「降板?」代打から掴んだ食レポ中継25年目の『旅サラダ』卒業「悔しさも怒りもない」ラッシャー板前の「本音」
土曜朝の顔として25年もの間、ABCテレビの名物番組『朝だ!生です旅サラダ』で全国の「おいしい」を届けてきたラッシャー板前さん 。長く続けていただけに突然、卒業を告げられた胸中はどんなものだったのか。悔しさなどが湧いてもおかしくない場面で、ラッシャーさんの心に浮かんだのは「感謝」。代打で始まった仕事、チーム愛の言葉が溢れていました。
【写真】『旅サラダ』で25年食レポ続けたラッシャーさんが出張先で感動した見るからに美味しそうな「丼もの」(11枚目/全11枚)
25年続いた番組出演を卒業「告げられた時は…」
── ラッシャーさんといえば、『朝だ!生です旅サラダ』で食レポをする姿が印象的です。25年にわたり担当した番組からの卒業を告げられた時はどんな心境でしたか。
ラッシャー板前さん:ずーっと、週末に『旅サラダ』の中継をする生活が続いていて、番組が1週間の中心。曜日感覚もそれでつかんでいたからね。だからもちろん寂しいし、しばらく呆然としていましたよ。
── ふつうなら、「なんでだよ!」とがっかりしたり、腹を立てたりしてしまいそうです。
ラッシャー板前さん:どちらかというと、「世代交代のときがとうとう来たか」という気持ちが大きかったかな。そもそも中継をやるようになって10年経った頃から、「来年あるのかな、ないのかな」って、心のどこかで覚悟はしていたかもしれない。それからは1年また1年と、「いつ『卒業』と言われてもおかしくない」と思いながら積み上げてきました。
ラッシャー板前さん:事務所もそれをわかっていて、「番組側からではなく、うち(事務所)から卒業について告げます」と気を使ってくれて。
事務所以外からもいろんな声をいただきました。ラジオ番組で大物芸人の方が「俺『旅サラダ』が好きで見ているんだけど、ラッシャーが卒業するらしいんだよね。寂しいよね」と言ってくれたり。番組卒業後も、他のロケ仕事などの行く先々で、街の方から「いつも見ていましたよ、寂しいですね」って。それもこれも、25年もやらせてくださった番組のおかげです。ありがたい、それに尽きます。
── そういう気持ちで接していると、卒業後も番組サイドと良好な関係を築けるでしょうね。
ラッシャー板前さん:番組の共演者とは卒業旅行をしました。その後も番組でスペシャル企画があるときなんかは、呼んでもらったりもしていますよ。
「代打」からつかんだ食レポ中継の仕事
── 25年続いた『旅サラダ』の中継ですが、最初は「代打」としての登場だったそうですね。
ラッシャー板前さん:そうなんですよ。もともと中継担当はたけし軍団の松尾伴内がやっていたんです。彼が舞台出演で番組に出られない時期があって、その代役として松尾が俺を推薦してくれたんです。それ以前に別番組で、松尾とふたり旅みたいな企画をやったことがあって。俺は生ものを食べるのが平気だけど、松尾は得意じゃない。いい感じで役割分担できたんです。旅サラダって漁港の中継も多いから、「ラッシャーなら生ものをおいしそうに食べるよ」と、推薦してくれて。
── 代打から一転、松尾さんとレギュラーを交代することになって、気まずくありませんでしたか。
ラッシャー板前さん:もちろん気まずかったですよ。仕事を奪っちゃったみたいなもんですから。レギュラーへの抜擢を知らされたとき、黙っていてもいずれバレるし、「だったら先に自分から説明しよう」と思って。番組や事務所から伝える前に、「俺から松尾に言わせてくれ」とお願いしました。
「4月からは俺が中継をやらせてもらうことになった」と松尾に伝えたら、「いやいや、いいよ。絶対、俺よりラッシャーのほうが向いてるもん。だから俺が行けないときにお願いしたんだよ」って。「4月からがんばりなよ」と励ましてくれました。あれは泣けましたね。
── そこから25年。ご本人としては、始めた頃から長く続く予感は?
ラッシャー板前さん:全然なかった。数年で終わるものだと思っていました。松尾も「自分は1年だったし、ラッシャーもせいぜい3年ぐらいだろう」と、思っていたみたいです(笑)。でも、気がついたら25年。会うたびに松尾が「見てるよ、いつも」と、言ってくれてました。
食レポでの「決めセリフ」を作らなかった訳
── 長く続けるために、意識していたことはありますか。
ラッシャー板前さん:食レポでの決めゼリフはあえて作りませんでした。決めゼリフがあるとおもしろくなるのでしょうが、一度それが受けたら次からそれ以上のインパクトを求められるようになり、毎週の番組でそれをやるのは大変です。逆に、「また同じこと言ってる」って、思われる可能性だってある。だから俺は、飾らず、ムリせず、その場で感じたことをそのまま伝えるほうを選びました。
── とはいえ、ただおいしそうに食べるだけではないですよね?
ラッシャー板前さん:スタジオの人たち、そして視聴者の皆さんに「うらやましい!」って、思わせることを目指していました。わざと「もったいなくて食べらんない。まだじっくり見ていいですか?」って食べる前にじらしたり、カメラにおいしそうなところをひと口分さしだして、「あーん」って見せびらかしたり(笑)。スタジオの皆さんに「今日も腹立つね~。もうそろそろ締めて」なんて言わせたら成功です(笑)。
中継では、撮られ方も意識していましたよ。「今何を撮っているか」を意識するんです。例えば、海鮮丼の食レポで、「完成品を見せる」「最初のひと口を食べる姿を見せる」映像を撮るとします。その段取りがカメラマンと僕とで共有できていないと、海鮮丼を僕が食べる瞬間に、カメラが「別に用意しておいた完成品」を撮ってしまっていたりするわけです。そうすると、いちばん見せたい「最初のひと口」の映像が抜けちゃう。
だから、「完成品を別に用意するのはやめてください。僕が全部見せますから」って、ディレクターさんにお願いしました。代わりに、俺が丼の中身をカメラに見せながら「甘エビでしょ、それからイカ、マグロ。あっ、ちょっと変わったのが入ってますね~。お母さん、これは何ですか?」って食材を全部紹介してから、食べる。そういう段取りをリハーサルでしっかりと打合せするようにしていました。
ただおいしそうに食べるだけじゃない。ほかの人の食レポも参考にしながら、「視聴者を悔しがらせる」中継を目指していたんです。
── 食レポひとつに、たくさんの工夫を積み重ねる…、その誠実さが現場で長く愛される秘けつだったのですね。
取材・文:鷺島鈴香 写真:ラッシャー板前、株式会社TAP

