トランプ圧勝の背景…Z世代男性を取り込んだ「意外なSNS活用」とは? 再選で真価が問われる石破首相の”交渉力“

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11月5日投開票された米大統領選で、共和党のドナルド・トランプ前大統領が当選した。直前まで”まれに見る接戦“と言われたが、蓋を開けてみると民主党のカマラ・ハリス氏にトランプ氏が圧勝。大統領の座に返り咲いた。

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女性の権利を訴えたハリス、トランプは男性が支持

トランプ氏の勝因はなんだったのか。『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書 700)などの著者で国際政治学者の三牧聖子氏が解説する。

「アメリカ全域で関心の高かったインフレ経済対策、不法移民問題に対し、トランプ氏は”アメリカファースト”を貫きました。『労働者を守るために関税の引き上げを行い、不法移民問題に対しては国境の壁を作る。さらには強制送還をする』と主張したのです。

ハリス氏も、有権者の意向を察し、不法移民問題については『厳格な国境整備をする』と訴えかけた。しかし、トランプの二番煎じに過ぎず、インフレについてはバイデン政権の副大統領として、まだまだ物価高を抑えられていない現況を問われた。そうした批判に応え、バイデン路線とも異なる説得的な政策を打ち出すことができなかったのです」(国際政治学者・三牧聖子氏、以下同)

結果、ハリス氏は選挙戦終盤では政策を語るよりも、中絶を“女性の権利”として強く打ち出すことと、”民主主義の危機”を争点にしていった。

だが、国民が最も関心を寄せている不法移民問題、インフレに対する明確な政策が語られないことに有権者は不信感を募らせていった。

「トランプ氏への懸念は拭えないものの、『不法移民、インフレをハリスさんが解決できるの?』という疑念から、トランプ氏に票を投じた人はかなりいるでしょう。

ヒスパニック系(スペイン語を話す移民)の票も多く流れました。それは、合法的なステータスを獲得するために、正式な手続きをふみ、時間をかけてきた合法移民だからこそ、不法移民への厳格な対策を求めたのでしょう」

ヒスパニック系には、元々民主党支持者が多いのだが、三牧氏は「出口調査を見たところ5割超がハリス氏を支持したのに対して、トランプ氏も約4割の支持を得ており、ハリスさんを追い詰めている現状を目の当たりにした」と話す。

さらに男性たちがトランプ氏支持にまわったことも大きい。

「トランプ氏は、世界で最も稼ぐポッドキャスト配信者ランキングで広告収入1位を獲得するジョー・ローガンの番組等に頻繁に出演。コアな聴衆が男性という番組に出演し、支持を得られるように働きかけるなど、保守的な黒人の男性や若い世代の男性たちを取り込むことに成功した」

トランプの勝因はS N S?

2020年にバイデン氏がトランプ氏に勝利したときは、若者票については20ポイント以上の差をつけたが、ハリス氏は今回、そこまで圧倒的な若者支持を勝ち取れなかった。これはメッセージングのうまさやSNSの使い方にも原因がありそうだ。

「トランプ氏は、現代的な手法を使ってZ世代の若者の男性票を取り込みました。

Xのような、不特定多数が自由に見られる開放性の高いSNSだけでなく、特定の視聴者向けのPodcast、Xよりユーザーも少なく、その分、不特定多数にさらされることを躊躇われるような内輪向けの発言もしやすいSNSもうまく使っていた。たとえば、Reddit、Discordです。これらも利用し、若い有権者たちとより近い距離感でコミュニケーションを取っていた」

一方、ハリス陣営は、ビヨンセ、レディー・ガガが終盤に登場し注目を集めたが……。

「そういう著名セレブリティーがどれだけ有権者の票を動かすのか?というところには疑問符がつくところ。トランプ陣営のほうが、どういう層を獲得できるのか? ターゲット層をより絞り、効果的なメッセージングをしていた側面を感じます。それが勝因のひとつではないでしょうか」

トランプ氏の再選という結果がでたところで、気になるのは日米関係である。

石破茂首相は、6日夜に会見を開きトランプ氏への祝意に加え「トランプ氏と連携を密にしながら日米同盟、日米関係をさらなる高みに引き上げていきたい。トランプ氏と接点を早急に持つべく努力していきたい」と日米関係のさらなる強化への思いを語った。

しかし、一筋縄ではいかなそうだ。

「日米の間に“蜜月”をつくりあげた、安倍晋三元首相、トランプ氏の外交が当然想起されるでしょう。石破氏としてもいち早く面会したいところだと思います。

ただ、8年前とはアメリカを取り巻く国際環境は随分変わっています。

1年以上、パレスチナ自治区ガザで多くの犠牲を生みながらもイスラエルへの軍事支援を続けてきたアメリカへの批判は、世界的にも高まっています。

また、南半球の新興国を中心とする“グローバルサウス”と呼ばれる諸国家の存在感が増し、欧米への非難の声が増幅しています」

日米“蜜月”関係の構築にばかりに意識を向ける行為は、日本も国際社会で孤立する危険性をはらんでいるようだ。

宣言通りロシアとウクライナの停戦なるか

世界的情勢が揺れる今、日本はどのように動くべきなのか。

「日米関係は重要です。石破氏は日米地位協定の改定を掲げてきましたが、トランプ氏を前に、どのように水をむけるのか。石破氏の交渉力が問われます。今後、トランプ政権では貿易政策として日本を含む外国から輸入される製品に原則10~20%、中国には60%の関税をかける方針と言われています。

また、IPEFなどの国際協調の枠組みからの離脱の意向を示すなど、反国際協調の姿勢を強めていくとみられます。

原理原則もなくアメリカに追随せず、どのように国際協調を打ち立てていくか。ときに、アメリカに粘り強く国際規範を守るように訴えるような外交も必要でしょう。交渉力に加え、構想力も問われそうです」

かつてのように、アメリカ協調の名の下で、アメリカを全肯定していればいい時代は終わったのだ。

「『日米同盟は不公平だ』というのがトランプ氏の持論です。トランプ政権は、防衛費について、GDP比3%かそれ以上を求めてくるとも言われています。強まる要求に、日本としてどう対応するのか。早速、問われる局面が訪れるかもしれません。

それに応じるのか、ということを日本も石破氏任せにはせず、国民を交えて議論をしていく必要があります」

今後、前述の貿易政策のほか、環境対策も気になるところだ。バイデン氏が注力していた、EV=電気自動車推進の政策について、トランプ氏は批判的な発言をしてきた。継続するのかは不透明である。

また、トランプ氏はエネルギー価格引き下げのために、石油や天然ガスなどの化石燃料の増産を支援し、海外への輸出を増やす考えを示している。

そして、最も注目されるのが「就任する前に解決をする」と提言していたロシアとウクライナの停戦へ向けトランプ氏がどのような動きを見せるのか、である。

三牧氏は、「まだ読めない。トランプ氏がどのように動くのか未知数です」と言う。

勝利宣言の演説で、戦争の終結を語り「約束をすればそれを守る」と繰り返していたトランプ氏。その言葉を信じ、動向を見守っていきたい。

取材・文/山田千穂 写真/shutterstock


三牧聖子
同志社大学大学院准教授。1981年生まれ。米国政治外交史、平和研究。著書に『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)など。共著に『私たちが声を上げるとき』(集英社新書)がある。