２０１２年最後の国際Ａマッチは、11月14日のオマーン戦だった。ブラジル・ワールドカップ最終予選の第５戦である。

　１対０で迎えた63分、ザックことザッケローニ監督が動く。第４の主審は最初に「18」を、次に「６」を表示した。前田から酒井高徳へのスイッチだった。
酒井は左サイドバックへ入り、長友が２列目へポジションをあげる。１トップには本田がトップ下からスライドした。

　ストライカーを下げて、サイドバックを投入する──現在の日本代表の強みと、数少ない悩みが浮き彫りとなる交代だった。

　監督就任から間もない２０１１年１月のアジアカップで、ザックは長友を中盤で起用している。オーストラリアとの決勝戦だ。

　絶え間ないアップダウンを保証する長友は、本田、香川、清武とはまた違う魅力がある。彼ら３人より受け手の性格が強い岡崎とも異なる。フランス戦の後半に見せたオーバーラップの連続は、相対するＤＦを圧倒した。消耗戦の色合いが強くなっていたこの日のゲームでは、ベストチョイスと言っていいポジション変更だった。

　長友の２列目起用を後押ししたのは、酒井高の台頭だ。１月のシュツットガルト移籍を契機に実力をつけてきた21歳は、１対１に追いつかれた終盤にアシストを決め、チームの勝利に貢献する。

　長友と内田が定位置争いを牽引し、ベテラン駒野が下支えしてきた両サイドバックは、酒井高と酒井宏の存在で厚みを増した。内田が欠場したオマーン戦では、酒井宏が右サイドバックでフル出場している。ロンドン五輪に出場した二人の台頭により、このところ温存されていた長友の中盤起用というカードを切ることができたのだった。

　前田の途中交代は、何を意味していたのか。
　10月の欧州遠征をケガで欠場した彼のスタメン復帰は、ザックの信頼感の表れだっただろう。問題は彼に続くふたり目のストライカーだ。

　李忠成は所属クラブで出場機会をつかめず、ハーフナー・マイクもザックの信頼を得るには至っていない。10月の欧州遠征に追加招集された佐藤寿人は、ようやくスタートラインに立ったような状況だ。

　その一方で、２列目は人材豊富である。本田、香川、岡崎の３人を清武、乾、宇佐美らが追いかけ、ベテランの中村憲が安定感を持ち込む。日本屈指のボリュームゾーンである２列目は、幾通りもの組み合わせを描くことが可能だ。

　本田の１トップ起用は、10月のブラジル戦に続いて２試合連続だった。ベンチにハーフナーを置いたまま、ザックは本田のポジション変更を選んだ。ハーフナーの高さが有効活用できるオマーン相手でも、背番号４を最前線に置く──イタリア人指揮官のこだわりが見え隠れする起用だった。

　本田を最前線に置くシステムについて、ザックは「１トップ」とか「ゼロトップ」といった明確な定義をしていない。強調しているのは流動性だ。２列目と本田が自在にポジションを変えながら、「サイドからの攻撃に、より厚みを持たせたい」としている。

　その先には、３−４−３を見据えているのではないだろうか。いまだオプションの域に到達していないものの、ザックは自身の代名詞とも言えるシステムへのこだわりを捨てていない。本田の１トップ起用だけでなく長友の２列目起用の先にも、３−４−３が透けて見える。

　２月のアイスランド戦から始まった２０１２年の12試合は、ブラジル・ワールドカップ出場を賭けた戦いであり、数少ない不確定要素の解答を探し出す日々でもあった。「予選突破のために（勝点の）貯金を増やしたい」とザックが話していた最終予選については、十分に及第点がつく。

　２０１３年へ持ち越されたのは、前田に続く１トップは誰なのか、ということだ。もっと言えば、前田も不動のレギュラーとは言い難い。

　李やハーフナーが巻き返してくるのか。南アフリカ・ワールドカップと同じように、本田が最前線に立つのか。それとも、新たな選手が登場してくるのか。２０１３年の大きな見どころである。