ブルペンにおける、審判とピッチャーの心理
新戦力や移籍組は、少ないチャンスをモノにしようと鼻息荒く出番を待ち、レギュラーやベテラン組は、各自のペースで開幕に照準を合わせている。久々の日本復帰となる黒田投手は、百戦錬磨の大ベテランだが、どんな気持ちでキャンプインを迎えたのだろうか。
そんな中、昨年までドラゴンズの中継ぎとして“左殺し”の異名を取った小林正人さん（昨年引退、今年より球団広報部）が、独特の表現でブルペンでの思い出を語ってくれた。現役時代は阿部慎之介選手（ジャイアンツ）をして「顔も見たくない」と言わしめた、左打者キラーの小林さんは、今季より広報として第二のキャリアをスタートさせている。
キャンプ取材に訪れたゲストを瞬時に見分け、OB用（金）、ゲスト用（白）、番記者（グレー）、一般記者（青）の4種のキャップを的確に配り分けていた小林さんは、ルーキー広報らしからぬ手際の良さだ。そんな小林さん。実は現役時代、ブルペンで審判員が行うストライク・ボールの練習は「あまり好きではなかった」という。
『僕らは際どいコースを突いて、アウトを取ることが仕事です。ブルペンでゾーンすれすれのボール球を投げる練習をしている時、その都度、１球ごとに、“ボール！”、“ボール！”って声を出されるとね（苦笑）。こっちはわざと際どいボールを投げているのに、“このピッチャーはコントローが悪いんじゃないか？”って審判に思われるんじゃないかって、気になっていました』
なるほど。試合を左右する重要な場面でのワンポイント登板が多かった小林さんは、ブルペンでも繊細な練習をしていたというわけだ。
この話をある中堅審判員にぶつけてみたところ、『意図して際どい球を投げているピッチャーは、もちろんすぐに分かります。だから5球続けて“ボール”とコールをしても、印象は悪くならない。むしろピンポイントのコントロールに感嘆するほどです。それよりも、“次、ボール球いきます！”と言いながら、甘いコースにボールが来るピッチャーの方が、“ストライ〜ク！”とコールをしながら、コントロール悪いなぁって思うものですよ（苦笑）』
審判員とピッチャー。両者がブルペンで会話をすることはないが、そこはプロ同士。言葉は交わさずとも、高いレベルで意思疎通が交わされているのである。（文＝ゆるすぽ編集長・小島克典／写真＝ホリバトシタカ）
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