Photo by European Commission DG via filkr

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 湯川遥菜さん(42)と後藤健二さん(47)の身代金を要求する動画がYouTubeにアップされ、世界中が日本政府の対応に注目した。

 アメリカ国務省のサキ報道官は1月22日の記者会見で「身代金の支払いはかえって人々を危険にさらす行為である」との見解を日本政府に向けて公式に申し入れたことを明かした。テロに対するアメリカの態度はかように強固だ。

 しかし身代金について、ヨーロッパ諸国の態度は少し違う。例えばフランスは2013年に自国民4人解放のためイスラム武装勢力に対し約34億円を支払ったと言われている。

 日本人のメンタリティーもこちらに近いように思われる。人命最優先を考え「必要とあらば犯人の要求をのむことも視野に入れるべき」との意見も国内では根強い。

 ただこれは現地から遠く離れた日本での意見だ。中東には多くの日本人が生活している。彼らにとって今回の事件に対する日本政府当局の動きは身の安全に直結する重大事項だ。そのさじ加減ひとつが生死を分ける可能性もある。

注意喚起を促すメールのみ

 ヨルダンの首都アンマンで生活する日本人商社マン(S氏)にコンタクトを取り、在留邦人としての肌感覚を聞いた。

「大前提として身代金は払うべきではないと思います。いったんそれをやると『日本人は金になる』ということになり、イスラム国以外の勢力からも狙われることになりかねません。私が住んでいるアンマンにイスラム国の拠点はありませんが、ヨルダン国内にはシリアに渡ってイスラム国に参加する人間が大勢います。そういった人たちがヨルダンに帰ってきている。つまりヨルダン国内にもイスラム国シンパが大勢いるということです。だから危険とはいつも隣り合わせです」

「ただ、ネット民たちが大好きな『自己責任論』には違和感を覚えます。事情がどうであれ、自国民の命を守るのが『国』の役目だと思います。そういう意味で当局にはさらに頑張ってほしい」

 今回のような事件が起こった場合、現地の日本大使館などはどういった対策をとってくれるのか?

「ほとんど何もしてくれません。今回も在留邦人向けに注意喚起を促す簡単なメールが一通きただけです。在ヨルダンの日本人大使は在留邦人と積極的に会おうとさえしません。こちらでは在留邦人が主催する運動会のような催しが定期的にあるのですが、とくに前大使の小菅淳一さんなんかはそういったところにも顔を出しませんでした。特に湯川遥菜さんが拉致されてからは政府から『目立った行動はするな』とのお達しがあったようで、ほぼ引きこもり状態です(笑)」

 後藤さん、湯川さんは助けることができるか?

「イスラム国にとっても2人は大切な交渉のカードです。指定の72時間が過ぎてもすぐに命を奪ったりはしないと思います。但し、彼らはやる時は躊躇がありません。ムスリムたちは羊を食べます。ハラールの作法にしたがって屠るのですが、その手さばきは本当に見事です。あっという間に首を切り落として皮を剥ぎます。こちらでは子供のころからそういった光景を見慣れています。

 お祭りなどでは大勢の見ている前で羊を屠ります。日本のマグロの解体ショーとは違って、生きている羊を使います。それがハラールの作法だからです。人間を処刑する場合にも見せしめのために首を切り落とすことが多いのですが、その手さばきは羊の屠殺に似ています」

 タイムリミットは迫っている。日本政府は『あらゆるチャンネルを使って人質解放交渉を行っている』とお決まりの発表を繰り返すが、何かが好転しているようには思えない。

 ただ、最悪の結果になってしまったとしても我々国民は冷静に事実を見据えるべきだ。憎悪に憎悪で応えることだけは避けなければならない。

(取材・文/江波旬)