プロが語る マイホーム購入で陥りやすい落とし穴
マイホーム購入といえば、人生の一大イベント。それだけに、失敗は許されません。
しかし、ほとんどの人にとって、「家を買う」のは初めての経験ですから、どんな点に注意して、どんな物件を選べばいいかわからないはずです。
こんな時、「プロ」は物件をどのように判断しているのでしょうか。
『東京で家を買うなら』(自由国民社/刊)の著者で、不動産コンサルタントの後藤一仁さんに、失敗しないマイホーム選びのポイントをお聞きしました。
―『東京で家を買うなら』についてお話をうかがえればと思います。東京都心の不動産については様々な情報が乱れ飛んでいて、素人が物件を正確に判断するのは難しい状況です。その意味で、本書は判断基準を与えてくれる貴重な本だといえますが、本書をお書きになるにあたって、一番気をつけたことを教えていただければと思います。
後藤:物件選びに際して、顕在的な幸福感を感じやすい「利用価値」だけではなく、普段はなかなか見えにくい「資産価値」や「安全性」も含めた「3つの視点」で物件を選定することの大切さを伝えることです。
現在発展していて将来性があると言われているエリアや、都心部から近い「駅力」が高いエリアなど、一般的によく言われる利便性や資産性に優れたエリアであっても、それらだけではなく、安全性に配慮することにも気をつけました。
住宅を購入される方のほとんどは、予算や建物の広さをある程度想定した上で、「住み心地」であるとか「自分の好み」、「自分の勤務先に近いこと」や、「実家に近いこと」など、自分にとっての「利用価値」が高いかどうかという視点で物件を選んでしまうことが多く、もし5年後10年後にその家を売りに出した時にどれくらいの価格で売れるか、賃貸に出した時にすぐ借り手が見つかるかといった「資産価値」の視点が抜けてしまいがちです。また、よほど危険と思われる場所や建物である場合を除き、災害時に浸水してしまうかもしれない場所や、地震が起きたら液状化してしまう可能性、震度6や7の被害が予想されている場所でないかなどの視点も抜けてしまいがちです
その結果、購入後、思っていた以上に価格が下がってしまっていて、売らないといけない事情が出来た時に、売値がローンの残額を大幅に下回ってしまい失敗したという方を私はたくさん見てきました。
だからこそ、家選びは「利用価値」だけでなく「資産価値」や、「安全性」を含めた3つの視点で総合的に判断することがとても大切です。この本にはそのための具体的な方法を書いています。
―確かにほとんどの人は、「自分にとって住みやすい家」という視点で物件を選ぶでしょうから、「資産価値」という視点は欠けているケースが多いかもしれません。この視点でも物件を見ることによってどんなところが変わってきますか?
後藤:年月が経っても価格が下がりにくい家や貸したいときにすぐ貸せる資産価値の高い家を購入することで、ある種の安心感を持つことができるのではないかと思います。
住宅ローンというとやはり数千万円という額ですから、それを背負って返していかないといけないと考えるとプレッシャーがあります。でも、資産価値が下がりにくい物件を手に入れておけば、そういう精神的重圧からもある意味逃れられることになると思います。
また、必ずとは言えないにしても、いざとなれば、それなりの価格ですぐ売れて住宅ローンは一括返済できる、お金に換えられる、売らないにしても、それなりの賃料ですぐに貸せるということを予め知っておくことで、人生で訪れる様々な出来事に、精神的に余裕を持って対応していくことができるようになることも大きいと思います。「終の棲家」にするつもりで家を買う人が多いのですが、どうしても親の介護や転勤、子どもの学校の関係など、買った家を数年後や数十年後に売らないといけない状況になる可能性はいくらでもあるわけです。このような、必要に迫られて家を売ったり貸したりしないといけないケースも見越して物件を選ぶことで、どんなことが起こっても対処しやすくなるのではないかと思います。
―「資産価値」の視点なしに物件を選んだ時に考えうる「多くの人が陥りやすい落とし穴」を教えていただければと思います。
