iTunes Matchを始めるための作業は3ステップ。このうち、1と2の途中で処理が止まる人が多い。一度サインアウトしてからやり直すとうまくいく場合がある。

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5月2日にAppleがiTunes Matchの日本語版を開始しました。海外ではすでに提供されていたサービスが、ついに日本上陸です。早速使ってみましたので、気づいた点を含めて解説していきたいと思います。

1.そもそもどんなサービスなの?

Appleのクラウドサービス「iCloud」上に音楽データを預かるサービスです。登録したパソコンやiPhoneなどで、自分のiTunes上の音楽を再生できるようになると考えるといいでしょう。かかる金額は、年間で3980円です。

例えば今までの場合、デスクトップパソコンとノートパソコン、iPhoneを持っていた場合。デスクトップパソコンでCDからiTunesに取り込んだ音楽は、何らかの方法で転送しないとノートパソコンやiPhoneで聞くことはできませんでした。ところがiTunes Matchに全ての機器を登録すると、インターネットに接続していればどの機器でも聞くことができます。

再生の方法は2通りです。基本的にはストリーミング再生を行います。全体シャッフル再生をしてみても、次の曲にいくときに読み込みが発生したりはせず、快適に再生できます。ちょっと実験をしてみたところ、1曲分のキャッシュができたら途中でインターネット回線を切っても、1曲分の再生は続くようになっていました。

もう1つはiCloudからダウンロードして再生です。曲名の横に「iCloudからDLボタン」が表示されている曲は、ボタンを押すとデータをダウンロードしてローカルに保存します。保存された曲はオフラインであろうが再生することができます。

2.何がすごいのか?

まずは、全ての音楽データをクラウド上に置いてストリーミング再生ができるということです。インターネット回線さえあればHDDやメモリの容量をとることなく、たくさんの音楽を持ち歩くことができます。今までもiTunes Storeで購入した曲に関しては似たようなことができたのですが、CDから取り込んだ曲に関しても同じようにできるのはうれしいです。

次に、iCloud上で預かった曲がiTunes Storeで販売されている曲の場合、iTunes Store版のデータに置き換えてくれる点です。iTunes Storeの曲は256kbps AAC形式なので、例えば大昔にCDで取り込んだ128kbps MP3形式のファイルでも256kbps AAC形式に変換してくれるのです。もうCDがどこに行ったのかわからない、大昔に取り込んだ曲が高音質になるというのは、ありがたいですね。

基本的にはこの2点がサービスを利用するメリットです。iPhoneやiPadなどの容量がパソコンに比べて少ない機器で、大量の音楽データを持ち歩くのと同じようにできることと、いちいち取り込み直さなくても高音質のデータに置き換えてくれることです。この2点にメリットを感じない人であれば、特にサービスを申し込む必要は無いでしょう。

3.問題点はないの?

サービスを使うメリットを感じている人にも、いくつか注意点があります。

一つ目は、「サービスを申し込んでから開始できるまで時間がかかる」ことです。サービスを申し込むと、iTunes内の曲の情報を集め、それがiTunes Store上で配信されている曲に含まれているかの確認をし、それ以外(配信されていない曲)をiCloud上にアップロードをしてからサービスを使うことができます。でも、サービスに申し込んだ人が多いせいか、5月2日の開始以降、ずーっとこの処理をし続けているのにまだ終了しないという人が多いようです。

少し調べたところ、何かが原因で作業が滞ると、処理を一時停止して数十分後(だいたい1時間後)にもう一度チャレンジするということを繰り返すようです。そこでまたうまく処理がいかないと、またしばらく後に再チャレンジになるので、タイミングが悪いとずっと止まったままになります。

そこで「iTunes」内の「iTunes Store」のアカウントから「サインアウト」を選択し、もう一度サインインし直しましょう。その「アカウント情報」の中に「iTunes in the Cloud」という項目があり、その中に「iTunes Match」があります。そこで「このコンピュータを追加」を選べば、再度処理が始まります。このとき、今までに処理をしていた分はある程度飛ばして進行していきます。そうやって再度処理をし直すと、ひっかかっていたところをクリアできることがあるので、数十分ごとにちょっとずつ自動でチャレンジするよりも効率が良くなるのです。

もっともこれは厳密に2台を同時に並べて片方はサインアウトし、もう片方は放置し、効果があるか実証する……とやって調べたものではありません。ただ、僕と友人はこの方法で処理を終え、iTunes Matchを使い始められるようになりました。

