0からはじめる相撲オタクになるマガジン、フリーペーパー『TSUNA』。9月の7号目で一周年を迎え、次号は11月発売予定。

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10月6日、元小結・高見盛(現・振分親方)の断髪式が行われた。
本場所でないにもかかわらず、両国国技館には満員の1万人のファンが詰めかけ、人気力士の最後の勇姿を見守った。
「角界のロボコップ」の愛称で親しまれた力士の引退に、一部で相撲人気を心配する声もあるがさにあらず。
先月行われた秋場所は、夏休み直後で例年伸び悩む傾向にあったにもかかわらず、今年は5月の夏場所と比べて毎日約1000人の観客増。
そして今月5日からはじまった九州場所の前売りチケットには、昨年より100人以上多い約270人が行列した、というニュースも流れている。

かつては『相撲』(ベースボールマガジン社)、『NHK大相撲中継』(NHKサービスセンター)、『大相撲』(読売新聞社)という三誌体制だった相撲雑誌は八百長騒動を境に『相撲』以外休刊していたが、今年は『NHK大相撲中継』のリニューアル版として『大相撲ジャーナル』も刊行されている。ジワジワと、人気復活の兆しを見せてるのが大相撲なのだ。
そしてもう一誌、昨年創刊されるや一部の若いファンの間で支持を集め、両国国技館で陳列されるや瞬く間に品切れとなる雑誌が存在する。

「0からはじめる相撲オタクになるマガジン」フリーペーパー『TSUNA』。

相撲のフリーペーパーなんだから両国で人気なのは当たり前?かと思いきや、全国のビレッジヴァンガードやタワーレコード等全国500ケ所の設置場所で、刊行後瞬く間に品切れとなる人気ぶりで、新聞、テレビ、ラジオなど各メディアでも取り上げ始められている。
私がその存在を知ったのもテレビだ。今年の8月、NHKで「あまちゃん」を見終わったまま「あさイチ」をつけていたら、その中でこの『TSUNA』が紹介されていた。
「相撲」という単語からはどうしても“古くさい”イメージを連想する人、もしくは“格式が高い”というイメージで敬遠する人もいると思うが、この雑誌は洗練されたデザインが特徴で、実に今風。「もっとライトな感覚で相撲を楽しもう」「知識0からでも相撲が楽しめるようになろう」というコンセプトのもと、紙面企画も相撲の歴史を掘り下げるものから、力士への体当たり取材まで硬軟織り交ぜてあるのが見どころ。好角家にして元横綱審議委員のやくみつるも「質が高くてびっくりした」と漏らすクオリティだ。

そんな『TSUNA』編集部が、両国場所の直後に定期的に開催するトークイベントがある。
その名も「抱きしめてツナイト」。
今年1月、5月の開催に続き、先日10月2日に行われた3回目もとい“三日目”のロフト場所もまたもや大入りだった。

出演は、能町みね子(漫画家・エッセイスト)、三島想平(cinema staff)の他、元力士にして日本相撲協会公認漫画家の琴剣淳弥、大相撲リポーターにして『お兄ちゃん』『朝青龍との3000日戦争』などの著者でもある横野レイコ、そして『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之(&スクリーントーンズ)。そしてスペシャルゲストとして、現役力士・徳真鵬がゲスト出演。徳真鵬の体重は、現役最重量の214kg。乾杯のビールジョッキが、一人だけ小グラスに見えた。

「国技館は焼き鳥がおいしいよね。崎陽軒のシューマイに通じる美味しさ!」
出だしの一手は、『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之による、実にらしい国技館グルメから。これまでの初日、二日目のイベントでは「『0からはじめる』とうたっている雑誌なのにトーク内容がマニアックな内容になりすぎてしまった」という反省(編集長談)からの、実に王道の入り。女性ゲストは2階席で売るソフトクリームを推す。「16時の中入り後は外国人観光客で混むからその前に買いに行くのがオススメ」といった大相撲あるあるが随所に散りばめられていく。
さらに、現役力士・徳真鵬が
・吉野家で20個以上オーダーすると「事前に予約してください」と店員に注意される
・場所後一週間は部屋でちゃんこが出ない
といった力士ならではの相撲グルメあるあるを披露する。

もっとも、久住昌之(&スクリーントーンズ)のライブを挟み(「孤独のグルメ」メドレーの他、新曲「関取になりたい」を披露!)、後半に入ると、結局トーク内容はどんどんマニアックになっていく。過去の「大相撲名鑑」を見ながら、若き日の朝青龍や白鵬の写真を愛でたり、呼び出しや床山さんの名前や顔、あだ名で一喜一憂するゲストとそれにちゃんとついて行く来場者たち。
でも、来場者のほとんどが20〜30代女性という顔ぶれだったのが一番の驚き。
「旭慎山の写真見せてぇ〜」「あぁ、そのページ、ストップ! もっと上の、その力士見せて!」と名鑑をめくるゲストたちに次々とリクエストしていく来場者に「落ち着きましょう! 皆さん」と司会を務めていた『TSUNA』編集長も苦笑いしていたほど。
こういったマニアやオタクが集まると、知識の見せ合いや妙なライバル心が垣間見えたりしてちょっと引くこともあるのだが、このイベントが居心地がいいのは、あくまでも力士へのリスペクトと愛情が感じられること。

トーク中、
「国技館でお相撲を見るのってお花見に近いよね」(久住)
「そうそう、力士が『花』なんですよね」(横野)
というやり取りがあったのが何とも印象的だったのだが、花を愛でるように力士を真剣な眼差しで見つめ、まさにお花見のような幸せな空間だったのは間違いない。

そう言えば断髪式を終えた振分親方は、ヘアクリエイター・上野和彦さんが考案した「もてる男のカット」で話題というか笑いも誘い、報道陣に「これでいよいよ嫁取りも本格化ですね」と詰め寄られていた。
親方、女性の大相撲ファンは、間違いなく大勢いましたよ! と思わず伝えたくなった。

(オグマナオト)