結婚は、女の幸せ。

そう考える種類の女にとっても、結婚は必要条件に過ぎない。

結婚しただけでは満たされない。女たちの欲望は、もっと根深いものだ。

おうちサロンをオープンし浮かれる由美。しかし同じマンションの最上階にカリスマサロネーゼ・マリが越してきて出鼻を挫かれる。

マリと張り合いたい由美は、読者モデルのミカが立ち上げた「アロマライフスタイル協会」に入会することで、雑誌掲載の機会を掴む。

徐々に人が集まりはじめた由美のサロン「Brilliant」。そこに、由美の後輩で超がつくお嬢様の薫がやってきた。結婚が決まった薫も、二子玉川のお隣・用賀でサロンをはじめるのだそう。

お嬢新妻・薫が考える、サロンの存在意義とは?




サロンと一括りに言っても…


「完璧なものを誤って模倣することは、いつの世も喜劇の題材となる」

モリエールの「才女気取り」ってご存知かしら?

プレシューズ(上流貴族の社交界に出入りする才女たち)の真似をする田舎娘を揶揄した戯曲。

古典文学好きの母が持っていたモリエール全集に収録されていて、私は高校生の時に初めて読んだのですけれど。

サロンを開くにあたり、最近ふと読み返しておりましたの。

この喜劇が公開されたのは1659年…もう350年以上も前の作品ですのに、でもまったく色褪せない内容で驚きました。

それだけモリエールが真理を突いているとも言えるし、国や生きる時代が変わろうと、女たちの根本は変わらないということかもしれませんわ。

1650年代のフランス・パリではサロン文化が一大ブーム。「才女気取り」が公開された頃は、プレシューズの猿真似をして知識をひけらかす女たちが社会現象になっていたそう。

…どこかで聞いたような話じゃありませんこと?

昨今のお稽古ブームで、サロン主宰を名乗る方が後を絶ちませんが…今も昔も、知性ある人の元には才女が集い、それなりの人の元にはそれなりの女が集うもの。

すべてのサロンを一括りにしないで頂きたいですわ。


有閑マダムの暇つぶし、に反論?彼女が考えるサロンの存在意義とは


サロンとは、美しいものに触れ、会話を楽しむ社交場


結婚が決まった薫がサロンを始めようと思うに至ったのは、ごくごく自然な流れだった。

薫の母は、英国式フラワーアレンジメントの講師。
幼い頃から品の良い女性たちがひっきりなしに出入りし、母のことを「先生」と呼び慕うのを見てきた。

母のサロンは完全紹介制。
レッスン場所が自宅ということもあり、誰かの紹介がなければ敷居を跨げない仕組みになっていた。

お稽古は専用に用意されたレッスンルームで行われたが、レッスンが終わっても生徒たちはすぐには帰らない。リビングに移動し、日が暮れるまでお茶会が続く。

ティータイム用に、母はいつも英国仕込みのスコーンを焼く。紅茶はわざわざ英国で暮らす祖母を通じて(当時は日本未上陸だった)フォートナム&メイソンの紅茶を準備する徹底ぶり。

皆が帰った後おこぼれに預かれるから、薫はレッスンのある日が好きだった。それに、こっそりお茶会の様子を覗き見るのも好きだった。

集う生徒たちの年齢層は20代〜60代と幅広い。
しかし女性たちはお互いに絶妙に気を遣い合い、年齢差をまるで感じさせない。

会話は鳥が囀るように心地よいリズムで進み、そこに集う全員が幸福感に包まれているような空間―。

その優雅で洗練された空間を提供し取り仕切っているのが、薫の母。

英国で暮らした経験があり語学堪能、結婚前は日系航空会社でCAをしていた才色兼備の母は、薫の自慢であり憧れの存在だ。

「サロンは、美しいものに触れ、非日常の会話を楽しむ社交場なのよ。」

母の言葉は、そのまま薫の価値観として根付いた。




用賀にある瀟洒な一軒家の広々としたリビング。

薫は昨年から暇を見つけてはここに通い、英国式ティーサロン「Queen’s Tea」のオープン準備を進めている。

学生時代、長期休暇のたびに祖母のいる英国を訪れ、取得したティーマスターの資格。

いつか仕事に…と夢見ていたことが、ようやく現実となる。リビングが日を追うごとに理想のレッスンルームに近づいていく様を見て、薫の胸は高鳴るのだった。

用賀の家には、祖母が長年かけて集めた銀食器やテーブルウェアコレクションがある。

なかなかお目にかかれないアンティークのウェッジウッドや、エインズレイ、ロイヤルアルバート等々。祖母は快く、レッスンでお使いなさいと言ってくれた。

―優雅な空間に、美しい食器たち。あと欠かせないのは…香りだわ。

そう思って、昨年末、薫は由美のサロンでアロマライフスタイル協会の講座を受講したのだった。


サロンの歴史を知る薫。由美のサロンを訪れた感想は…?


自らの居場所を嗅ぎ分ける、女の嗅覚


アロマライフスタイル協会の講座、とても楽く受講させていただきました。

まだできたばかりの協会みたいですけれど、アロマを手軽に習いたいという方にはぴったり。想像よりテキストもしっかり作られていました。

今月から夫と暮らす二子玉川の新居ではもちろん、用賀のサロンでも、アロマディフューザーを季節や気分ごとに手作りして楽しみたいと思っています。

…でも、もともとお知り合いでなければ、私は由美さんのサロンには通いません。

なぜか、ですって?

私と由美さんでは趣味嗜好が違います。
レッスンで一緒だった他の方の雰囲気も、私とは違っていました。

例えば?

そうですね…レッスン後のティータイムで、由美さんがヘレンドのカップでお紅茶を出してくださったんです。

その時、私の隣に座っていた方が、「これもポーセラーツで作ったものですか?」とおっしゃって。

ヘレンドをご存知ないことをどうこう言うつもりはないんですのよ。

それから、もう1人いらした方が持っていたバッグが、「ケリー風」で。風っていうのはつまり、偽物ってことですわ。

レッスン自体は楽しかったし、由美さんの教え方も上手でした。由美さんって、サービス精神があるからサロン業向いているんじゃないかしら。

ただ私はヘレンドとハンドメイドの食器が見分けられない方や、ブランドのコピーバッグをお持ちになる方と同じ空間にはいられません。

私はお稽古が大好きで、学生時代からお料理教室、マナー講座、テーブルデコレーション、生花…等々、たくさんのサロンを見て参りました。

長く通ったサロンもあれば、すぐに足が遠のいたサロンもありますが、どのサロンも同階級の女性が集まっているもの。

今は紹介や口コミではなく、アメブロやInstagram上の、言わば作られた存在がサロンのイメージを支配している時代。

顔や実名を明らかにしていらっしゃらないサロン主宰者も多いですわね。

それでも、画像のセンス、添えられたコメント、ブログ記事の行間から。

女性たちは敏感に「同じ匂い」を察知し、自分が居心地良く居られるサロンに集うのでしょう。

もちろん、「Queen’s Tea」は鍛えられた一流の審美眼を持つ方にこそ、選ばれるサロンですわ。

…私自身が、そうであるように。

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とにかく今の自分を変えたい!現実逃避する女たち。