芸能界はオバサンばかり…中国でアイドル文化が育たないワケ
こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。前回は日中のキャラクター文化の差を論じましたが、今回は、日中のアイドル文化を比較しつつ、中国人が驚愕するクールジャパンの威力をお伝えしたいと思います。
2月21日、日本の友人がプロデュースする3人組のアイドルユニット「はぴかむ☆てれぱしてぃ」がライブ出演するというので、お誘いを受けて見学してきました。
「はぴかむ☆てれぱしてぃ」のメンバー。左から佐藤絢美(あやみん)、中央が赤餅志旗(しきたん)、右が平原ゆみか(ゆっち)。みんな明るくてすごく性格がいい。
メンバーのうち2人は現役の女子高生。衣装は、セーラー服をベースに和柄のエッセンスを詰め込んだもので、かわいらしさを前面に押し出しています。それだけで、中国人にとっては衝撃的なユニットです。
中国では18歳未満の少女が芸能界デビューするなんて考えられません。最近は、SNH48が生まれたので状況が変わりつつあるようにも思えますが、SNH48以外でこういうグループは見当たりません。では、中国人は、こういう若い女の子たちのグループに興味がないんでしょうか?
いえ、そんなことはありません。ネット掲示板「百度貼吧」の「日本偶像吧」のスレッドなんかを見ると、AKB48の話題で持ちきりです。日本のファンと同様、総選挙の話題で盛り上がっていますし、大島優子の引退の際には多くのファンが嘆き悲しみました。SNH48も人気を博していますし、中国でも、若いアイドルが好きな人はたくさんいるのです。
中国で重視される「老成」では、中国で日本のようなアイドル文化が育たないのはなぜなのでしょうか。それには幾つかの理由があります。
一点目。中国では、高校までは勉強しなくてはいけないと決められているため、いくらかわいくても、小娘だと芸能界では相手にされません。中国の芸能事務所に応募しても、「大人(18歳以上)になったら来てね」と言われるのが関の山でしょう。
SNHの場合、AKBグループの秋元康さんがプロデュースしたアイドルだからこそ、そんな中国の慣習を破ることができたのでしょう。
二点目。中国には「老成」という価値観があります。人は成長したら、大人っぽく格好つけなければいけないというものです。老成していない者は、未成熟で子どもっぽい奴だと馬鹿にされます。
18歳未満の少女たちに熱狂するアイドルオタクは、まさに大人になりきれていない未熟者です。このように、オタクは日本以上に中国で蔑視されているため、なかなかオタクをターゲットにした商売は生まれにくいのです。それは「漫画は子どもが読むもの」という価値観に縛られ、大人を満足させるような漫画が生まれてこないのも同じ理由です。
そして三点目。今回のアイドルライブの終了後、「はぴかむ☆てれぱしてぃ」のメンバーは、物販コーナーでお客さんの一人一人と握手をかわし、感謝の言葉を述べていました。またお客さんと並んで、一緒にピースサインなどをしつつチェキを撮っていました。
中国の芸能人は、普段、ツンとすましていて、一般人が手を触れようと思っても触れられないような高みにいる存在です。彼らは、常に上から目線でファンのことを見ています。こんなに低姿勢でファンと接待してくれることなんて考えられません。
日本のアイドルは、まさに日本のおもてなし文化を実践していて、まるで近所のかわいい幼馴染みたいに親近感があふれる存在でした。中国の芸能人に同じことをやれと言っても、難しいのではないでしょうか。
日本のアイドル、恐るべし──と実感した夜でした。
著者プロフィール漫画家
孫向文
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)
(構成/杉沢樹)