後藤:よくあるケースで考えられるのは、都心に勤める結婚したてのご夫婦が、お子様がまだ授かってもいない頃から、例えば家族4人が一生住むことを想定した3LDKか4LDKなどの広めの家を自分たちの予算で手が届く郊外などに買ってしまうケースです。もし、想定通りお子様が生まれたとしても、子ども部屋が必要になるのは10歳前後くらいからの場合が多いですから、それまでは子ども部屋として考えていた部屋は荷物置き場になっていたりします。仮にその子がもし都心の名門中学などに合格して、一家でそちらに引っ越すことになったら、例えば10歳〜12歳の約2年間のために子ども部屋の分のローンを払っていた形になりますので、あまりにもったいないですよね。
さらに、都心に引っ越すから郊外に買った家は売ろうということになったとしても、郊外の物件は売れにくいことが多く、買い手がついた時には購入時の価格の半分くらいに値下がりしていたということも珍しくありません。
広い家のために郊外から満員電車で時間をかけて都心まで通勤してきた結果がこれですから、結果的に広さは全部活かせていなかったことに加え、価格は下がって住宅ローンの残債を大幅に下回り、売るに売れない。貸すとしても借り手は少なく、賃料額が住宅ローンの返済額と固定資産税などの税金の合計額を下回り、貸すに貸せない現実を知ることで、「一体何だったんだ」となる人は多いんです。
―こういった選択をしてしまう原因としてどんなことが考えられますか。
後藤:やはり「資産価値」という視点が希薄なことが原因と言えますが、「資金計画」にこだわりすぎることも挙げられます。もちろん、それも大切なことですが、自分の給料に対して月々いくらなら安全に返済できるかということばかり考えてしまい、その先のことを考えていないことに、落とし穴が潜んでいます。
具体的には「家族4人が一生暮らすためにはこのくらいの広さが必要で、自分の資金力でその広さの家を買えるとしたらどこか?」という考え方ですが、これは一見もっともなようですが、実は資産価値の視点から見ると失敗しやすい考え方です。多くの方が必然的に都心から離れた郊外に広めの家を買う傾向になりますからね。
日本ではどんどん都市部への人口集中が進んできていて、中心部である都心・準都心に人が多く集まり、一部を除き、中央から離れた郊外は人が減少していき、都心・準都心などの都心部と郊外の格差が拡大してきています。もちろん場所にもよりますが、人口減少、高齢化などの理由から、郊外の物件は都心や準都心の物件に比べ、「近くにあったお店がなくなった」、「近くの小学校が隣町に統合されて無くなった」、「自分の物件より駅の近くにきれいなマンションができた」などといった街の変化によって資産価値が下がりやすく、結果的に売るに売れない状況に陥り、家に縛られることで、人生の自由度が下がり、様々なプラスの機会を失う形になることもあります。
自分や家族が幸せになるために買ったはずの家が、逆にその家を所有していることがマイナスになってしまう場合があるのです。
―では、この「悪いシナリオ」を避けるためにはどんな視点が必要になりますか?
後藤:「今の自分に買える物件」ではなくて、「将来を見据えた上で今の自分(たち)に合った物件」という視点を持つことが必要かと思います。物件を選定する際に「建物優先」に考え、例えば、マンションなら仮に家族4人が一生住むことを想定した80?以上の広さが絶対必要で、かつ、絶対新築でなければならないなどというように自分で自分を縛り、そのような家を「今の自分の予算で買える場所に買う」という視点ではなくて、資産性や安全性に配慮し「立地優先」で買うという視点を持つことも必要だと思います。
「将来子どもは欲しいが今はまだいない。予算はある程度決まっているから、80?以上という広さにこだわらず、今の自分(たち)には60?前後でもよいのではないか。将来売ったり貸したりする可能性もあるから、売りやすく、貸しやすい物件がよい。新築にこだわる必要もなく、建物の状態や管理状況、耐震性等がよければ中古でもよい。」という視点を持つことも必要だと思います。例えば、結婚したばかりのまだお子様がいらっしゃらない夫婦二人の世帯であれば、住宅ローン減税をはじめ、様々な税制優遇を受けられる登記簿面積上50?以上の広さで、できれば60?くらいの2LDK以上の質がよく耐震性のよいマンションを、資産価値が落ちづらい人気のある都心や準都心エリアの災害が起きても安全であろうと思われる場所に買っておくとよいと思われます。そういった家は資産価値が下がりにくい傾向がありますから、ローンを組んで買ったとしても、例えばお子さんが生まれ成長に合わせて、どうしても80?が必要な時期になったら、その時点で60?を売却して80?を購入してもよいですし、売却せず定期借家契約等で貸しておき、自分たちは80?が必要な時期だけ賃貸で借りておくこともできるなど、後の人生の自由度は高くなると思われます。
