実は年収の高い「中間管理職」が多かった…！「実証研究」でわかった「炎上」に書き込んでいる人の「肩書」
そもそも実態はあるのか。どんな奴らが書き込んでいるのか。インフルエンサーはなぜたきつけるのか。燃えた人の恐怖はいかほどか。令和の社会現象「炎上」のすべてを徹底取材で明かす。
前編記事『1日に4件「炎上」が起きているが実際に書き込みをしているのは「2万人のうちの100人だけ」だった…！《実証研究》でわかった「炎上」に参加している人たちの「正体」』より続く。
炎上を起こす人たちの正体
炎上に参加している人の肩書を分析した結果、炎上に参加していない人のうち、「主任・係長クラス以上」の人はわずか18％しかいない。一方、炎上参加者のなかでは、なんと31％が「主任・係長クラス以上」となっている。
「だいたい『主任・係長クラス以上』の0・86％の人が炎上に参加していることになります。120人に一人という割合です。みなさんの周りにいる中間管理職を思い浮かべたとき、一人くらいはやたら攻撃的で、しょっちゅう人を非難している人がいないでしょうか。そういう人がネット上でも暴れていると考えられます」
肩書だけでなく、年収も関係している。炎上参加者と参加していない人で世帯年収の平均値を比較すると、炎上参加者の世帯年収は670万円であるのに対し、炎上に参加していない人は590万円。実は炎上参加者のほうが「裕福な人」が多いのだ。
「独身で教養が低く、ヒマを持て余しているネットのヘビーユーザーが、一日中パソコンの前で書き込んでいる……。炎上参加者にそんなイメージを持っていた人も多いかも知れません。しかし実際には、社会的地位がある程度高く、少し裕福な人のほうが炎上に書き込みやすいのです」
積極的に書き込む中間管理職
東京五輪のエンブレムデザインに盗作疑惑が浮上した「佐野研二郎パクリ事件」（'15年）や「ベッキー不倫騒動」（'16年）など、「有名炎上事件」を横断的に調査した結果、炎上参加者が過激な投稿をする理由も見えてきた。
「炎上参加者の理由で多いのは、『（対象が）許せなかった』あるいは『失望したから』といったもの。つまり、炎上参加者は正義感から書き込みをしているということです。こういった正義感型の人は、炎上1件あたりの書き込み件数が増加する傾向にあることもわかっています。一方で、『自分も参加すべきだと感じたから』という便乗型や『楽しいから』『ストレス解消になるから』といった理由は少数でした」
この結果に、前述した「主任・係長クラス以上」「年収が高い」などの属性をかけ合わせると、炎上の構造が見えてくるという。
「こういった属性の人は、政治やジェンダーなどさまざまな問題に対しある程度知識が豊富で、確固たる信念を持っている場合が多い。そして、情報への感度も高い。そういう人が、自分と考え方の違う人に対し批判を浴びせる。それが、炎上の『正体』と言えます」
炎上は極端な意見を持った一部の人たちによって引き起こされていることはわかった。では、なぜそれが、まるで大事件かのように取り沙汰されてしまうのか。背景には、「メディアによる拡散がある」と山口氏は語る。
サザエさん不謹慎事件
「象徴的なのが、『サザエさん不謹慎騒動』です。'20年4月26日に放送されたアニメ『サザエさん』は、磯野家がGWにレジャーに行く計画を立てるという内容だったのですが、当時はコロナ禍で多くの人が外出を自粛していた時期だったため、『不謹慎だ』と炎上してしまった。
しかし実際には、放送中や放送直後にこの内容を問題視する人はほとんどいませんでした。ある研究者の分析では、批判的な投稿は11件しかなかったそうです。それをメディアが取り上げたことで、一気に拡散してしまった。このように、一部の過激な投稿をメディアが『炎上』として報じることで世間に認知され、炎上が広がってしまうケースが近年は増加しています」
最近の炎上の特徴は他にもある。それは、炎上の端緒となるSNSは圧倒的にＸ（旧ツイッター）が多いということだ。
ユーザー数が多いことに加え、1投稿で140文字しか書けないため、読み手側に誤解が生じやすいとされているが、理由はそれだけではない。慶應大学メディア・コミュニケーション研究所教授の津田正太郎氏が言う。
「実証研究からも、Xは感情に訴えかける構造のメディアであることがわかっています。ユーザーが怒りに任せた投稿を繰り返しやすく、しかも、アルゴリズム的に『話題』になっている内容が拡散されやすい。X上の『おすすめ』欄に表示された内容を見て、『けしからん』と思う人が加速度的に増えていってしまう」
なぜXは炎上しやすいのか
津田氏は、自身も炎上した経験を持つ。'20年に人気アニメ『銀河英雄伝説』について、〈男女役割分業の描き方は変更せざるをえない気がする〉という感想をX上に投稿したところ、批判を浴びたのだ。
「私の専門はメディア研究なのですが、社会学者とみなされてしまいました。Xユーザーのなかには社会学者を『アニメ作品の表現規制に加担する悪の急先鋒』と捉える人たちがおり、彼らの怒りを買ったのです。
私自身の体験も踏まえたうえで近年の特徴として挙げられるのは、対立構造にはまったトピックが炎上しやすいということです。たとえば、ジェンダー論は左右、格差問題は上下の対立を生むため炎上しやすい。
また、炎上参加者が『怒り』から投稿していることは研究から明らかになっていますが、背景には『被害者としてのポジションを求める人が増えた』こともあると考えられます。自分たちは不当な扱いを受けている被害者であり、加害者から虐げられていると感じていることが、極端な意見につながっているのでしょう」
そして近年は、彼らをたきつけるインフルエンサーまで登場。なぜ彼らは、「炎上」に薪をくべるのか。
続く２章『「スパチャ5000万」「年収１億」でも「国税とは戦いたくない」…「炎上で食ってる奴ら」その正体と人生』では、その内実について詳述する。
「週刊現代」2024年11月9日号より
