「生きてるって実感する」――加藤和樹が舞台に立ち続ける理由
加藤和樹にとって、決しておいしいだけの話ではない。舞台『真田十勇士』再演のことだ。立場としては、過去に演じてきた由利鎌之助役から、主演・中村勘九郎が演じる猿飛佐助に次ぐ二番手・霧隠才蔵への“格上げ”ではある。だが、初演で松坂桃李が演じ高い評価を得て、9月公開の映画でもそのまま松坂が演じた才蔵を引き継ぐことになるわけで、否応なく比較されることになる。一見、リスクの大きなこの勝負に、それでも加藤は乗った。迷いもあったし不安や恐怖はいまでもある。だが「やってみたい!」という思いが上回った。「セクシーな才蔵を見せてやりますよ」――近年、舞台やミュージカルで果敢な挑戦を続ける31歳は不敵に笑う。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



中村勘九郎からの電話で「決心がついた」



――『ケイゾク』『SPEC』(ともにTBS系)などで知られる堤 幸彦監督の演出で2014年に上演され、9月には実写映画も公開となる『真田十勇士』。今年の大河ドラマの主人公でもある“英雄”真田幸村が、実はヘタレで、猿飛佐助ら十勇士が、そんな彼を本物の英雄に仕立て上げていくというエンターテイメントです。加藤さんは初演、映画版で十勇士のひとり由利鎌之助を演じてきましたが…。

なぜか再演舞台では、霧隠才蔵を演じることに…(笑)。「あ? え? なんで…?」って。最初は意味がわかんなかったです。

――才蔵は、佐助に次ぐ十勇士のNo.2といえるクールな忍者ですね。次々と女性を落としていく色男で、初演では松坂桃李さんが演じて「お待たせしました、あなたの霧隠才蔵です」なんてセリフもありました(笑)。再演で自身が演じることになると聞いて…。

正直、戸惑いのほうが大きかった。まず、これまで演じてきた鎌之助という役に愛着もありましたしね。正直、これまで作り上げてきたものが一気に音を立てて崩れていくような衝撃でした。自分が才蔵を演じるってことの意味、大きさはわかってますから簡単に「はい」とは言えなかったですね。



――語弊がありますが、加藤さんにとって不利な勝負と言えます。外から新たに加わるわけではないのに、ゼロから役を作らないといけないし、多くの人が成功を収めた初演の松坂さんの才蔵を知っている。同時期に映画も公開! 「よく引き受けたな」というのが率直な印象です。

お客さんだって当然、思うところはあるでしょう。桃李の才蔵を見たい人もいるでしょうし。ただプロデューサーから「堤監督たっての希望で」と仰っていただき、勘九郎さんも直接お電話をくださり「お前でよかったよ。最高だよ」と言ってくださって、決心がつきました。

――初演時以上に、勘九郎さんとは近い距離でのやり取りが増えますね。

だから怖いんです!(苦笑) 中村勘九郎の隣でお芝居できる機会なんて、今後もあるかどうかってくらい貴重ですし、役者として楽しみですが…、稽古場やオフでの姿も知ってるんでね。「何をやらされるんだ?」と。桃李がいろいろムチャ振りされてる姿も見てるし、監督もそういうの好きだからなぁ…(笑)。



――当然、作品としても初演よりもさらなるレベルアップを求められます。

誰より僕らの中に「もっといいものを!」という前向きな欲求があります! 映画を経たことで「映像でこれだけできたなら、舞台ではこんなこともやろう!」と士気も上がってます。同じことの繰り返しはしたくないし「さらに良くなったね」というものにならなきゃ意味がないですから。

――その中で、加藤版・才蔵がどんな姿を見せてくれるのか? 楽しみですが…。

僕自身、桃李が作り上げた才蔵ってすごく好きなんですよ。もちろん、その良さを継承しつつ、単になぞってもしょうがない。オリジナリティを出せればと思っていますが、いま、あれこれ考えてできるものではなく、稽古場でしか作れないものだと思います。僕自身も楽しみです。



――“エロカッコいい”と評判の才蔵です。松坂さんより4歳年上の加藤さんが演じるからには三十路の魅力が?(笑)

よりセクシーにエロく(笑)。桃李版よりもちょっぴり大人の才蔵を見せられたらいいですね。佐助と才蔵を翻弄するくノ一の火垂(ほたる)との関係性も重要になってきます。火垂役の篠田麻里子さんとは、今回が「はじめまして」ですが、どんな掛け合いが見せられるか楽しみです!



