大友克洋は火を描いた「SHORT PEACE」
大友克洋らを中心とした短編オムニバス映画『SHORT PEACE』が公開中ですが、この「ショートピース」って名前ずるいよね。
タイトルは大友克洋のマンガ『ショートピース』から取られているんですが、英語だと正しくは「SHORT PIECE」で「短編」なんですよ。
違うのね。「SHORT」短い、「PEACE」平和。
基本的に内容はバラバラな4本なんですが、それぞれ「日本における恐怖との戦い」がテーマとして存在しています。
●ちょっと珍しいオムニバス形式のアニメ映画
「オムニバス映画」という形態自体、ちょっと珍しいです。
大友克洋は『MEMORIES』や『迷宮物語』で以前も、個性の強い作家によるオムニバス映画を作っています。
他にも『アニマトリックス』や『ロボットカーニバル』など、短編アニメーションを集めたOVAも制作され、アニメーション監督の森本晃司などが主に参加しています。
慣れていないと「なんだこの映画?」となるかもしれませんが、内容はわかりやすいので、すんごい濃い日本むかしばなしを見に行くくらいの気持ちでみるとベストだと思います。
え? 日本むかしばなしを知らない? そっかー。じゃあサザエさんで……バイオレンスなサザエさんで。
とことんまで、動くことの楽しさを、短い分だけ、みっちり見られる作りになっています。
●何と何が戦うの?
テーマは「日本」。作家陣がいかんせん個性強いので、かなりアクの強い映像のオンパレードになっています。
この「一斉にきた!」というごった煮雑多感が、実にアジアらしいんです。
『九十九』は、付喪神との出会いの話。題材は妖怪。
妖怪は日本人には恐怖であると同時に身近な存在。ものに対して「もったいない」と感じるところから生まれた、物が?化して生まれる妖怪が「付喪神」です。
その「モノ」の質感を生かしながら、付喪神に出会ってしまった男の姿を描きます。
次に『火要鎮』は、大友克洋が描く1657年の「明暦の大火」、つまり火事が題材です。
抗えない少女と青年の悲恋。それと同じように、抗うことが叶わない大火事。
この静と動の戦いを描くスペクタクル。とにかく火事のシーンが狂ったように描きこまれてます。
『GAMBO』は大自然の中にいる謎の白い熊と、異物である鬼とのバトルを描いた、異物の戦いの作品。
この熊がなんで白いのかは、目を見るとわかるので注目してみてください。解答はパンフレットに書いてあります。
かつて日本人が恐れた自然と怪異のぶつかりあいが描写されます。
そして、大友克洋原作、カトキハジメ監督の『武器よさらば』は、近未来の荒廃した日本が舞台。
かつて存在し、今かき集めざるをえない兵器との戦いを描きます。
かなり皮肉めいた内容の作品なんですが、やっていることはすごくシンプル。
自動攻撃機械と、プロテクションスーツを着た人間のバトルをひたすらに楽しんでください。
●映像の快感
一本一本が10分前後のほんと短い作品なので、ストーリーは複雑じゃないです。
その分、短いからこそ見せられる映像へのこだわりが見られます。
特に目を惹くのは、大友克洋の『火要鎮』。
この作品、絵巻物や屏風みたいな形を前半ずっと取っており、ナナメ視点の日本画風のアニメーションをしています。
それだけで実験的だなあと思っていたら、後半一気に火事のシーンに入り、めまぐるしくぐるんぐるん動き出す。
江戸時代の火事って、どう消すかって、消せないんですよ。だから「火が広まるのを食い止めるために家をぶっ壊す」のが主流。
そんなもん、暴れる炎と一緒に描かれたら、映像として面白くないわけがない。
もう一つは『武器よさらば』。これ多分見たらわかると思うんですがめちゃくちゃFPS(一人称シューティングゲーム)っぽいんです。
カトキハジメはガンダムやバーチャロンのメカニックデザインをてがけた人物。映画監督は今回が初です。
原作の『武器よさらば』なんて、1981年ですからね。35年前だよ!
