見世物屋より、テレビのほうがよっぽど嘘つき。ドキュメンタリー「ニッポンの、みせものやさん」
見世物小屋に密着したドキュメンタリー映画「ニッポンの、みせものやさん」が期間限定でアンコール上映中。
11月30日(土)〜12月6日(金)の一週間、新宿K's cinemaで朝10:45から上映されている。初日の11月30日には、監督の奥谷洋一郎による舞台挨拶が行われた。
この映画はDVD化を予定していないため、見たければ劇場に行くしかない。
密着しているのは「大寅興行社」。日本で唯一、単独で見世物小屋の興行ができる一座だ。
11月、新宿花園神社の酉の市。初めて見世物小屋を見に行った。花園神社の見世物小屋といえば、「毎年恒例」のもの。しかし今年の見世物小屋は、本当の意味で「恒例」ではなかった。
小屋の壁にかけてある看板には「ゴキブリコンビナート」の文字。呼び込みをしているのは金ピカの服を着た女性。中に入ると、司会の男性が(すこし申し訳なさそうに)叫ぶ。「今年の蛇女は、いつもとは違う蛇女です!」
例年、小屋を立てていたのは「大寅興行社」(大寅)。しかし今年はアングラ小劇団「ゴキブリコンビナート」(ゴキコン)が出演している。動物愛護団体や警察などから「蛇や犬を使った芸をやってはいけない」というクレームがきたそうで、ほとぼりが冷めるまで興行を自粛することになってしまった。
ゴキコンは、歴史が浅く花園神社側とも付き合いが薄いため、単独で小屋をかけることはできない。小屋は大寅がかけ、ゴキコンが出演する、という形態を取った。かといって、見世物小屋の演目が様変わりしているわけではない。もともとゴキコンの役者たちは、大寅に出入りし交流があった。大寅の蛇女として有名な「小雪太夫」は、元ゴキコンの女優だ。
去年なら花園神社で見ることができたはずの大寅の人々を、スクリーンで見る。
一座は七人。二代目親方の大野初太郎、大野裕子をはじめとする三人姉妹、大寅最後の芸人「お峰太夫」とその家族。その七人と、飼っている動物たち(犬や猿や大蛇)で一つの「家族」だ。
裕子さんは元代表代行。ずっと外で客呼び込みのタンカをしていたから、「花園神社の見世物小屋」といえば彼女の顔や声を思い浮かべる人も多い。
見世物小屋は、神社などの祭のさいにやってきて、芸を見せる大衆娯楽だ。かつては興行を行う一座が何十もあり、一つの祭に競うようにして小屋が出ていた。しかし、映画やテレビなどの娯楽が広まるとともに衰退。代表が亡くなって解散するところもあれば、お化け屋敷や射的などの興行に形態を変えるところもあった。今では、大寅しか残っていない。
奥谷監督は、2001年に大寅の見世物小屋と出会った。大寅一座の人々と交流を深め、密着ドキュメンタリー映画を撮ることができた。
見世物小屋の人々ははじめ、プライベートに踏み込んだ部分を映したがらなかった。
「見世物屋が見世物になりたくない」と語る裕子さん。大寅はマスコミに出たがらないが、その理由は見世物小屋の人たちを興味本位で報道しようとするから。「見世物屋より、テレビのほうがよっぽど嘘つき」
今回の映画では、一座の日常についても少しだけ映している。印象的なのは、見世物小屋の興行後、小屋にかつてのライバルたち(昔見世物小屋の興行をやっていたが、今はやめてしまった人たち)が集まるシーンだ。舞台の上にこたつを出してきて、みんなで酒を飲み交わす。
もちろん、踏み込めない部分もある。奥谷監督は舞台挨拶でこう語った。
「ずっと密着していれば撮れると勘違いしていたけど、やはり大寅さんたちの生活の場は撮れなかった。興行の間、一座の人たちは、見世物小屋の裏に作った仮設の小屋で生活している。その生活には、今はもうない『家族のかたち』がある。生活自体を撮ることはできなかったけど、他の部分で『家族』のチームワークは映せたと思います」
大寅の人々は、「見世物小屋は自分たちの代で終わり」という感覚を持っている。「見世物小屋的」なものは残ったとしても、いまの形態で行われる見世物小屋は確実になくなるだろう。
