団塊ジュニアが愛するサンライズアニメが充実(映像居酒屋 ロボ基地Twitterより)

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アニメを見ながら酒が飲める居酒屋

 東京都豊島区西池袋に「映像居酒屋 ロボ基地」という店があるのをご存じだろうか。中に入れば、アニメ作品のポスターやプラモデルなどが飾られ、大きなモニターにはロボットアニメの映像が流れている。

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 放送されているのは70年代の「勇者ライディーン」や「機動戦士ガンダム」から、2016年放映の「マクロスΔ(デルタ)」など20コンテンツ22作品。多彩なラインナップだが、やはり居酒屋だからだろう、団塊ジュニアが愛するサンライズアニメが充実しているのが印象深い。40代の男性顧客をしっかり掴むつもりなのだ。

 3月は「コードギアス 反逆のルルーシュ」フェアを開催中だ。例えばフードなら期間限定コラボメニューが用意され、「黒の騎士団 イカ墨パスタ」や「紅蓮弐式 アヒージョ」という料理が並ぶ。分かる人には分かるし、分からない人は全く分からない。

団塊ジュニアが愛するサンライズアニメが充実(映像居酒屋 ロボ基地Twitterより)

 そして最も驚かされるのは、この「ロボットアニメ居酒屋」を運営しているのが、あの「養老乃瀧」だということだ。チェーン居酒屋のパイオニア、老舗と言っていい。意外に思える新規事業に挑戦した理由を、担当者に訊いた。

――どういう経緯で「映像居酒屋 ロボ基地」を立ち上げられたのですか?

担当者 もともと我々の企画ではなく、バンダイナムコグループのバンプレストさんと、アニメコンテンツを活用した商品企画などを手掛けるレッグスさんから、「知的財産(IP:Intellectual Property)ビジネス、知的財産居酒屋をやりませんか?」と声をかけていただいたんです。

スタートは期待外れ

――居酒屋ビジネスは先細りが懸念されています。危機感のようなものが背景にありますか?

担当者 間違いなくあります。日本で最初に居酒屋のフランチャイズチェーンを始めたのは弊社です。当初は脱サラをされた個人事業主の皆さんが支えてくださいました。現在は法人の方々も、我々のフランチャイズチェーンに加盟し、一等地の店舗で運営している方も多くいらっしゃいます。

「養老乃瀧」を支えてくださっている個人事業主の方の中には、残念ながら一代で終わってしまうことも少なくありません。総店舗数は減少傾向を示しています。ただ、我々が展開する「一軒め酒場」については店舗を増やしております。

 また、後継者問題などの事情でやむなく「養老乃瀧」をお辞めになる古くからの店舗の売上に比べ、「一軒め酒場」の店舗の売上が多く、そのため弊社の総店舗数が減少しても、「一軒め酒場」が下支えしていることもあり、弊社全体の売上の減少は軽微です。ただ、それも永遠に続く話ではありません。「養老乃瀧」のテコ入れを行いながら、新規ビジネスにもチャレンジしていく。その象徴が「ロボ基地」だと位置付けています。

――2017年11月1日に「ロボ基地」をオープンされました。現在までの手応えはどうですか?

担当者 率直に申し上げますが、スタートは期待外れでした。誤解して頂きたくないのですが、お客様は来てくださったんです。こちらが期待しすぎたんですね(笑)。年が明けて2018年になり、2月ごろから売上が相当に伸びました。今は非常に好調です。

 接客ノウハウも、営業しながら学びました。例えば、自作のプラモデルを持参し、机に置いて酒を飲まれるお客様がいらっしゃいます。最初は「楽しんでおられるから、そっとしておこう」と遠くから眺めていたんです。でも、それでは駄目だったんですね。

一種のカルチャーショック

担当者 お客様はコミュニケーションを求めておられるんです。店員が何のアニメのプラモデルか知っていれば、それをお客様に伝える。知らなければ、「何のプラモデルですか?」と話しかけさせていただく。やはり店員とお客様との交流が大事だという、居酒屋の原点みたいな話なんですけどね。そういうことを積み重ねていくと、店員が先回りして、「そのプラモデルを大事なお客様として、箸やおしぼり」を準備したりもします。お客様はプラモデルと酒を酌み交わして、我々のサービスを喜んでくださる、そんな店に成長してきています。

――最後は店員さんの力、ということですか?