なのに、古臭さどころか新しく見える映像になっています。
機能重視なカトキデザインはさすがというか、アイアンマンみたいなプロテクションスーツのギミック見ているだけでも面白いです。
プロテクションスーツは、各々のスナイパーなどの役割があって、それに適した作りをしている、というのもミリタリー的に興味そそられるところ。
それでいて、なんだか皮肉で無常感あふれていて、カサカサした笑いがある、大友克洋イズムがしっかり盛り込まれている作品。
これフルサイズで見てみたい気もしますが、やっぱり10分くらいだから面白いんだろうなー。
●日本人の職人技術「てがき」
「ディティールを詰めるにはCGは有効ですが、やはり日本のアニメ技術においては手で描き極めるほうの仕あがりが勝っているというのがよい意味でも悪い意味でも現状かもしれません」
プロデューサーの土屋康昌はこう語ります。
今の日本アニメでの真剣な悩みとして、CGと手描きをどう使い分けていくか、という部分、常に語られ続けています。
フル3DCGだと、ディズニーやピクサーなどにまだ叶わない。というか逆で、日本人の手描き技術が極まっている。
『火要鎮』の着物や刺青の柄はどう表現したのだ?とウォルト・ディズニー・スタジオの人が聞いた時「手作業」と答えたら「クレイジーだ」と言われたそうです。
でもそれが、日本人の手作業気質。
この作品ではCGと手描きがうまい具合に使い分けられています。『九十九』や『武器よさらば』は基本CGメインですが、どうやったら手書きアニメーションに寄せられるか、という部分に寄せるよう、制作されています。
『GAMBO』なんかは貞本義行原案のキャラクターが動きまわり、とても手描きっぽいのですが、実はフル3DCG。手描きアニメっぽい動きにあえてしています。
『火要鎮』はほとんどが手書き。それにCGを使って味付けするような使い方をしています。手書きキャラの女性が、CGの髪の毛をかぶっている、というユニークな使い方。
結局は「3DCGがいい」「手描きがいい」ではなくどこに折衷点を見つけるのがベストかの実験的作品群なのです。
実験的とはいっても、全ての作品がアクション・シーンがあり、エンタテインメント要素も意識的に盛り込まれているので、単純に楽しめます。内容も短いからこそシンプル。
ただし、色んなところに深読みできるネタが隠されているので、じっくり探してみてください。
大友克洋らの短編は毎回そうですが、特濃エスプレッソを飲んだ気分になります。
個人的には路地裏の達人・森本晃司のオープニングアニメーション、もっと見たいです。
こればっかりはさすがに短いよ! ちなみに声ははるかぜちゃん。
BEYOND CITYのアニメ化とかないんですかねえ。
(たまごまご)
タイトルは大友克洋のマンガ『ショートピース』から取られているんですが、英語だと正しくは「SHORT PIECE」で「短編」なんですよ。
違うのね。「SHORT」短い、「PEACE」平和。
基本的に内容はバラバラな4本なんですが、それぞれ「日本における恐怖との戦い」がテーマとして存在しています。
「オムニバス映画」という形態自体、ちょっと珍しいです。
大友克洋は『MEMORIES』や『迷宮物語』で以前も、個性の強い作家によるオムニバス映画を作っています。
他にも『アニマトリックス』や『ロボットカーニバル』など、短編アニメーションを集めたOVAも制作され、アニメーション監督の森本晃司などが主に参加しています。
慣れていないと「なんだこの映画?」となるかもしれませんが、内容はわかりやすいので、すんごい濃い日本むかしばなしを見に行くくらいの気持ちでみるとベストだと思います。
え? 日本むかしばなしを知らない? そっかー。じゃあサザエさんで……バイオレンスなサザエさんで。
とことんまで、動くことの楽しさを、短い分だけ、みっちり見られる作りになっています。
●何と何が戦うの?
