待がなぜオリジナル手帳なのか」という質問もあった。和賀井隆常務取締役は「昨年にアンケートを実施し、1万人から回答をいただいた。うち6割が手帳を使っているということだった。利便性やコストも考えてよいと思う」などと答えた。

昨年の総会では、相談役に退く日枝氏の役割や、宮内社長の経歴のほか、都市開発事業出身の取締役や女性役員がいないことについても質問があった。だが、今年は一部の株主が例年のように特定の問題を追及する場面こそあったものの、経営課題や成長戦略に関する質問は少なく、中期計画についての質問は皆無だった。会社側と株主(主に出席する一部の過激な株主)の間で、コミュニケーションが取れていないことが浮かび上がった形だ。

もちろん、株主の不満は、株価が2016年から上昇基調にあるとはいえ、2000年の高値1万4000円台から大きく下落し、低迷している(27日終値は1869円)ことに起因しているだろう。だが今後、中期計画を完遂し、株価が上昇したとしても、一部株主が強硬姿勢を変えないかぎり“荒れ模様”が続くのではないか。そう感じさせる総会だった。