もしあなたがサッカー専門誌の編集長で、今週発売号の表紙を決めるとしたら──。
　普通に考えれば、週末のゲームでハットトリックを達成した香川真司になる。クラシコを切り取った一枚も、先週のサッカー界を象徴する。

　Ｊリーグから選ぶとすると？　
　王者の広島を倒した浦和か。あるいは、神奈川ダービーを逆転で制したＦ・マリノスか。途中出場でゲームを大きく動かした斎藤の働きは、なかなかのインパクトだった。

　僕は柿谷を推す。
　開幕戦は誰にとっても特別である。選手にも、サポーターにも。セレッソはホームで３月２日を迎えていた。負けられない。

　柿谷自身は背番号８を引き継いだ。森島、香川、清武が紡いできた番号は、クラブの象徴である。これまで以上に大きな責任感を、今シーズンの彼は背負う。

　ゲームは０対０で終盤を迎えていく。勝点１でも納得せざるを得ない内容で、終了のホイッスルが近づいていた。２分後にはおそらく、長居スタジアムにため息がこぼれる。

　ここで、柿谷が輝くのだ。扇原のロングパスに呼応して最終ラインの背後を突き、決勝点を叩き出す。ＤＦをブロックしながらダイレクトで流し込んだ一撃は、見た目以上に難易度の高いものである。
　
　エースと呼ばれる選手の定義は様々だが、個人的には三浦知良の変化が分かりやすいと思っている。典型的なウインガーだったカズは、国内復帰とともにアシストより得点を求められるようになっていく。周囲の要求と彼自身の自覚はやがて合致し、ストライカーとして覚醒していった。テストマッチはもちろん大一番でもゴールをあげたカズには、エースの称号がふさわしかっただろう。
　
　チームのシンボルとしての活躍を望まれ、そのとおりの結果を残した開幕戦の柿谷は、今シーズンの飛躍を予感させた。重圧のかかる局面でクールに技術を発揮してみせた23歳には、日本代表入りの期待も集まる。
　
　ザックことアルベルト・ザッケローニ監督は、「継続的な活躍」を招集基準のひとつにあげている。キャリアハイの11得点をあげた昨シーズンを土台として、勝敗に直結するプレーをコンスタントに見せていけば、柿谷が日の丸を着ける日も訪れるだろう。

　専門誌の表紙候補としては、福岡の城後と神戸の小川もあげたい。彼らもまたエースの重圧をエネルギーに変え、自らの得点でチームを勝利に導いた。永島、播戸、大久保らがつないできた背番号13を背負う小川は、20歳にしてチームのシンボルとしての活躍を期待されている。
　
　代表クラスの欧州移籍で空洞化も囁かれるリーグを盛り上げるのは、突き詰めれば選手自身の取り組み次第だ。開幕戦のピッチでぶつかりあった思いが、季節の移り変わりととともに色褪せるようでは困る。少しでも上へ、一歩でも前へ、といった意欲が持続力を持ってピッチに現われることを、期待していきたいのである。