リーフはかなり長いヘッドライトを持っています。ボンネットを下げ、突出した形はサイドミラーへの空気の流れを抑制し、風切音を低減しています。


 


いつしか、クルマのフロント・デザインはヘッドライトありきの形が当たり前になってきたように思われます。それは、異形ヘッドライトが自在なデザインを可能にしたことによって、ボディの造形にあった形を作り出だせるようになったことが、その傾向をさらに進めたようです。現在では、ヘッドライトがかなり象徴的な存在になっているといえるでしょう。加えて透明なヘッドライトカバーは、ボディ・デザインには不似合いな形も目立たせずに造形することもできます。空力的に必要な形と、見た目のデザインとして表現したい形の差をも埋めることができたのです。



ヴィッツのヘッドライトはマルチリフレクター式なのですが、すべてが光る構造ではありません。



アルファロメオ8Cコンペティツィオーネは、小さなライトを集合させ、大きく囲んでいます。大きなヘッドライトは基本的のこのような作られ方でバックの部分をめっきにしてヘッドライト状にしています。



ヒュンダイ・ソナタ・ハイブリッドはバイキセノン式で1つのプロジェクターを用いますが、ヘッドライトはかなり大きいですね。


しかしちょっと気になっているのですが、ヘッドライト・ユニットのなかで、光らない部分が多くなっているものがけっこうあると思いませんか。もちろんそういうデザインのクルマがあって悪いことはありません。しかし、世界中の多くのクルマが“右へならえ”をするように同じような考え方に進み、個性が感じられにくくなっているのは事実でしょう。



BMW3シリーズもバイキセノン式で、外側だけでハイ&ローの機能を持ちます。内側は基本的に4灯あるポジジョニングランプのうちの2灯の機能。



ロービームとハイビームを1つのプロジェクターで行える、バイキセノン式ヘッドライトを採用しながらも、4灯式のようなデザインを取らざるを得ないモデルもあります。BMWは4灯式ヘッドライトがひとつのアイコンのようにもなっていて、容易に2灯式デザインに移行しにくいという側面もあるようです。もしもこのクルマにヘッドライトがなかったら? と考えた場合に、完全その形が想像できないクルマが多いですよね。ヘッドライトがあってこそバランスするデザインなんだと思います。




フェラーリ365GT4BB。リトラクタブル・ヘッドライイトの代表格。ヘッドライトは4灯式です。ヘッドライトに頼らない造形。



フェラーリ458イタリア。バイキセノン式に多数のLEDを組み合わせています。


かつてスポーツカーには、極限の空力性能を求めるためにリトラククタブル・ヘッドライトが考案されました。当時のヘッドライトは、小型化できない、そして空力的に条件の悪いものだったので、不要なときには隠してしまうのがわりとよい改善策となったのです。その後の異形ヘッドライトの技術はリトラクタブルを不要にしたのですが、それまでのスポーツカーはヘッドライトなんてなくてもかっこいい形をしていたのです。また、北米でヘッドライトが統一規格しか認められていなかった時代には、似たようなデザインになることを嫌って、セダンやクーペでも格納式のヘッドライトを採用したモデルもありました。



シボレー・カマロ・ラリーSS,1968 70年代近辺はヘッドライトを隠したモデルがいくつも発表されました。クーペだけでなく、セダンにも波及ししました。


プロジェクター式ヘッドライトが登場してからは、ライトユニットを薄くする傾向とはなりましたが徹底した進化の傾向はあまりありませんでした。そんななかでも、独特の小ささを生かしたデザインにトライしたモデルもあります。たとえば、3代目ホンダ・インテグラではプロジェクター式の小ささをできるだけ生かしたデザインを採用していました。しかし、マイナーチェンジで一般的な形に変更されてしまいました。そのデザインが不評だったことや、降雪時にはくぼみに雪がたまってしまう。よごれが付着しやすいなどが変更理由だったように記憶しています。



3代目ホンダ・インテグラ,1993 外側のロービームをプロジェクター式としたモデル。2年後マイナーチェンジで普通のヘッドライトに。


むしろヘッドライトは自車のアイデンティティを表現するのに最適で、プロジェクターのサイズに関係なくライト的なものとしてデザイン優先で形が決められてきたようです。


またLEDのポジショニング・ランプが一般化した直近では、大きなヘッドライトカバーのなかに、アウディのように独自の形を表現したポジショニング・ランプを造形する手法が多くなってきているようです。いずれにしても、大きなヘッドライトありきのデザインが現在の主流になっていて、それを成立させるためにいろいろな手が施されているようです。



アウディA4オールロードクアトロ。1灯でハイ&ロー兼用のバイキセノン式で、LEDによる大きな造形でポジショニングランプを構成。


もちろん、それらのデザインがいけないのではなく、それもひとつのアイデアでしょう。ただ、機能が進化しているのに、その機能をデザインがうまく表現できていないもどかしさはぬぐい去ることはできないように感じます。


ところが、最新のコンセプトカーや新型車のヘッドライトは少しずつですが小型化する方向性が見えます。この先にはより個性的なヘッドライトのありかたが模索されているものと思われます。





ヘッドライトが小さくなってきたと感じられるコンセプトカー。上からメルセデス・ベンツAクラス・コンセプト、マツダ・ミナギ、レクサスLF-GH。


 


夜間でもどんな光り方をするかでブランドが特定できたら、大きな個性となるでしょうね。それは、単にポジショニング・ランプをどんな形でどこに配するかという、プリミティブな考え方とはちょっと違うものになってくるとは思いますが……。重要な保安部品でもあるだけに、各メーカーの考える安全意識が主張されたデザインであってもよいですね。


あるいは、これほど小型化されたら、もはや主張する必要はないのかもしれません。ボディの造形だけで見せる美しさも、一つの価値になるのではないでしょうか。いずれにしても、単一的にならずいろんな発想があるべきですよね。



1962年のピニンファリーナのコンセプトカー、アルファロメオ2600カブリオレ・スペチアーレ。2010年に発表されたコンセプトカー、アルファロメオ・デュエットタントに大きな影響を与えたはずです。リトラクタブル・ヘッドライトですが、現在の技術なら、ヘッドライトを下のグリルにそっと隠すこともできますね。デザインはなんでもアリですが、画一化だけは面白くありませんね。


 


(MATSUNAGA, Hironobu)