なお、13日なでしこリーグ東京電力女子サッカー部マリーゼがベガルタ仙台へチーム移管交渉を行うことが明らかとなった。現在トップチームの練習環境が問題視されている中、女子チームを持つ可能性が出てきたことで、手倉森監督は「我々の抱えている問題もクリアしていく必要がある。環境や育成が整う前に女子チームに手を出して良いのか、と考えた時に、それ相応の決意を持った交渉をして欲しいと社長と話をしてきた。トップには影響がないように運営していきたいと社長は明言してくれた」と語り、社長にはトップチームの問題解決にも取り組むよう改めて要求をした模様だ。

■ユース新監督に育成の活性化を期待

もう一つ手倉森監督が問題視しているのは育成だ。ベガルタ仙台のアカデミーは2007年以降ユースチームからトップチームへの選手昇格がない。2007年以降、ユースは毎年監督が代わり試行錯誤する状況で、必ずしも一貫性のある指導とは言い難い状況だった。手倉森監督は「ずっとユースから選手が上がって来ない。昇格があるとないとでは全然違う。今は外から来た選手がクラブに愛着を持ってくれているが、中学・高校から愛着を持ってくれている子が出てきて欲しい」とユースからの昇格選手を熱望している。

手倉森監督が期待をかけているのは、今シーズン就任した越後和男ユース監督だ。ブランメル仙台時代からのクラブOBである越後監督は、2004年トップチームコーチとして手倉森監督と共に仕事をしていた。2005年以後は仙台を離れ、ジェフ・リザーブズ監督などを務め豊富な指導経験を積んだ。

越後監督は仙台ユース監督として初めてトップの若手選手とユースの一部選手が暮らす寮に住み込み、選手の生活面や精神面、そして「関東のチームに勝てる」ことを基準に技術面で厳しい指導を行っている。夏以降は「ボールを握ることを怖がらないチーム」を目指し、ポゼッションサッカーに精力的に取り組んでいる。ケガ人が多く出たことや、リスクを恐れず1〜2年生にも積極的にチャンスを与えたこともあり、プリンスリーグ東北1部では5位と低迷し、2部落ちの可能性もある状況だが、越後監督はあくまで長期的視野でチームを改革しようとしている。

手倉森監督は「越後さんがもっと主導権を持ってやるべきではないか。外で指導を経験した人の客観的な評価を受け入れた方が良い」と信頼を置いている越後監督への期待を口にした。「越後さんは選手だけの問題ではないと思っている。要求をするスタッフも作らねばならないと思っている」と、越後監督による育成コーチングスタッフへの指導や新たな人材登用も期待しているようだ。これまでコーチングスタッフの入れ替えがあまりなかった仙台の育成に、豊富な経験を積んだ越後監督が新たな活力を与えることを手倉森監督は期待している。

■来シーズンを見据え新人武藤を抜擢

こうして手倉森監督が来シーズンへの要望を訴える中、来シーズンに向けて期待の星となる選手が現れた。流通経済大から今シーズン仙台に加入したルーキーFW武藤雄樹だ。

長らく出場機会に飢えていた武藤だったが、9月17日新潟戦でリーグ戦デビューを果たすと、10月8日の天皇杯2回戦では、2得点ともPK奪取に絡む活躍を見せ、自身でPKを決めてプロ初ゴールを決めた。そして10月15日福岡戦で途中出場すると、松下年宏からのクロスを受けて反転してリーグ戦初ゴールを決めた。長らくサポーターから待望論が挙がっていた武藤であったが、ようやく戦力として目処が立った。

今まで手倉森監督はプロ1〜3年目の若手選手の起用に慎重だったが、シーズン終盤に来て、手倉森監督は来シーズンを見据えての目論見もあるのだろうが、新人の武藤に積極的に出場機会を与え、武藤もチャンスを確実につかみ、指揮官の信頼を勝ち取りつつある。

次回、現在急成長を遂げている武藤雄樹が、シーズン当初どう手倉森監督に評価されていたか、そしてシーズン中手倉森監督はどんなプレーを武藤に求めてきたか、さらには出場機会をつかんでからの武藤の活躍ぶりについて取り上げていきたい。

■著者プロフィール
小林健志
1976年静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。ベガルタ仙台オフィシャルサイト・出版物や河北新報などでベガルタ仙台についての情報発信をする他、育成年代の取材も精力的に行っている。


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