もちろん、その中でも、なるべく自分自身が住んで快適という利用価値が高い物件であることが望ましいといえます。
(後編につづく)
しかし、ほとんどの人にとって、「家を買う」のは初めての経験ですから、どんな点に注意して、どんな物件を選べばいいかわからないはずです。
こんな時、「プロ」は物件をどのように判断しているのでしょうか。
『東京で家を買うなら』(自由国民社/刊)の著者で、不動産コンサルタントの後藤一仁さんに、失敗しないマイホーム選びのポイントをお聞きしました。
後藤:物件選びに際して、顕在的な幸福感を感じやすい「利用価値」だけではなく、普段はなかなか見えにくい「資産価値」や「安全性」も含めた「3つの視点」で物件を選定することの大切さを伝えることです。
現在発展していて将来性があると言われているエリアや、都心部から近い「駅力」が高いエリアなど、一般的によく言われる利便性や資産性に優れたエリアであっても、それらだけではなく、安全性に配慮することにも気をつけました。
住宅を購入される方のほとんどは、予算や建物の広さをある程度想定した上で、「住み心地」であるとか「自分の好み」、「自分の勤務先に近いこと」や、「実家に近いこと」など、自分にとっての「利用価値」が高いかどうかという視点で物件を選んでしまうことが多く、もし5年後10年後にその家を売りに出した時にどれくらいの価格で売れるか、賃貸に出した時にすぐ借り手が見つかるかといった「資産価値」の視点が抜けてしまいがちです。また、よほど危険と思われる場所や建物である場合を除き、災害時に浸水してしまうかもしれない場所や、地震が起きたら液状化してしまう可能性、震度6や7の被害が予想されている場所でないかなどの視点も抜けてしまいがちです
その結果、購入後、思っていた以上に価格が下がってしまっていて、売らないといけない事情が出来た時に、売値がローンの残額を大幅に下回ってしまい失敗したという方を私はたくさん見てきました。
だからこそ、家選びは「利用価値」だけでなく「資産価値」や、「安全性」を含めた3つの視点で総合的に判断することがとても大切です。この本にはそのための具体的な方法を書いています。
―確かにほとんどの人は、「自分にとって住みやすい家」という視点で物件を選ぶでしょうから、「資産価値」という視点は欠けているケースが多いかもしれません。この視点でも物件を見ることによってどんなところが変わってきますか?
後藤:年月が経っても価格が下がりにくい家や貸したいときにすぐ貸せる資産価値の高い家を購入することで、ある種の安心感を持つことができるのではないかと思います。
住宅ローンというとやはり数千万円という額ですから、それを背負って返していかないといけないと考えるとプレッシャーがあります。でも、資産価値が下がりにくい物件を手に入れておけば、そういう精神的重圧からもある意味逃れられることになると思います。
また、必ずとは言えないにしても、いざとなれば、それなりの価格ですぐ売れて住宅ローンは一括返済できる、お金に換えられる、売らないにしても、それなりの賃料ですぐに貸せるということを予め知っておくことで、人生で訪れる様々な出来事に、精神的に余裕を持って対応していくことができるようになることも大きいと思います。「終の棲家」にするつもりで家を買う人が多いのですが、どうしても親の介護や転勤、子どもの学校の関係など、買った家を数年後や数十年後に売らないといけない状況になる可能性はいくらでもあるわけです。このような、必要に迫られて家を売ったり貸したりしないといけないケースも見越して物件を選ぶことで、どんなことが起こっても対処しやすくなるのではないかと思います。
―「資産価値」の視点なしに物件を選んだ時に考えうる「多くの人が陥りやすい落とし穴」を教えていただければと思います。
後藤:よくあるケースで考えられるのは、都心に勤める結婚したてのご夫婦が、お子様がまだ授かってもいない頃から、例えば家族4人が一生住むことを想定した3LDKか4LDKなどの広めの家を自分たちの予算で手が届く郊外などに買ってしまうケースです。もし、想定通りお子様が生まれたとしても、子ども部屋が必要になるのは10歳前後くらいからの場合が多いですから、それまでは子ども部屋として考えていた部屋は荷物置き場になっていたりします。仮にその子がもし都心の名門中学などに合格して、一家でそちらに引っ越すことになったら、例えば10歳〜12歳の約2年間のために子ども部屋の分のローンを払っていた形になりますので、あまりにもったいないですよね。