テーマは「日本」。作家陣がいかんせん個性強いので、かなりアクの強い映像のオンパレードになっています。
この「一斉にきた!」というごった煮雑多感が、実にアジアらしいんです。
『九十九』は、付喪神との出会いの話。題材は妖怪。
妖怪は日本人には恐怖であると同時に身近な存在。ものに対して「もったいない」と感じるところから生まれた、物が?化して生まれる妖怪が「付喪神」です。
その「モノ」の質感を生かしながら、付喪神に出会ってしまった男の姿を描きます。
次に『火要鎮』は、大友克洋が描く1657年の「明暦の大火」、つまり火事が題材です。
抗えない少女と青年の悲恋。それと同じように、抗うことが叶わない大火事。
この静と動の戦いを描くスペクタクル。とにかく火事のシーンが狂ったように描きこまれてます。
『GAMBO』は大自然の中にいる謎の白い熊と、異物である鬼とのバトルを描いた、異物の戦いの作品。
この熊がなんで白いのかは、目を見るとわかるので注目してみてください。解答はパンフレットに書いてあります。
かつて日本人が恐れた自然と怪異のぶつかりあいが描写されます。
そして、大友克洋原作、カトキハジメ監督の『武器よさらば』は、近未来の荒廃した日本が舞台。
かつて存在し、今かき集めざるをえない兵器との戦いを描きます。
かなり皮肉めいた内容の作品なんですが、やっていることはすごくシンプル。
自動攻撃機械と、プロテクションスーツを着た人間のバトルをひたすらに楽しんでください。
●映像の快感
一本一本が10分前後のほんと短い作品なので、ストーリーは複雑じゃないです。
その分、短いからこそ見せられる映像へのこだわりが見られます。
特に目を惹くのは、大友克洋の『火要鎮』。
この作品、絵巻物や屏風みたいな形を前半ずっと取っており、ナナメ視点の日本画風のアニメーションをしています。
それだけで実験的だなあと思っていたら、後半一気に火事のシーンに入り、めまぐるしくぐるんぐるん動き出す。
江戸時代の火事って、どう消すかって、消せないんですよ。だから「火が広まるのを食い止めるために家をぶっ壊す」のが主流。
そんなもん、暴れる炎と一緒に描かれたら、映像として面白くないわけがない。
もう一つは『武器よさらば』。これ多分見たらわかると思うんですがめちゃくちゃFPS(一人称シューティングゲーム)っぽいんです。
カトキハジメはガンダムやバーチャロンのメカニックデザインをてがけた人物。映画監督は今回が初です。
原作の『武器よさらば』なんて、1981年ですからね。35年前だよ!
なのに、古臭さどころか新しく見える映像になっています。
機能重視なカトキデザインはさすがというか、アイアンマンみたいなプロテクションスーツのギミック見ているだけでも面白いです。
プロテクションスーツは、各々のスナイパーなどの役割があって、それに適した作りをしている、というのもミリタリー的に興味そそられるところ。
それでいて、なんだか皮肉で無常感あふれていて、カサカサした笑いがある、大友克洋イズムがしっかり盛り込まれている作品。
これフルサイズで見てみたい気もしますが、やっぱり10分くらいだから面白いんだろうなー。
●日本人の職人技術「てがき」
「ディティールを詰めるにはCGは有効ですが、やはり日本のアニメ技術においては手で描き極めるほうの仕あがりが勝っているというのがよい意味でも悪い意味でも現状かもしれません」
プロデューサーの土屋康昌はこう語ります。
今の日本アニメでの真剣な悩みとして、CGと手描きをどう使い分けていくか、という部分、常に語られ続けています。
フル3DCGだと、ディズニーやピクサーなどにまだ叶わない。というか逆で、日本人の手描き技術が極まっている。
『火要鎮』の着物や刺青の柄はどう表現したのだ?とウォルト・ディズニー・スタジオの人が聞いた時「手作業」と答えたら「クレイジーだ」と言われたそうです。
でもそれが、日本人の手作業気質。
この作品ではCGと手描きがうまい具合に使い分けられています。『九十九』や『武器よさらば』は基本CGメインですが、どうやったら手書きアニメーションに寄せられるか、という部分に寄せるよう、制作されています。
『GAMBO』なんかは貞本義行原案のキャラクターが動きまわり、とても手描きっぽいのですが、実はフル3DCG。手描きアニメっぽい動きにあえてしています。
『火要鎮』はほとんどが手書き。それにCGを使って味付けするような使い方をしています。手書きキャラの女性が、CGの髪の毛をかぶっている、というユニークな使い方。
結局は「3DCGがいい」「手描きがいい」ではなくどこに折衷点を見つけるのがベストかの実験的作品群なのです。
実験的とはいっても、全ての作品がアクション・シーンがあり、エンタテインメント要素も意識的に盛り込まれているので、単純に楽しめます。内容も短いからこそシンプル。
ただし、色んなところに深読みできるネタが隠されているので、じっくり探してみてください。
大友克洋らの短編は毎回そうですが、特濃エスプレッソを飲んだ気分になります。
個人的には路地裏の達人・森本晃司のオープニングアニメーション、もっと見たいです。
こればっかりはさすがに短いよ! ちなみに声ははるかぜちゃん。
BEYOND CITYのアニメ化とかないんですかねえ。
(たまごまご)