縦に速い攻撃を徹底するハリルホジッチ監督。だが、それだけでワールドカップで勝てるのか。(C)Getty Images

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[キリンチャレンジカップ2017]日本 3-3 ハイチ/10月10日/日産スタジアム
 
「私が率いてきた日本代表のなかでもっとも酷い試合」
 
 ドローに終わったハイチ戦をそう振り返ったのは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督だ。FIFAランク48位のワールドカップ予選敗退国を相手に、これだけ苦戦を強いられるとは指揮官も予想していなかったのだろう。試合後のコメントには怒りと失望の色が滲み出ていた。
 
 立ち上がりは悪くなかった。テンポの良いパスワークで敵を翻弄し、17分までに2ゴールを奪取。大勝ムードすら漂っていた。
 
 ところが28分にワンチャンスを決められると、53分にも一瞬の隙を疲れて被弾、そして78分に逆転を許してしまう。終了間際の香川のゴールで辛うじて引き分けに持ち込んだとはいえ、ハイチが日本のスピードに慣れた後半は、前半ほどチャンスを作れなかった。
 
 ニュージーランド戦でもそうだったが、日本は最大の武器であるスピードを封じられると途端に攻め手を失ってしまう。守りを固めた相手を崩し切れず、不用意なボールロストからカウンターを喰らう。そうしたシーンはこの10月の2試合で何度も見られた。
 
 ハリルホジッチ監督は「縦に速いサッカー」を目指している。選手たちはそれを実践しようとし、実際機能していた時間帯もあった。ただ、ワンパターンな攻撃を繰り返して崩せるほど、ニュージーランドとハイチの守備陣は簡単ではなかった。
 ハリルホジッチ監督がカウンターを重視しているのは、同格以上の相手が大半のワールドカップ本大会を見据えているからだろう。その方針自体は間違っていない。現状の日本のタレント力や選手の特性を考えれば、妥当な判断と言える。
 
 看過できないのは、ポゼッションを軽視していることだ。9月28日のメンバー発表の際、ハリルホジッチ監督はボール支配率が40パーセントだったパリSGがバイエルンに3-0で圧勝したチャンピオンズ・リーグの一戦を引き合いに出し、日本のメディアに蔓延る「ポゼッション至上主義」に警鐘を鳴らした。
 
 たしかに「ボール支配率」にこだわるのはナンセンスだ。そのデータが勝利を保証するわけではないし、より勝敗に直結する傾向がある「決定力」や「デュエルの勝率」に重きを置くスタンスも理解できる。
 
 ただ、ポゼッションというスタイルそのものを放棄すべきではない。この2試合を通して選手から聞こえてきたのは、指揮官の徹底した速攻スタイルへの戸惑いの声だった。ハイチ戦後、酒井高徳はこうコメントしている。
 
「僕はパスを回すのが好きなタイプ。ただ、それを監督がどう評価するかはわからない。試合後に話があって、そのあたりのギャップを感じた。縦に速い攻撃を目指しているけど、低い位置で守る相手にはどうするのか。裏を狙うにしても、スペースがないとそれは無理。そういう相手に対しての戦い方をもっと突き詰めないといけない」
 
 ワールドカップ本大会でも、相手が引いてくるシチュエーションは十分に考えられる。例えばリードを許した状況で相手が守りを固めた場合、そこをどうこじ開けるのか。酒井高が言うように、縦への攻撃だけで崩すのはやはり限界がある。パスワークで敵を揺さぶって崩すようなアプローチは絶対に必要だ。
 
 ワールドカップ王者のドイツ代表がそうであるように、世界のトップクラスはポゼッションとカウンターを高度に使い分けている。もちろん日本とはタレント力に差があるにせよ、ひとつの戦術だけで勝ちきれるほど、現代サッカーは甘くない。
 
 ハリルホジッチ監督がこのままポゼッションを軽視し、カウンターに傾倒したままなら――。ワールドカップ本大会での苦戦は免れないだろう。
 
取材・文:高橋泰裕(ワールドサッカーダイジェスト編集部)

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