ロッテリアの看板商品「エビバーガー」(写真は2016年バージョン)

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1972年創業、ハンバーガー業界第3位。ファミリー層をメインターゲットとするロッテリアは、2007年に投入した絶品チーズバーガー、味付けポテトの「ふるポテ」、ハロウィンの限定商品など、商品力、イベント性に“おもてなし”を加えた、総合的な戦略でハンバーガー戦争に臨む。

マクドナルドは1971年、モスバーガーとロッテリアは1972年。「マクドナルドの復活は本物か」(http://president.jp/articles/-/20514)で取り上げた、日本のハンバーガーチェーン上位3社は、ほぼ同じ頃に創業している。本特集では3社がそれぞれどのような戦略なのか、個別の記事で明らかにしていきたい。

今回取り上げるのは、3位のロッテリアだ。2005年に企業再生会社リヴァンプと資本提携して経営再建に取り組んだことは当時大きな話題になった。経営改革が進んだとして2010年にはリヴァンプとの資本提携を解消、ロッテリアホールディングスの佃孝之社長が社長に就任した(現社長は谷林義幹氏)。グループ支援もあり、現在財務面は良化してきている。

メインターゲットはファミリー層だというロッテリア。商品力、イベント性+“おもてなし”という同社の戦略について、以下くわしく聞いていこう。

■「エビバーガー」「絶品チーズバーガー」が生まれた理由

ロッテリアは1973年、アイスクリームショップのアンテナショップとしてスタートした。看板商品は、1977年から続くエビバーガーだ。発売当時は、エビといえば“腰が曲がるまでの長寿”を意味する縁起物で、高級食材のイメージが強かった。高度成長期は脱していたものの、みんなの口に毎日のように入るものではなかっただろう。そんな万人が憧れる高級食のエビをファーストフードに使って、ロッテリアの歴史はスタートしたのだ。

その後エビバーガーは時代時代のニーズに合わせて改良を重ねてきており、現在は14代目だという。プリッとした食感のエビをサクサクの衣で包み、野菜やソースとともにバンズに挟んだエビバーガーはまさに、エビのおいしさを最大限に味わうことのできるバーガーとして、今もロッテリアのトップスターと言える。

「しかし、ハンバーガーといえば本来は肉の料理です。エビだけでは足りない、ビーフの4番バッターが欲しい、ということで、2007年に絶品チーズバーガーを発売しました」(ロッテリアマーケティング部小島啓太氏)

絶品チーズバーガー(380円)は“世界一おいしいチーズバーガー”をコンセプトに開発されたバーガーだ。パティには、肩ロースと肩バラ肉という部位指定の肉を使用。ロッテリアの他のバーガーでは2〜3ミリのところ、最大8ミリという粗挽きにし、肉の食感を強調している。また、ペッパーやオレガノといったスパイスを加えたほか、店舗のキッチンで塩を振る“ひと手間”によって、肉のおいしさをより引き出した。

ファーストフードチェーンとしては、本来ならパティそのものに塩を練り込むほうが、調理工程が単純化され効率的だ。しかし味に奥行きがなくなり、肉の風味が感じにくくなる。そのため、店舗で1品ずつ調理する方法を選んだ。

また主役のチーズには、ゴーダチーズとチェダーチーズという2種類のナチュラルチーズを採用。時間が経つと味が変わりやすいが、プロセスチーズより味わいにコクやパンチがあるため、管理が難しいナチュラルチーズを敢えて使用した。

このように、ファーストフードの域を超え、満を持して発売された絶品チーズバーガー。発売以来長らく、エビバーガーと人気を競い合ってきたが、2015年ついに売上げがエビバーガーを超えたという。

■ポテトやシェーキ、チョコレート商品で特色を出す

以上、エビバーガーと絶品チーズバーガーがロッテリアの2本柱となっている。さらにロッテリアの特徴は、それを取り巻く“脇役”とも言うべきサイドメニューが非常に充実していることだ。

脇役商品のなかでも、消費者の支持率が高いのがポテト。フレーバーのパウダーとともに紙袋に入れ、ガサガサと振って自分で味つけして食べる“ふるポテ”が人気で、これまでにさまざまなフレーバーが発売されている。カルビーのスナックとコラボした期間限定フレーバーが発売されたこともあり、時期に応じて季節性や話題性を演出する商品でもある。

また“ロッテリアならでは”とも言えるのが、スイーツの品揃えだ。もともとロッテグループの一員として、チョコレートやアイスクリームに強く、シェーキ(ミルクシェイク)や、ジェラートを浮かべたフロートドリンクなどが人気。さらに最近では、ロッテブランドの商品を活用した商品が「20〜30代の女性に飛び抜けて好評」(小島氏)なのだという。例えば、ロッテのチョコレート菓子のブランドである、ガーナミルクチョコのシフォンケーキ(350円)やチョコレートパイ(150円)などだ。これらの商品では特徴的なガーナの赤いパッケージを踏襲しており、ブランドカラーを全面に押し出している。いつもはスーパーやコンビニで買うしかない出来合の商品の味を、店舗で、できたてで楽しむことができる。魅力あるブランドにさらに「手作り」の価値が加わり、消費者の購買意欲を刺激していると言える。

■サイドメニュー、季節ごとのキャンペーンに力を入れる理由

このように品揃え、質ともに充実したサイドメニューを誇るロッテリアだが、脇役に力を入れるのにはわけがある。主力商品であるエビバーガー、絶品チーズバーガーは原材料や調理法のこだわりに比して、それぞれ単品で360円、380円という低めの価格設定だ。この価格でも、ファーストフードとしては普通、むしろ「高い」と感じる人もいるかもしれないが、食材の原価や人件費が高騰する一方の昨今では、原価ギリギリ、というところ。そこで、できるだけサイドメニューを組み合わせて買ってもらい、総合的に利益を出す、というのがロッテリアの戦略だ。