ライブだけで見せる“本当の”加藤和樹



――言葉の端々や佇まいから、安定感や頼もしさが感じられます! 実際、ここ数年で舞台『1789 バスティーユの恋人たち』、ミュージカル『タイタニック』などで主演を任されるなど、ますます存在感を増していますが、ご自身の中で変化や成長を感じますか?

舞台もそうだし、音楽活動でライブもやらせていただいてますが、人前でパフォーマンスをすることで「生きてる!」というのを実感するんですよね。特にここ数年、舞台の“生”の空気にさらされる中で、自分なりにレベルアップを感じられる部分はあります。歌や立ち居振る舞いに関して「良くなった」と言っていただけることも増えて、自信にもなってますね。

――少し遡りますが、初舞台を踏んだのが2005年のミュージカル『テニスの王子様』ですよね? もう11年も前になります!

当時は、いま言ったような自信や成長の感覚なんてまったくなくて、芝居ってよりも部活やってる感じで、がむしゃらに「みんなで力を合わせて頑張ろう!」って感覚(笑)。だから、あんな“青春”ができたんだなと思います。でも、それから先はそれだけじゃ通用しなくて…。



――朗読劇に、ミュージカル、ストレートプレイといろんな作品に出演されてきました。

深作健太さん(『罠』『里見八犬伝』)、白井 晃さん(『オセロ』『ペール・ギュント』)をはじめ、いろんな演出家、共演者の方々とご一緒する中で、自分の足りないものが見えてきたし、ひとつクリアすると、また課題が現れる(笑)。そうすると、こっちも「もっともっと!」という気持ちになる。

――今回の再演に対する思いとまったく同じですね。

作品ごとに違う加藤和樹を見せたいし、「どんどんすごくなるね」って言わせたい! 成長を見せなきゃ意味がないし、何より僕自身が納得できないんです。

――先ほど「人前に立つことで『生きてる!』と実感する」と仰ってましたが、そう感じるようになったキッカケは…。

音楽活動でのライブが大きく関係してると思います。2006年にアーティストとしてデビューして2008年には日本武道館でもライブをやったんですが、そのとき、スタッフ、そして観客のみなさんによって、ステージに「立たせてもらってる」というのをすごく感じたんです。もちろん、どの活動も周囲のみなさんがいてこそできるんですが…。



――ライブの場合は客席の熱狂があってこそですからね。

そうなんです。こちら側と客席が一体となってひとつのものを作り上げるし、その空気で毎回、変わっていく。それがすごく好きで、そこから舞台も好きになりました。最初の頃はライブでも「自分がしっかりしなきゃ!」という気持ちが強すぎて、目の前のお客さんを置いてきぼりにしてたんですよ。

――お客さんと一緒に作っていく楽しさに目覚めた?

こちらが発信し、お客さんのリアクションがあり、それを受けてまたこちらもアクションする――これが楽しいんですよね。これは映像系の作品にはない、芝居、ライブの魅力だなと思います。



――その一方で、『仮面ライダーカブト』(テレビ朝日系)やドラマ『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)など、テレビを通じて加藤さんを知ったファンも多いでしょうし、舞台で初めて見たけど、音楽活動については知らないというファンもいると思います。それぞれで、まったくイメージが違うかもしれませんね?

そうなんですよ(笑)。『ホタルノヒカリ』を見て、ライブに来てくださった方は「こんなオラオラ系なんですね!?」とビックリされてましたし、ライブをやるたびに、いろんな方に「実は激しいですね」とかなり言われます(笑)。ただ、自分としてはそれが一番見せたい姿というか、加藤和樹がどういうヤツかを知っていただける機会なのかなって。



――ライブで見せる姿が素の加藤和樹に最も近い?

そうですね。大多数の役者さんは、役を通してイメージが作られるし、それは役者という仕事の醍醐味なのかもしれません。ただ、僕には「これが自分の本当の姿です」というものを見せられるライブという場所があるんです。

――俳優さんの中には、あえて私生活や素の自分をまったく見せない方もいますが…。

僕はそうではなく、むしろすべての活動がそれぞれに影響し合ってて、それが自分の音楽性にも繋がっているというのを大事にしたい。もちろん俳優として、役を通じていろんな表情や物語を見せたいし、その上で音楽で伝えたい思いがあるんです。欲ばりですが(笑)。