選手の生命を守れるか?美学と危うさの狭間で苦悩するボクシング界
――辻、小松の死亡事故、辰吉の現役続行がはらむ問題
亀田三兄弟をめぐる喧噪もいつのまにか消え、ボクシング界は今、新たな問題に直面している。天才ボクサーと呼ばれ、カリスマ的な人気を誇った元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎選手の現役続行問題、日本タイトルマッチでのリング禍、そして人気ボクサーの事故死…。そこにはボクシングという競技が持つ美学と危うさが複雑にからみあっている。
今年3月21日に行われた日本ミニマム級王座決定戦で敗れた辻昌建選手(帝拳)が試合後意識を失い、3日後に亡くなった。辻選手はサウスポーから繰り出す連打を武器にこつこつとランキングをあげ、30歳にしてようやくつかんだチャンスだった。
このとき、甚大なダメージを感じた辻選手の陣営のなかにはセコンドに試合を止めるように助言した者もいたというが、そのまま最終ラウンドへ。すぐ金光選手のラッシュにさらされた辻選手は赤コーナーにもたれた形でダウンをとられ、カウントアウトされた。
彼が完全に意識を失ったのは、その直後だ。
日本のリングでの死亡事故は10ヵ月ぶり。日本タイトルマッチにおける事故は4年ぶり、4例目になる。
そしてこの試合に勝ってベルトを巻いた金光選手もまた、試合後の検査で硬膜下血腫が認められ、ベルトを巻いたまま引退を余儀なくされた。症状が判明してから発表に時間がかかったのは、ジム側の「少しでも長くチャンピオンでいさせてやりたい」という心情からだった。
9ラウンド終了時点で、3人のジャッジはすべて辻選手に5−6ポイントのリードを与えていた。
あと3分、立ってさえいれば、辻選手は栄光をつかめたのだ。
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