【神山 典士】鉄道、国道、上水道「すべてない」のに人口増加…北海道・東川町が2年連続で「住みここち全国1位」になったワケ

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いま、地域社会やサービスはどのように「溶けて」消失するのか。人々は町に何を残し、何を受け継いで、何を変えようとしているのか――。

石丸伸二が去った後の安芸高田市をはじめ、日本各地で地方はいかに疲弊し、どう再生を目指しているのかを探ったノンフィクション作家の神山典士氏が『地方が溶ける ふるさと再生の光と影』(光文社新書)で、日本列島のリアルな姿を著した。

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「街の住みここちランキング

「××町は北海道の真ん中に位置する小さな町だ。8600人程度の人口は少しずつ増えていて、みんな楽しく暮らしている。小さな町ではあるが、車を20分走らせれば北海道第二の都市旭川に行けるので便利だ。しかし××町には3つの「道」がない。鉄道、国道、上水道だ。その他にも、高いビルもなければショッピングモールもない。ショッピングモールは旭川にいけばあるし、景観条例で高い建物を建てられないからだ。都会から近く、自然からも近い。「適疎」で「トカイナカ」な町だ」

この文章は、北海道のとある町の中学校3年生が書いたものだ。さて、××に入る自治体名はなんだろうか?

その答えは、「街の住みここちランキング」(大東建託賃貸未来研究所)で2023年から2年連続で全国1位に輝いた北海道大雪山系の麓の町、上川郡東川町だ。

私は『地方が溶ける、ふるさと創生の光と影』でその町づくりの詳細なレポートを書いた。けれどそのレポートよりも、この中学生の作文の方がある意味で町の魅力を雄弁に物語っている。

2025年の夏、私は同町の教育委員会にお世話になって、同町の小中学生から大人までを対象に作文教室を開いた。テーマは「東川の魅力」。「この町の一番いいところ、魅力だと思うところを書きだしてください」とお願いして、その場で作品を書いてもらったのだ。

この活動は、私が首都圏と全国で展開している「書く力教育×ふるさと愛教育」だ。私が実践しているささやかな「地方創生のための活動の一つ」なのだ。

「地方が溶ける」というタイトルが示す通り、疲弊する地方にあって私が一番問題だと感じるのは子どもたちの「高校卒業後のふるさと離れ」だ。

多くの地方の自治体では、子どもたちは高校まではなんとか実家から通えても、大学進学となると都会に出て行かざるを得なくなる。大学の多くが首都圏に集中しているからそれは仕方ないのだが、問題は一度ふるさとを出てしまった子たちが卒業後も将来的にも帰って来ないケースが多いことだ。(特に女性にこの傾向が強い。)

その結果地方の人口は減少を続け、高齢化率は高まり、中心市街地のシャッター街は増える一方だ。

もちろん若者たちにしてみれば、就職や結婚等で戻れないケースがあるのは仕方ない。けれど戻れないまでも、成人後はせめてふるさとを愛してふるさとと関係を結び続ける「関係人口」にはなってほしい。

そのためには、10代のころから「ふるさと愛」を醸成する教育が必要なのではないか。長じてふるさとを語るときに、「田舎だから何もない」と否定的に語るのではなく、「こんないいところがある、こんな豊かさがある」と肯定的に語ってほしい。そう考えて、10代のころからふるさとを見つめ、ふるさとに対する思いを膨らませるために、ふるさとの魅力をテーマにした作文を書くことを提唱している。

もちろんそれだけで成人後のふるさと離れの全てが解決するわけではないが、10代のころに体内に宿った「ふるさと愛」は、地方の疲弊をせめて食い止める「力」になってくれるのではないか。そう考えているのだ。

「美しいコバンザメ」

東川町で生まれた作文を見てほしい。

通常地方の町の出身者は「なにもない」ことをネガティブに語ることが多い。けれどこの作文では、「なにもない」ことをむしろポジティブに誇らしげに書いている。

「3つの『道』がない」中では殊に3番目が象徴的だ。この町に上水道がないのは大雪山系から流れ込む伏流水を飲み水としているからで、どの家庭でも蛇口をひねるとミネラルウォーターが出てくる。「ない」ことがむしろ「自慢」になっている。

さらに「高いビルもショッピングモールもない」と書きながら、「それらは隣町旭川に行けばある」「(だから東川は)『適疎』で『トカイナカ』だ」とあくまでも前向きだ。

「住民一人当たりの予算(一般会計予算)が日本で有数の高額の町(この20年間で一般会計予算は約3.8倍に増加)」「地域起こし協力隊員数が国内トップクラス(ここ数年は年間約80人採用)。その力を使ってさまざまな町民参加型イベントや行事を行って町を活性化」「この30年間人口は常に微増(7100人から8600人へ)。年間約80人採用する地域起こし協力隊員の約4割が地域に定住する」

など、定量的なデータでも、この町の「活性化」は見事に進んでいることがわかる。けれどそれだけでなく、子どもから大人たちまでが書いた作文からは、この町の定性的な魅力が見えてくる。

それは、ここに述べたように「なにもない」ことをポジティブにとらえるだけでなく、もう一つ、ある言葉に集約されている。

その言葉とは、「美しいコバンザメ」。

たとえば数年前にこの町に移住したシニアの男性が書いた作文では、その言葉はこんなふうに使われている。

「田んぼの水面に映える夕陽の美しさでこの町に住むことを決めた。夕陽が落ちるのを見ながら酒を飲み、大音量で音楽を聴いても焼き肉をしても近所から苦情一つこない。「適疎」や「美しいコバンザメ」という言葉がぴったりあてはまる町だ」

私のこの取材で副町長から農民、移住者、地域起こし協力隊員、学生アルバイターまで十数人にインタビューしたのだが、その多くの人が「美しいコバンザメ」という言葉を使った。つまり大きなショッピングモール、高いビル、鉄道、国道、飛行場などは隣町にあればいい。東川はその巨大なサメに吸いついて、美味しいところ美しいところだけをもらいながら生きていく。

むしろ東川では移住者たちが開く小さくてかわいいカフェやレストランが畑の中に点在している。古くからある地元民の商店や農産物直売所が元気に活動している。そんなミニマムな幸せがいまも残る町なんだと誰もが誇りに思っていて、町の「強み」が全世代でシェアされているのだ。

そんな町の魅力は、様々な世代に作文を書いてもらうことではじめて見えてくる。

彼ら彼女らがやがて成長した時に、その記憶が豊穣なものになるように。ふるさとのヒーローヒロインとして、ふるさとに戻ってきてくれるように。

私はこの活動を全国各地で続けていきたいと思っている。

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