「イスラム国に身代金は絶対に払うな」危機管理のプロが提言
イスラム国の邦人拉致事件。2億ドルというとんでもない額の身代金と2名の邦人の命をどう扱えばいいのか? テロに屈せず、かつ2人を救出することは可能なのか?
安倍晋三総理大臣が名誉会長を務める、日本安全保障・危機管理学会の二見理事長はこう語る。
「今回、日本政府がイスラム国の周辺国に2億ドルの支援をすると発表したタイミングで、身代金要求が行われています。彼らイスラム国は日本をイスラム教圏と敵対させたいようですが、目的は難民支援であり、イスラムに敵対するものではありません。どのような人道支援策を日本が打ち出すのか、その成果を前向きに世界に向けて発信することで、周辺国から日本を敵にするメリットはないと圧力をかけさせなければなりません」
身代金は払わなくていいのか?
「もし2億ドルを払えば、日本は簡単にお金を出すとまた別の邦人が誘拐されます。次々にやられるので、絶対に出してはいけません」
周辺の部族を通じての交渉が現実的か同学会でインテリジェンス講座の講師を務め、日本経済大学大学院で国際犯罪学を教える犯罪学者の北芝健氏は言う。
「解決方法は2つあります。ひとつは非公然のインテリジェンス能力を持ったチームを派遣し、奪還すること。それは絵空事ではなく、テロ対策の一環として検討されていますが、それはあまりに穏やかではない。過去、東南アジアで日本の商社マンが武装組織に誘拐された時は、イギリスのコントロール・リスク社が交渉し、水面下で多額の費用を払って解放させています。今回もその形になると思いますね。ですから交渉し、取り戻すことになります」
イスラム国との交渉ルートはいくつかある。ひとつはイスラム国を囲む部族を通じての交渉だ。
「イスラム国に対してものを言える部族長のような人たちが、イスラム国を取り囲んでいます。彼らを通じて交渉する。そこには謝礼を含め、お金が発生します。フランスでもトルコでも裏では多少のペイバックがある。今回はその方式をとると思われます」
イスラム国も2億ドルをとれるとは思っていない。現実的な数字での交渉が裏ではすでに始まっているらしい。
「また彼らは石油施設を押さえ、石油を密売して武器を買っています。彼らは石油の密売組織と武器商人のチャンネルには逆らえない。ここはアメリカが把握しています。日本はアメリカを通じて、このチャンネルから交渉することも可能でしょう」
事態は解決に向けて加速度的に進んでいると北芝氏。
「菅官房長官が先頭に立って事態収拾に努めています。彼ならなんとかするだろうと関係者は期待しています」
しかし問題もある。
「今回は国民的な心情としての支援があまりない。好きで危険なところに行って日本に迷惑をかけているという空気が醸成されています。三井物産マニラ支店長の若王子信行さんが誘拐された時は世論が盛り上がり、政府も動きやすかった。今回は世論の後押しが弱いので、政府が気の毒ですね」
現在、政府はあらゆるチャンネルで情報収集を行っている。あと数日で事態は大きく動くだろうが、その裏にどんなタフな交渉があるのか? 我々はそれを注視していきたい。
(取材・文/川口友万)