担当者 いえ、それは違います。店の実力・魅力を100%として、接客の割合は50%でしかありません。やはりアニメ自体の魅力が厳然として50%あります。知的財産(IP)の許諾をいただいているからこそ、お客様は我々の店に来てくださったわけです。

 この「ロボ基地」のフードメニューは、我々の常識からすると割高なんですよ。これは理由がありまして、別に弊社が不当な利益を得ているというわけではないんです。版権の使用料がフードの価格に上乗せされているんです。

 我々は大衆居酒屋を営んでまいりましたので、良質な料理やアルコールを、できるだけ安く売るという使命で仕事に従事してきたわけです。値段を下げることはあっても、値段を上げるなんてことは考えたこともなかった。ところがお客様から「高い」とクレームをいただいたことは一度もないんです。むしろ会計の時に「楽しかったです」と感謝してくださる。非常にありがたい話ですが、強烈なカルチャーショックを受けているのも事実ですね。

実験に挑む会社は倒産しない

――店員さんは、アニメ好きな方々を集めておられるんですか?

担当者 アニメ好きは条件に入っていません。「嫌いじゃないならOK」というスタンスですね。仮に好きだとしても、90年代に生まれている店員も少なくありません。70年代とか80年代のアニメは知らないわけです。そうすると店員たちは、お客さんに教えてもらいます。お客さんも自分が好きなアニメを教えるという機会はそれほどないので、非常に喜んで教えてくださいます。奥さまに話そうとされても、あまり聞いてもらえなかったとか、色んなことがあるんですね。

――そうして獲得された貴重なノウハウは今後、どのように活かされるのですか?

担当者 おそらく「ロボ基地」を全国に100店舗出すというのは難しく、そこまでのマーケットはないでしょう。ただ、一等地を必要としない店舗だという手応えは感じています。池袋はアニメの聖地として有名だということもあって、この「ロボ基地」に足を運んでくださっている。でも、店が魅力を最大限に発揮すれば、路地裏でもファンが来店してくださるかもしれない。そんなことを考えています。

 また今、日本では多くの業界が人手不足に直面しています。特に飲食業界は深刻で、弊社も例外ではありません。ところが興味深いことに、この「ロボ基地」は「働きたい」と応募してくれる方々が多く、スタッフに恵まれているんです。人手不足を解消するヒントが見つかるかもしれないわけです。

 そうしたことも含めて弊社にとって、この「ロボ基地」は相当に貴重な場所だと思います。我々が作り上げてきたノウハウに加え、バンプレストさんとレッグスさんのビジネススタイルを目の当たりで勉強させてもらえるわけです。強い刺激を受けていますね。

 担当者へのインタビューは以上で全てだが、フードサービス・ジャーナリストで「フードフォーラム」代表を務める千葉哲幸氏は「実験にチャレンジする意欲がある会社は倒産しません」と指摘する。

「ロイヤルホールディングスは昨年11月、東京の馬喰町にキャッシュレスの店舗をオープンしました。普通は飲食業界の人手不足は深刻ですから、生産性向上のためのキャッシュレス化と受け止めてしまうんですが、実は違う。最終的には従業員をレジ業務から解放し、接客のホスピタリティを向上させるところまで狙っている。これでこそ本当の実験という気がします」

チェーン店でも求められる個人店舗の魅力

「養老乃瀧」が「ロボ基地」で挑戦したことも、そうした「前向きの実験」だと言う。

「80年代までは数が力でした。チェーン展開によって材料を安く仕入れ、低価格で多くの人に食べてもらうことが理想的なビジネスモデルだったわけです。しかし今は外国人観光客も加わって、日本人の食の多様化は著しく進んでいます。チェーン店であっても、個人店舗のようなきめの細かいサービスが求められています。『ロボ基地』には、アニメ好きの店主が始めました、という要素があるわけです。それをチェーン展開している老舗居酒屋が経営しているところに面白さがありますし、居酒屋の未来を感じるわけです」

 そもそも「一軒め酒場」を「養老乃瀧」が運営しているということに驚いた呑兵衛も、相当な数に上るのではないだろうか。養老乃瀧という“本丸”を守ることがどれほど大変か、雄弁に物語る事実だろう。

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週刊新潮WEB取材班

2018年3月20日 掲載