二つ目は、預かる曲が25000曲までということと、256kbps AAC形式になるということです。25000曲以上のデータを扱っている人だと、全てをiCloudにアップロードできません。ただしこれはiTunes Storeで買った曲を除きます。つまり、CDから取り込んだ曲が25000曲以上の人は、全てのデータをアップロードできないということです。

また、CDから取り込むときにAppleロスレスなどの高音質データにした場合でも256kbps AACになるので、元のファイルよりも低音質のデータに変わってしまうのです。

そして、iCloud上で預かってくれないデータがあるのです。公式の説明では以下のファイルはiCloudで扱えないとなっています。

200 MB を超える曲ファイルは iCloud にアップロードされません。
2 時間を超える曲ファイルは iCloud にアップロードされません。
デジタル著作権管理 (DRM) で保護されている曲は、お使いのコンピュータでそのコンテンツを再生できる場合を除き、マッチせず、iCloud にもアップロードされません。
AAC または MP3 としてエンコードされた曲で、一定の品質基準を満たしていない曲は、マッチングされないか、iCloud にアップロードされません。

このうち、一定の品質基準というのがちょっとわかりにくいでしょう。海外のサービス開始時に検証したところによると、96kbpsのものはアップロードされないとのこと。日本版もこの基準は同様のようです。自分のライブラリ内を見てみたところ、96kbps以下のデータはアップロードされていませんでした。これらの曲は曲名の横に「雲に斜め線」のマークが表示され、クリックすると「この項目はiCloudに適格ではありません。」と表示されます。

これでちょっと困ったのが、ラジオの録音データや、インタビューデータです。これらの音源は低ビットレートのことが多いのですが、全てiTunes Matchで同期されませんでした。また、昔に取り込んだ曲でVBR(可変ビットレート)のものでダメだったものがあり、見てみると73kbps(VBR)でした。

さらに、ゲームのサウンドトラックなどにある、効果音のファイルも要注意です。4秒以下のファイルはうまくアップロードできませんでした。ただし、こちらは低ビットレートやファイルの大きいものとは違い、「この項目は〜」の表示が出ません。あまりに短くてiCloud側でもどう扱っていいのか困っているということなのかもしれません。

自分のライブラリにこういった曲が多い人は注意する必要があるでしょう。

4.その他、注意すること(主にiPhone)

iPhoneでiTunes Matchを使う場合注意しなければならないことがあります。「設定」の「iTunes & App Store」の中の「iTunes Match」をオンにすることで利用できるのですが、設定によっては「iTunes Matchに登録する」の表記になって、いつまでたっても「オン」にできないことがあります。

その場合は、同じページ内の「自動ダウンロード」の「ミュージック」がオンになっていないかどうかを確認しましょう。ここがオンになっているとiTunes Storeで購入した曲を自動でiPhone内にダウンロードするのですが、それはiTunes Match環境とは異なる動作です。ここを「オフ」にすると、「iTunes Match」の項目にオンオフスイッチが表示されるようになります。

さらに、今まで同期していた音楽やプレイリストは全ていったん消えて、iTunes Matchのものと置き換えられます。多くの人は困らないと思いますが、インタビュー用のデータやラジオのデータで低ビットレートのものが再生できなくなって、ちょっと困りました。

ただ、これらのことに注意をすれば、自分の持っている曲をどこでも持ち歩けるというのはとても魅力的です。インターネット回線があれば全ての曲をどこでも聴くことができますし、そうでない環境に行くのならあらかじめダウンロードしておけばいいのです。

また、パソコンを買い換える時にも真価を発揮するでしょう。もし完全にiCloud上にデータを置いておければ、新しいパソコンを買ってもiTunes Matchに登録するだけでいいのです。いちいちデータのバックアップを取って、それを新しいパソコンで復元して……とやる必要はありません。

個人的にはクラウドと高速モバイル通信の組み合わせで、もっと色々と便利で面白い使い道が出てくるといいと思っています。例えばPCDJをやっている人が膨大な曲を持ち歩かなくていい、となるとずいぶん便利になりそうです。現状だとファイルの形式が変わっちゃうのはNGとのことですが……

iTunes Storeのように配信で音楽を買うのが当たり前になっていても、おまけが欲しかったり、物そのものが欲しかったりでCDを買う方がいいという人も多いと思います。そういう人はiTunes Matchを使うことで、配信データを買うのと同じ利便性を手に入れられます。そういう人にオススメのサービスです。
(杉村 啓)