【イスラム国】日本人拉致事件にみる外務省と公安の許されざる罪
テロの連鎖はついに日本にまで波及した。
拘束している湯川遥菜さん(42)とフリージャーナリスト、後藤健二さん(47)の命と引き換えに、日本政府に「72時間以内に身代金2億ドル(約236億円)を支払え」などと法外な要求を突きつけたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」。テログループが設定したタイムリミットの23日午後まで残された時間はわずかだが、日本政府は事態打開のために何の手立ても打てないでいる。
本件の取材を担当する全国紙外信部記者が語る。
「日本政府には、イスラム国はおろか、そことつながりのある関係者にさえも交渉ルートがない。2億ドルはどう考えても法外で、金で解決するにしても減額交渉さえできない。完全にお手上げ状態なのが現状です」
永田町でも外務省の失態を問う声が噴出昨年12月には、後藤さんの妻のもとに、1本の英文メールが届いた。
外国通貨で、日本円で20億円以上の身代金を要求する内容で、後藤さんのプライベートな情報も書き込まれていた。
内容などからイスラム国の関係者からのものである可能性が高いが、
「現状ではこれが唯一の相手とのチャンネルになる」(前出の外信部記者)
というから何とも心もとない。
北朝鮮による日本人拉致被害者問題などを見ても外務省の「交渉ベタ」は一目瞭然。こうした体たらくは今に始まった話ではないが、今回の事態はある程度予測できたことでもあった。
「湯川さんが拉致されたのは昨年8月。いずれ向こう側が身代金要求など、なんらかのアクションを起こしてくるのは織り込み済みだった。半年近くの猶予があったにもかかわらず、湯川さんの救出に向かった後藤さんの拉致までも許してしまった。これでは怠慢と言われても仕方がない」(同前)
外務省の失態を問う声は永田町からも挙がっている。議論を呼んでいるのは、イスラム国が身代金要求の根拠とした、トルコ、レバノンなどへの2億ドルの資金提供だ。
「中東歴訪中に安倍晋三首相が拠出を表明した2億ドルは、シリア難民らに対する食糧や医療面での援助であり、軍事的な支援ではない。ところが、この支援を明らかにしたエジプトでのスピーチの内容は、いかにも日本が『イスラム国潰しに積極的に関与している』との誤解を与えかねないものだった」(永田町関係者)
この件は、三谷英弘・前衆院議員も、自身のブログで、スピーチの日本語原文と外務省の手による英訳のニュアンスの違いを検証。
「どうしてこのような英訳になったのか」と疑問を呈し、「外務省の大失態」と指弾している。ただ、下手を打ったのは、外務省だけではない。「公安にも原因がある」と指摘するのは、前出の外信部記者だ。
失われたイスラム国とのパイプ「国際テロの捜査に当たる警視庁公安部にも事態を混乱させた遠因があるとの声も挙がっている。その伏線は、昨年10月の北海道大学の学生によるイスラム国への渡航騒ぎにあった」
公安はこの時、私戦予備罪・私戦陰謀罪という極めて珍しい罪状を持ち出して学生を事情聴取したほか、同じ容疑で、ジャーナリストの常岡浩介氏(45)やイスラム法学者の中田考氏(54)を取り調べ、自宅の家宅捜索にも及んだ。
「常岡氏と中田氏はともにイスラム教徒で、日本では数少ないイスラム国とのパイプ役でもあった。昨年10月まで、イスラム国高官ともコンタクトを取っていたようです。ところが、公安によって2人は捜査対象となり、イスラム国との交渉ルートも途絶えてしまった。みすみす重要なチャンネルを喪失させたことになります」(同前)
悪名高い日本の?お役所仕事?が貴重な人命を危機にさらす結果になったのだとしたら……なんともやりきれない話だ。
(取材・文/浅間三蔵)