『ニッポンの、みせものやさん』は、「大寅興行社が盛り上がってほしい」という気持ちのもとに生まれたわけではない。失われるものや、すでに失われたものを、フィルムに残そうとして作られた。
見世物小屋も、見世物小屋を扱ったこの映画も、出会いは一期一会だ。
(青柳美帆子)
11月30日(土)〜12月6日(金)の一週間、新宿K's cinemaで朝10:45から上映されている。初日の11月30日には、監督の奥谷洋一郎による舞台挨拶が行われた。
この映画はDVD化を予定していないため、見たければ劇場に行くしかない。
密着しているのは「大寅興行社」。日本で唯一、単独で見世物小屋の興行ができる一座だ。
小屋の壁にかけてある看板には「ゴキブリコンビナート」の文字。呼び込みをしているのは金ピカの服を着た女性。中に入ると、司会の男性が(すこし申し訳なさそうに)叫ぶ。「今年の蛇女は、いつもとは違う蛇女です!」
例年、小屋を立てていたのは「大寅興行社」(大寅)。しかし今年はアングラ小劇団「ゴキブリコンビナート」(ゴキコン)が出演している。動物愛護団体や警察などから「蛇や犬を使った芸をやってはいけない」というクレームがきたそうで、ほとぼりが冷めるまで興行を自粛することになってしまった。
ゴキコンは、歴史が浅く花園神社側とも付き合いが薄いため、単独で小屋をかけることはできない。小屋は大寅がかけ、ゴキコンが出演する、という形態を取った。かといって、見世物小屋の演目が様変わりしているわけではない。もともとゴキコンの役者たちは、大寅に出入りし交流があった。大寅の蛇女として有名な「小雪太夫」は、元ゴキコンの女優だ。
去年なら花園神社で見ることができたはずの大寅の人々を、スクリーンで見る。
一座は七人。二代目親方の大野初太郎、大野裕子をはじめとする三人姉妹、大寅最後の芸人「お峰太夫」とその家族。その七人と、飼っている動物たち(犬や猿や大蛇)で一つの「家族」だ。
裕子さんは元代表代行。ずっと外で客呼び込みのタンカをしていたから、「花園神社の見世物小屋」といえば彼女の顔や声を思い浮かべる人も多い。
見世物小屋は、神社などの祭のさいにやってきて、芸を見せる大衆娯楽だ。かつては興行を行う一座が何十もあり、一つの祭に競うようにして小屋が出ていた。しかし、映画やテレビなどの娯楽が広まるとともに衰退。代表が亡くなって解散するところもあれば、お化け屋敷や射的などの興行に形態を変えるところもあった。今では、大寅しか残っていない。
奥谷監督は、2001年に大寅の見世物小屋と出会った。大寅一座の人々と交流を深め、密着ドキュメンタリー映画を撮ることができた。
見世物小屋の人々ははじめ、プライベートに踏み込んだ部分を映したがらなかった。
「見世物屋が見世物になりたくない」と語る裕子さん。大寅はマスコミに出たがらないが、その理由は見世物小屋の人たちを興味本位で報道しようとするから。「見世物屋より、テレビのほうがよっぽど嘘つき」
今回の映画では、一座の日常についても少しだけ映している。印象的なのは、見世物小屋の興行後、小屋にかつてのライバルたち(昔見世物小屋の興行をやっていたが、今はやめてしまった人たち)が集まるシーンだ。舞台の上にこたつを出してきて、みんなで酒を飲み交わす。
もちろん、踏み込めない部分もある。奥谷監督は舞台挨拶でこう語った。
「ずっと密着していれば撮れると勘違いしていたけど、やはり大寅さんたちの生活の場は撮れなかった。興行の間、一座の人たちは、見世物小屋の裏に作った仮設の小屋で生活している。その生活には、今はもうない『家族のかたち』がある。生活自体を撮ることはできなかったけど、他の部分で『家族』のチームワークは映せたと思います」
大寅の人々は、「見世物小屋は自分たちの代で終わり」という感覚を持っている。「見世物小屋的」なものは残ったとしても、いまの形態で行われる見世物小屋は確実になくなるだろう。
『ニッポンの、みせものやさん』は、「大寅興行社が盛り上がってほしい」という気持ちのもとに生まれたわけではない。失われるものや、すでに失われたものを、フィルムに残そうとして作られた。
見世物小屋も、見世物小屋を扱ったこの映画も、出会いは一期一会だ。
(青柳美帆子)