「ダークツーリズム」に注目集まる 福島第1原発で観光地化構想
死や苦しみの舞台となった場所を訪れる「ダークツーリズム」が注目されている。福島第1原発に関して、文化人らが「福島第1原発観光地化計画」を立案し、活動を広げているのだ。
他にも、各被災地で、被害を受けた建物を残すなどモニュメント構想がある。ただ、大震災の遺族の間でも、関連施設などを残すことの是非を巡って意見の対立もある。
チェルノブイリ原発では2011年から観光ツアーが解禁
「福島第1原発観光地化計画」は、チェルノブイリ原発が事故から25年の2011年から観光ツアーが解禁されているのを参考に、批評家の東浩紀さんが発案し、観光学者の井出明さんや現代美術家の梅沢和木さん、社会学者の開沼博さん、メディア・アクティビストの津田大介さん、フリーランス編集者の速水健朗さん、建築家の藤村龍至さんらが参画。自己の歴史を後世に伝えるとともに、被災地の復興にも役立てようという狙い。そのため、どんな施設を作り、なにを展示し何を伝えるべきか、予め考えておこうというプロジェクトだ。
これまでの議論では、跡地を更地にせず、周辺の放射能が一定レベル以下に下がった段階で、原発から20キロ程度のところに宿泊施設を備えた「フクシマゲートヴィレッジ」を開設し、原発事故の記憶を伝える博物館や自然エネルギーの研究施設なども併設する。観光客は、ここを拠点に、バスで「サイトゼロ」の廃炉現場に行き、作業を見学する――といった案が練られている。東さん、開沼さん、津田さんはチェルノブイリ取材を敢行して「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1」をまとめ、7月4日に刊行し、反響をよんでいる。
遺族感情などで保存か否かで意見が割れる例は多い
「ダークツーリズム」は、決して目新しいものではない。AFP通信のBBNewsは4月、ダークツーリズムの「訪問8選」として、ポーランドのアウシュビッツ(ユダヤ人強制収容所跡)、カンボジア・プノンペン近郊の虐殺記念館(ポル・ポト派による大量虐殺の記録)、広島平和記念資料館などを紹介している。日本では、日航機事故の記念碑や事故機の残骸があり、最近の例では、中央高速道路の笹子トンネル崩落事故で5人が死亡した被害車両の保存が決まった(詳細は未定)。
だが、東日本大震災でも遺族感情などで意見が割れる例は多い。岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」のように比較的反対が少なく、再生・保存され、地元住民に復興のシンボルとして勇気を与えている例もあるが、宮城県南三陸町の旧防災対策庁舎、気仙沼市の町中に打ち上げられた大型漁船、石巻市の全焼した旧門脇小学校校舎など、行政、住民、所有者らの意見がまとまらず、方針が決まっていないものも多い。
遺跡、遺構としての整備や維持管理の費用も大きな壁
特に、震災遺跡、遺構としての整備や維持管理の費用も大きな壁だ。これらは原則として市町村の負担。岩手県大槌町では職員約40人が犠牲になった旧庁舎に関して、玄関や正面部分を保存すると決めたが、1億数千万円にのぼると試算される費用を工面できるめどは立っていない。
これらは、観光目的というわけではないが、慰霊と観光に結びつけば、広島や長崎がそうであるように、まさにダークツーリズムになる。
震災後、「県産品を買って支援しよう」という人々が大勢おとずれて売り上げが大幅に伸びたた被災3県の東京のアンテナショップは、ここにきて客数、売り上げとも低迷しているという。避難生活の長期化など、現地で困難な状況が続く中、震災の記憶も薄れがちと指摘されるだけに、「ダークツーリズム」の活用も、被災地支援のために重要だ。