エンターテインメントとしては、これ以上ないくらい極上のスペクタクルだった。２対０から２対１となり、２対３と引っ繰り返されながらなおも食らいつく。香川の左足ボレーはブッフォンに反応すら許さず、岡崎のヘッドもファインゴールだった。コンフェデ杯はまだ序盤だが、６月19日に行なわれたイタリア戦は大会のベストマッチにあげられるかもしれない。

　試合前から日本に肩入れをしていた地元の観衆は、日本の勇猛果敢な姿勢に興奮を誘われた。日本がボールを回せば、「オーレ！」の歓声が響く。日本のシュートが外れるとため息が漏れ、すぐに拍手が追いかける。日本国内以外でかくもスタジアムを沸かせたゲームは、中村俊輔がスーパーなＦＫを突き刺した03年のコンフェデ杯のフランス戦と、05年のコンフェデ杯のブラジル戦以来だろうか。興奮が冷めない頭では、それぐらいしか思いつかない。

　ブラジルとの第１戦は、あまりにも不甲斐ない〈負け方〉だった。よそ行きの姿で試合に入り、そのまま時間だけが流れた。ただ敗戦が刻まれただけだった。

　この日は違う。序盤からアグレッシブに挑み、イタリアを追い詰めた。得点シーン以外の決定機が生かされていれば、勝点３をつかむこともできた。ボール支配率でもシュート数でも上回ったのは、この試合の内容を正しく映し出している。やればできるということを、選手たちは見せてくれた。

　だからこそ、敗戦を重く受け止めなければならない。

　イタリアの得点時間を振り返る。前半終了間際の41分、後半開始直後の50分と52分、そして後半終了間際の86分である。いわゆる〈魔の時間帯〉とそのすぐ近くだ。２対１で後半を迎えるにあたって、ザックからは「後半の10分でこの試合が決まる」という指示も出ていた。十分な警戒心と想像力を働かせたにも関わらず、サッカーの定石にあげられる時間帯にゴールを許してしまったのだ。

　相手の集中力が上回っていたと言うことはできるし、抜け目なさにやられたと整理することもできる。ただ、分かっているのにやられたということは、そこに些細だがはっきりとした「差」が横たわると理解すべきだ。個人のミスが絡んでいるとしても、イタリアと日本の違いとしてチーム全体で失点を受け止めるべきである。

　そして、世界のトップクラス相手に１点差で屈したのは、このイタリア戦が初めてではない。そのとき、我々はどんな反応をしてきたか。

　自戒を込めて言えば、僕は心のどこかで接戦に満足していた。善戦を無条件で受け入れていた。つまりは勝利を期待せず、それどころか敗戦を覚悟していた。

　イタリアが突きつけた「差」は、簡単に埋まるものではない。2013年６月19日の経験が、次の対戦ですぐに生かされる保証もない。今度またイタリアと対戦したら、同じような結果になるかもしれない。彼らは勝ち方を知っているからだ。コンディションが悪くても、対戦相手より休養日が少なくても、どうにかして勝利を引き寄せる術が、アッズーリのユニフォームには歴史として刻まれている。

　世界のトップ・オブ・トップとの対戦を経験の場とするのは、今回のイタリア戦を最後にしたい。僕自身はそのように頭を切り替える。次からは本気で勝利を求める。

　こうした苦い経験を積んでいけば、やがては勝利をつかむことができるかもしれない。だが、１試合でも早くそうした機会を迎えるために、それが来年のワールドカップであるために、イタリア戦を善戦とは言わない。

　日本は、負けるべくして負けたのだ。わずかでも満足してはいけない。