安倍晋三公式サイトより

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 1月11日、古川康知事辞任に伴う佐賀県知事選が投開票された。当選したのは、元総務相過疎対策室長を務めた山口祥義氏だ。自民党本部は前武雄市長の樋渡啓祐を支援したが及ばなかった。

 今回の佐賀県知事選は自民党本部が樋渡氏を支援したのに対して、地元の佐賀県連は山口氏を支援。保守分裂を招いたことから、注目が集まっていた。衆院選で自民党は291議席を獲得。その勢いを佐賀県知事選に活かすつもりだったが、冷や水を浴びせかけられる結果となった。

 国政では自民党一強といわれる。先の衆院選でも野党第一党の民主党は議席こそ増やしたものの海江田万里代表が落選するという体たらくを晒した。

 それだけに、安倍政権は盤石と思われがちだが、地方の内情は大きく異なる。地方紙記者は話す。

地方との歯車が噛みあわない中央政界

「景気回復を謳ったアベノミクスも、結局は一部の大企業に恩恵をもたらしただけ。地方の農山村で景気回復を実感していません。衆院選は自民党が支持されたわけではないのです」

 衆院選に前後してアベノミクスは失敗だったとの声も聞かれるようになったが、その兆候はすでに夏ごろから出始めていた。自民党もそれに気づいていたフシがある。それが顕著になったのは2014年11月に投開票された福島県知事選だった。

 福島県知事選では自民党・民主党などが相乗りした前福島県副知事の内堀雅雄氏が当選したが、もともと自民党は元日本銀行福島支店長の別の人物に推薦を出して擁立する手はずを整えていた。

 ところが、7月に投開票された滋賀県知事選で元民主党議員が当選し自民党系候補者が敗北すると事態は急変。

 福島県という、東日本大震災を象徴する地で絶対に負けられない自民党は、自分たちが擁立した人物に見切りをつける。そして、自民党は民主党が擁立していた内堀氏に相乗りする。内堀氏は当選したが、実質的に自民党は敗北した。

 つづく、沖縄県知事選でも自民党が支援する現職・仲井眞弘多氏が落選。民主党などが支援する翁長雄志前那覇市長が当選している。自民党は滋賀・福島・沖縄につづく3連敗となった。

 連敗で追い詰められた自民党にとって、佐賀県知事選は絶対に負けられない戦いだった。なぜなら自民党は谷垣禎一総裁から安倍晋三総裁にバトンタッチした2014年末から、2015年の統一地方選に勝利することを目標に掲げてきた。

 地方から信頼の厚い石破茂氏を幹事長に就任させたのも、その後に地方創生担当を任せたのも、地方のつなぎとめという意味があった。それだけに、国政で一強体制を築いても地方選でこれ以上の連敗はダメージが大きい。

 そこで改革派をアピールする前武雄市長を担いだが、佐賀県連との温度差は明白だった。佐賀県連は地方事情に知悉する山口氏を独自に擁立し、勝利をもぎとった。

 自民党の敗北は、中央政界が地方との歯車が狂い、中央が地方を把握できていないことを如実に物語っている。それだけに今年4月の統一地方選が不安視され始めている。

 安倍自民党が地方で弱いことは薄々知られていたが、今回の佐賀県知事選敗北でますますそれらが浮き彫りとなった。「安倍総裁では、統一地方選は戦えない」との声は沖縄県知事選後から自民党内で囁かれていたが、その声はもっと強くなるだろう。

 安倍政権にとって幸いなのは、野党第一党の民主党が精彩を欠き、自民党に脅威な存在になっていないことだろう。現在、民主党は代表選中だが「岡田・細野・長妻、誰が新代表になっても新鮮味に乏しい。自民党に迫れる勢いは取り戻せない」(民主党関係者)という。

 しかし、敵は野党だけとは限らない。仮に統一地方選前に党内から交代論を抑えても、統一地方選で自民党が大コケすれば党内の反安倍派を抑えられなくなる。安倍晋三総裁はこのまま統一地方選を乗り切れるだろうか?

(文/小川裕夫)