あのパターンだ、と思わず声をあげた人がいたかもしれない。９月11日のイラク戦の得点シーンである。
「あれは練習どおりというか、ヨルダン戦でもオーストラリア戦でも、一回はああいう形でチャンスを作っているので」
　前田の得点をアシストした岡崎は、そう言って表情をほころばせた。彼の言葉を裏付けるシーンは、比較的簡単にさがし当てることができる。

　たとえば、６月３日のオマーン戦である。
　後半開始直後に右サイドの深い位置でスローインを得ると、内田と岡崎の狙いが重なり合う。ゴールライン際へ走り込んだ岡崎へ、内田からボールが供給されたのだ。この場面はＤＦにスポイルされてしまったが、右ＣＫへつながった。

　６月12日のオーストラリア戦でも、彼ら二人の連携が相手ＤＦ陣を慌てさせている。前半35分に内田のスローインが岡崎へわたり、前田がゴール前へ詰めていった。このシーンはシュートにつながらなかったものの、40分には同様のパターンから右ＣＫを獲得している。

　内田と岡崎の関係性だけではない。彼らが揃わなかった先のＵＡＥ戦でも、スローインからの崩しが見られた。後半開始早々の50分、酒井宏のスローインから清武がマーカーの背後をとり、ゴール前へクロスを送ったのだった。

　そして、この日の右サイドバックは、内田でも酒井宏でもなく駒野である。チーム全体の共通理解が、価値ある決勝ゴールを生み出したのだった。

「警戒していたシーンが何通りかあり、そのなかにはサイドからのスローインも含まれていた。だが、あの場面では別のプレーを想定してしまった」
　試合後の記者会見でジーコはこう語り、「我々の凡ミスが失点を招いた」と両手をひろげた。Ｗ杯最終予選や直近のテストマッチをスカウティングすれば、日本の右サイドがスローインを有効活用しているのはすぐに明らかになる。だからこそ彼は、「準備はしていたがやられてしまった」というニュアンスを強調したのだった。

「私はリスクを背負っていた」ともジーコは話した。ユーヌス・マフムードやナシャト・アクラムらの主力選手がリーグ開幕前のため──彼らはＵＡＥのクラブでプレーしている──コンディションが把握できていないという理由でスタメン起用を見送ったのだ。その結果として、「一度も一緒にプレーしていない選手を初めて公式戦に出した。五輪代表の若手もデビューさせた」と説明している。

　ジーコはまた、「我々はＦＫやＣＫからは失点していない。本田や遠藤にもシュートを打たせなかった」と評価したが、裏返せばスローインまでは警戒しきれなかったということである。岡崎はいとも簡単にゴールライン際から抜け出し、前田はまったくのフリーでヘディングシュートを突き刺している。

　スタメンの平均年齢が22・９歳のイラクは、豊かな将来性を感じさせるチームだった。先のキリンチャレンジで対戦したＵＡＥと同じように、数年後には日本や韓国を脅かす存在となってくるだろう。

　ただし、現時点では日本が上回っている。
　相手の警戒をかいくぐった成熟度は、ほぼ２年に及ぶ積み重ねの成果だ。
　この日行なわれた別カードでは、オーストラリアが敵地でヨルダンに敗れた。ヨルダンの先制点は微妙なＰＫによるものだったが、１対２というスコアは試合内容をそのまま映し出す。「日本がグループ首位になるのは、ほぼ間違いないだろう」というジーコの見立ては、数時間後にさらなる説得力を増したのだった。日本は勝点10で独走態勢を築き、このグループの興味は２位争いへ移りつつある。