またロッテリアではさらに、イベント性を加えることによって、付加価値のアップを狙っている。もともとファミリー層をターゲットとするロッテリアは、季節折々の歳時記に合わせた販促キャンペーンをお家芸としている。2016年に限っても、お花見にちなむ春色エビバーガーや、イースター、こどもの日、七夕のフェア、月見バーガーといった具合。季節の行事に応じた商品を発売したり、フェアを打つことで、購買意欲を高める戦略だ。またこの戦略は、家族や友人とともに過ごす時間を楽しんでもらいたい、という、ロッテリアの方針にも通じる。

9月15日から10月末にかけては、ハロウィンをテーマとし、アミューズメントツールにも力を入れている。これは2015年からの取り組みで、例えば一番価格が高い商品が、「紫魔術のベーコンW絶品チーズバーガーBOX」。チーズに紫芋のパウダーで色づけをし、ハロウィンらしくデコレーションしたバーガーが、ドラキュラの眠る棺桶をイメージした限定ボックスに入っているというもので、ポテト、ドリンクとのセットで950円だ。

そのほかにも、バーガーやポテトの包材、シェーキのストローなどにもハロウィンならではの工夫を凝らし、イベント性を高めている。

「ツイッターやインスタグラムなどのSNSやメディアでの露出により、これまでの10数倍注目度が高まっていると感じます。またこれは当初の狙いでもあったのですが、10?20代のお客様が増えており、客層の開拓にもつながっています」(小島氏)。

■「29(ニク)の日」には高級ハンバーガーを提供

こうした季節の行事以外に、毎月の一大イベントとなっているのが「29(ニク)の日」である。そもそもは、2010年の11月29日(イイニクの日)にちなみ、お客への感謝として高級バーガーを期間限定で売り出したのが始まりだ。「はみだしステーキバーガー」(単品840円、セット価格1120円)という商品名の通り、バンズからはみ出すステーキ肉のインパクトによって、大反響となった。11月29日に高級バーガーを限定発売するこのイベントは、その後毎年続くことになる。

さらに2016年2月からは、毎月29日を「しっかり肉を食べる日」として位置づけ、発売期間3日間のキャンペーンを展開している。2月、3月と「タワーチーズバーガー(5段/10段)」を、単品価格750円/1450円というキャンペーン価格で販売。9月には、絶品チーズバーガーのパティをボリュームアップした「肉がっつり絶品チーズバーガー」(単品500円)、「肉がっつりダブル絶品チーズバーガー」(単品800円)を発売した。通常の絶品チーズバーガーの約1.5倍量(直径約11.5cm、約110g)の肉に、チーズも約2倍トッピングしたボリュームたっぷりのこのバーガーを食べるチャンスは、29日をはさむ前後3日間のみ。

「そもそもの絶品チーズバーガーがサービス価格と言えるので、『肉がっつり〜』は大・大サービスの価格。そのため期間を限定してお届けしています。また、コンビニの棚が1週間で入れ替わることを見てもわかるように、お客様にとっては次々に新しい商品があることが当たり前になっています。評価の高い商品でも、いつもメニューにあるのでは、お客様も飽きてしまう。その点プレミア感のある期間限定商品は、お客様に購入を促す機会ともなります」(小島氏)。

■“おもてなし”から生まれたトッピングサービス

最後に、ロッテリアの最大の戦略が、意外にも“おもてなし”なのだという。以前から社外的にも“ひと手間がんばる、ロッテリア”をスローガンに、食材の手配やキッチンでの調理、サービスなどにおいて“ひと手間”を加え、おもてなしを提供してきた。また社内的には“Yes運動”として、お客からの要望にできるだけ応える姿勢を推進してきた経緯がある。例えば、「ハンバーガーにパティをもう1枚追加してくれないかな?」という相談があれば、もちろん有料ではあるが、メニューになくても対応するというようなことだ。

こうしたことから新メニューが開発されたこともある。また“Yes運動”から派生し、2015年11月からは正式にトッピングのメニューが採用された。つまり、お客の好みでカスタマイズができるわけだ。トッピングのなかでは半熟卵が一番人気だという。

さらに付け加えると、ロッテリアではサービスやメニュー開発などにおいて、「お客様相談センター」に寄せられる消費者の声を重んじているという。センター業務は社内で行っており、相談員として店舗従業員があたっているため、現場の状況把握やスピードにおいてきめ細やかな対応が可能としている。

上記のトッピング注文を含め、こうしたお客との“距離の近さ”が、ロッテリアの商品開発やサービス戦略の基盤となっているように感じる。

■グルメバーガーブームはむしろウェルカム

「グルメバーガーブームで海外のチェーンなども上陸しています。“黒船”などとも表現されていますが、むしろ我々は業界活性化の意味で喜ばしく感じています。といっても、業界全体を見て、高付加価値を求めるパイはそれほど大きくないと見ています。そのパイへの全面的な参入というのではなく、限定商品などで対応して行きたいと考えています」(小島氏)。

なお、グルメ化やインバウンド対応という意味では、銀座店、心斎橋店などの実験店舗において、高級食材の採用やアルコール提供といった試みを行っている。ロッテのグループ力をバックに、守備範囲を広げながら堅実な歩みを進めるロッテリアの姿勢が垣間見える。

(文=圓岡志麻)