さらに、都心に引っ越すから郊外に買った家は売ろうということになったとしても、郊外の物件は売れにくいことが多く、買い手がついた時には購入時の価格の半分くらいに値下がりしていたということも珍しくありません。
広い家のために郊外から満員電車で時間をかけて都心まで通勤してきた結果がこれですから、結果的に広さは全部活かせていなかったことに加え、価格は下がって住宅ローンの残債を大幅に下回り、売るに売れない。貸すとしても借り手は少なく、賃料額が住宅ローンの返済額と固定資産税などの税金の合計額を下回り、貸すに貸せない現実を知ることで、「一体何だったんだ」となる人は多いんです。
―こういった選択をしてしまう原因としてどんなことが考えられますか。
後藤:やはり「資産価値」という視点が希薄なことが原因と言えますが、「資金計画」にこだわりすぎることも挙げられます。もちろん、それも大切なことですが、自分の給料に対して月々いくらなら安全に返済できるかということばかり考えてしまい、その先のことを考えていないことに、落とし穴が潜んでいます。
具体的には「家族4人が一生暮らすためにはこのくらいの広さが必要で、自分の資金力でその広さの家を買えるとしたらどこか?」という考え方ですが、これは一見もっともなようですが、実は資産価値の視点から見ると失敗しやすい考え方です。多くの方が必然的に都心から離れた郊外に広めの家を買う傾向になりますからね。
日本ではどんどん都市部への人口集中が進んできていて、中心部である都心・準都心に人が多く集まり、一部を除き、中央から離れた郊外は人が減少していき、都心・準都心などの都心部と郊外の格差が拡大してきています。もちろん場所にもよりますが、人口減少、高齢化などの理由から、郊外の物件は都心や準都心の物件に比べ、「近くにあったお店がなくなった」、「近くの小学校が隣町に統合されて無くなった」、「自分の物件より駅の近くにきれいなマンションができた」などといった街の変化によって資産価値が下がりやすく、結果的に売るに売れない状況に陥り、家に縛られることで、人生の自由度が下がり、様々なプラスの機会を失う形になることもあります。
自分や家族が幸せになるために買ったはずの家が、逆にその家を所有していることがマイナスになってしまう場合があるのです。
―では、この「悪いシナリオ」を避けるためにはどんな視点が必要になりますか?
後藤:「今の自分に買える物件」ではなくて、「将来を見据えた上で今の自分(たち)に合った物件」という視点を持つことが必要かと思います。物件を選定する際に「建物優先」に考え、例えば、マンションなら仮に家族4人が一生住むことを想定した80?以上の広さが絶対必要で、かつ、絶対新築でなければならないなどというように自分で自分を縛り、そのような家を「今の自分の予算で買える場所に買う」という視点ではなくて、資産性や安全性に配慮し「立地優先」で買うという視点を持つことも必要だと思います。
「将来子どもは欲しいが今はまだいない。予算はある程度決まっているから、80?以上という広さにこだわらず、今の自分(たち)には60?前後でもよいのではないか。将来売ったり貸したりする可能性もあるから、売りやすく、貸しやすい物件がよい。新築にこだわる必要もなく、建物の状態や管理状況、耐震性等がよければ中古でもよい。」という視点を持つことも必要だと思います。例えば、結婚したばかりのまだお子様がいらっしゃらない夫婦二人の世帯であれば、住宅ローン減税をはじめ、様々な税制優遇を受けられる登記簿面積上50?以上の広さで、できれば60?くらいの2LDK以上の質がよく耐震性のよいマンションを、資産価値が落ちづらい人気のある都心や準都心エリアの災害が起きても安全であろうと思われる場所に買っておくとよいと思われます。そういった家は資産価値が下がりにくい傾向がありますから、ローンを組んで買ったとしても、例えばお子さんが生まれ成長に合わせて、どうしても80?が必要な時期になったら、その時点で60?を売却して80?を購入してもよいですし、売却せず定期借家契約等で貸しておき、自分たちは80?が必要な時期だけ賃貸で借りておくこともできるなど、後の人生の自由度は高くなると思われます。
もちろん、その中でも、なるべく自分自身が住んで快適という利用価値が高い物件であることが望ましいといえます。
(後編につづく)