「21世紀の資本」ピケティとミキティの比較文化論|プチ鹿島コラム

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 最近ピケティという名前をよく聞きます。フランスの経済学者トマ・ピケティ。著書『21世紀の資本』が世界で150万部以上、日本でも13万部以上の超ベストセラー。この本でピケティは世界的な格差拡大に警鐘を鳴らしているという。
 アベノミクスにも言及しているというから、新聞各紙もピケティの記事が多い。『首相、ピケティ氏意識 格差是正へ「再分配」より「機会の平等」』(東京新聞・2月13日 )などなど。「ピケティ論争」が盛り上がっているようだ。しかし経済の話題はむずかしい。しかもこの本は定価5940円、600ページ以上というからチャレンジする前に格差を感じてしまう。どこか、ピケティのことをわかりやすく解説してくれる記事はないか? そして遂に先週、こんな記事を見つけたのである。
「サラリーマンが学ぶべきはピケティよりミキティ」(日刊ゲンダイ・2月13日)
 私の読み間違いだと思ったが、たしかに「ミキティ(藤本美貴)」との比較論であった。ピケティとミキティ、共通するのは「群れを嫌う」点のほか「教育」だという。
両者の共通点は「群れを嫌う」と「教育」 ミキティは年収が多いのに生活は質素だと記事は書く。「洗濯は脱水の途中で止め、水分の重力でシワをのばしてアイロンを使いません」(女性誌記者のコメント)。しかし、子どもの教育にはお金を惜しまないのだという。ここがピケティと同じだとゲンダイは主張するのだ。
《「累進課税強化」「資本課税」ばかりが取り上げられるが、彼が著書で言っていることは「もっとモノ作りを大事にして」「若者の教育へお金をかけろ」ということ。》
 そして記事は最後にこう結論づける。
《難解なピケティに挑むよりミキティのような女性を探した方が現実的かもしれない。》
 ありがとう、ゲンダイ師匠! ピケティとミキティという語感だけの出発点から、よくぞここまで関連付けたと思う。見事ではないか。
 さて、他にも「ピケティ・ミキティ論争」をしている人がいないか念のために調べてみた。すると大変な事実がわかった。なんとミキティが本当にピケティについて語っていたのだ!
 それは「週刊ニュース深読み」(NHK)。1月31日のテーマが「格差社会の種明かし!? ピケティ本はなぜウケる?」で、ゲストに藤本美貴が出演していたのだ。「ピケティとミキティ」。もしかしたらNHKもこのオヤジギャグ的語感だけでミキティのブッキングを決めたのかもしれない。
 番組HPのこの日の放送まとめを見て見ると「トリクルダウン」という言葉を聞いたミキティは「トリ……? それ、なんですか? 」とコメントしていた。ゲンダイの記事では「恐るべしミキティ。まるでピケティ本を読んでいたかのようだ。」と評価されていたが、全然違った。少し安心した。
 ちなみにトリクルダウンとは「富裕者がさらに富裕になると、経済活動が活発化することで低所得の貧困者にも富が浸透し、利益が再分配される」と主張する経済理論。つまり、ピケティの本が売れてさらに話題が活発化することで、名前がなんとなく似てるミキティにも仕事の発注がいく、という現象に例えられないか。
 でも考えてみれば、富裕者(ミキティ)がさらに富裕になっているだけかもしれない……。とりあえず私はトリクルダウンに懐疑的になりました。
著者プロフィール

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。