横浜FCの中盤に君臨する中里(6番)と佐藤(8番)。ともに精度の高いキックを武器とするボランチだ。(C) SOCCER DIGEST

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 J2リーグ9節。横浜FCが千葉を奈落の底に突き落とした芸術的な4ゴールはどれもインパクトがあったのだが、惜しくもゴールと成らなかったふたつのFKも強く印象に残るものだった。
 
 24分、自陣センターサークル付近でイバがファウルをもらうと、横浜FCの新主将・佐藤謙介はセットされたボールを躊躇せずそのまま足の甲で叩く。シュートは鋭い軌道でゴールまで一直線に向かっていったが、GK佐藤優也が頭上を越す寸前でなんとか触り、CKへ免れた。
 
「GKが高い位置に出るというのが分かっていたし、前半のうちに何回か見ていたので。うーん…入ってほしかったですね(笑)。よく触れたな、という感じでした」
 
 本人は悔しそうな表情でこう振り返ったが、試合前から考えていた狙いと瞬間的な判断が合わさって生まれた質の高いプレーに対しての満足感も窺えた。
 
 そしてもうひとつのFKが82分。スタンドの観衆を完全に“騙した”中里崇宏のプレーである。敵陣左サイドの角度があるエリアで得たそのセットプレーからは、誰もがゴール前で待ち構える味方の選手たちへ合わせるボールが配給されると思ったに違いない。しかし、彼が選択したのは不意を突くシュートだった。間一髪のところで千葉GKの佐藤が防ぎ、ゴールとはならなかったが、その左足が残した余韻は大きかった。
 
「イバにも合わせてくれと言われていて、僕も合わせるつもりでもありました。ただ、GKの立ち位置を見た時に左で巻いたらいけるかなと思って。ちょっとシュートが弱かったですけど、惜しかったなと」
 本人は淡々とこのシーンを振り返った。
 
 横浜FCは後半に4得点を生み出して結果的に快勝したが、「率直に、4-0のゲームではない」と中里が言うように前半は千葉のサイド攻撃に後手を踏み、いいようにやられてしまった。
 
 そんな前半の展開を受け、ハーフタイムに中田監督は修正を加える。4-3-3のインサイドハーフもサイドに流れる千葉の攻撃に対応するため、3-4-2-1に変更し、5バック気味でマークをはっきりさせる形に変更した。これが奏功したことで、前半はサイドへの守備に引っ張られていたボランチのふたり、佐藤と中里を中央でのプレーに専念させる状況が生まれた。
「後半はちょっと余裕を持ってプレーする状況ができたので、その分オフェンスのところでも貢献できたのかなと思います。 あそこ(中央)でリズムが作れればこっちの流れになるというのは分かった」(中里)
 
 もともとボールを引き出し、はたいて展開することに長けたこのふたりが前向きに持つことができれば、必然的にチャンスは広がる。象徴するのが1点目と3点目の佐藤のプレーで、それぞれイバとジョン・チュングンが突破に至る前段階のパスだ。何気ないプレーに見えるが、「ここからは自分で仕掛けて取ってこい!」というようなメッセージがこもった、ボールスピードも落としどころも完璧なパスだった。
 
その佐藤を活かすため、中里はバランス感を考えながら黒子として「後ろに重きをおきながら」サポートをしているという。関係性も抜群だ。ちなみに、先に述べた中里のFKの裏では佐藤がひたすら「打て打て」と連呼していたらしい。
 
 1歳違いの両者は、大学を卒業して横浜FCにやってきた“生え抜き”的な存在だ。サポーターの期待も大きいこのふたりが、10年ぶりの昇格を目指すチームのキーマンとなるのは、間違いないだろう。横浜FCは、イバだけのチームではない。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)